マガジンのカバー画像

村崎懐炉現代詩集

28
現代詩をまとめました
運営しているクリエイター

記事一覧

現代詩「夜汽車が/枇杷、海岸道路から」

「夜汽車が」

僕の鼻の穴から
夜汽車がやってきた
ま黒い夜汽車は
前照灯を光らせて
汽笛を鳴らす

僕は慌てて鼻を抑える
鼻を抑えると
今度は反対側から夜汽車が出てくる

軌道を走る鉄輪が
陰鬱の金属音を立てて
周囲はその間 無音となった

夜汽車の
四角い窓ガラスが光っている
其処に乗客の後頭部が並ぶ
後頭部(帽子)
後頭部(禿頭)
後頭部(長髪)
老若男女の
すべからく
猫背に俯いて無言であ

もっとみる

「現代詩 おもむろに胸を」(未発表作)

「現代詩 おもむろに胸を」公表に寄せて

帰化植物ハタケニラと私の物語は「凶暴の花」
http://murasaki-kairo.hatenablog.com/entry/2018/10/30/201255
を参照されたし。

上述の如くに精々、庭の害草駆除を行いながら作られたのが本詩。
暴力的な詩のため公開を控えておりました。当時は気持ちも荒んでいたのです。とにかく書く作品がみな任侠になってまし

もっとみる

現代詩「テトラポッドは象なのだ」

テトラポッドの上に座って僕は
遠い水平線を眺めている
海岸線のテトラポッドの集積所には
付番されたテトラポッド達が
幾つも並んでいるのだ

テトラポッドは何処から
やってきたのだろうか
ある人は
砂の中から生まれたのだと言い
ある人は
宇宙から飛来したのだと言う

僕が考えるに
テトラポッドは象である
大草原を旅した象の一団が
海を超えてやってきて
終息して石になると
テトラポッドになるのだ

もっとみる

現代詩「鴉と夜と私は高層ビルから街を見下ろす」

場末のバーで
背中を丸めてプカプカしていると
夜の奴がやってきた
耳許で言葉 を囁くのだが
彼の言語はぬばたまに黒いので
ねばねば 粘る
気をつけねば
耳孔にタールが溜まる
のだ

夜の奴が口を開くと
濡れた鴉がでろん でろん 出た
鴉が地べたで蠢き慄く

飛べぬ鴉とはグロテスクなものだよ
飛ぶべきものが飛べぬとは
飛べねばならぬ
飛ばねばならぬ
それが鴉だ

その鴉は人間の目でまばたきして
私を

もっとみる

現代詩 「シラス」

暴風雨と共に降りしきる悪意
海洋埋め尽くす死体
死と死と死の間隙を
(死と死と死の間隙を)
生命が泳ぐまだ死んでいない
僕もね

神様が神様をころ■ことが大海原の本来で
すべてこわれてしまへばいいと無造作で暴力的な 姿

散骨された海塩が
土壌に染みていく僕の大事な根茎を(僕の大事な根茎を)蝕む結晶

遺灰で白くなった街 街?

僕の大事な青紫蘇の
爛れた黒死
の残骸
と僕
の根茎

ハッシュタグ

もっとみる

現代詩 「秋の海」

誰もいなくなってしまった
かいすいよくきゃくたちも
ぱらそるも
くらげも

砂浜に穴開けた蟹も
穴つついても何もない
其処此処の穴に
何もない

(先週の高波の日に海岸線は形を変えた)

漂着物も砂に埋もれて
波だけが知っている

砂浜に手首みたいな流木が突き出ている
それから鯨の背骨みたいな流木
と 戯れる犬みたいな流木

柔らかに鞣された命のかたち
ああ、これは僕の手だった

流木を並べて腰骨

もっとみる

現代詩 「ギヨタンの夢」

夢の中で仕事をしていて
上手にできないのが切なくて
目が覚めた
早く目を瞑り
再び仕事にとりかからねば
可及的速やかに
朝はもう其処まで来ている
夜を徹して職工たちは
今も慌ただしく労働している
だがしかし
無策に寝ても詮方ない
革新的な作業工程を考えなけりゃあ
斯うして起きた意味がない
其う 意味がない

ぬばたまの未明の閨に
胡座をかいて僕は
仕事の要領を考えた
ううむふむむと考える
だがしか

もっとみる
没ネタ祭「現代詩 鎌倉サンセット」

没ネタ祭「現代詩 鎌倉サンセット」

ペラペラのサーファーが由比ヶ浜に
浮いたりひっくり返ったり
僕は目が悪いのでそれらが棒人間に見える

渋滞に巻き込まれて
二時間余
僕は
生きることに辟易した
失望した

そんな苛立ちを
春の蜜柑にぶつけている

アーアー
本日は建国記念日なり
かつて神代の神武天皇が即位した日なり
これ紀元節なり
日本が滅びた日に慶事を喪くし
日本が再た主権国家の領分を得て
勝ち得た国民の祝日なり
建国を偲び

もっとみる

現代詩「首切螇蚸」

オトウタン、ミテヨ、ミテヨ
と子供達が楽しげに
走ってきて虫取り網を見せてくれた其の中に
居たのは小さな精霊螇蚸

網目に嵌って動けずにいる
頭部と胸部のクビレに
網が食い込み
前に進まず後ろに退かず

僕は

モウ此レ取レナイヨ
と子供達に言うのであった
「取レナイ」から
捕虫網を仕舞うためには
螇蚸の首をもぎって捨てるしか

ナイ

子供達は「取レナイ」

意味が分からず
未だ煌々と自分た

もっとみる

現代詩「増殖する胡瓜」

「胡瓜の細胞分裂について」

胡瓜はユーグレナ目ユーグレナ科に属する単細胞生物である
長短一対の鞭毛を用いて水中を悠々と泳ぐ
夏の日差しを葉緑素に浴びて光合成を行う
例えば渓流で あなたは
しなやかに泳ぐ胡瓜の姿を見つける事ができる

胡瓜は而して分裂する
多くの単細胞生物がそうであるように
夜になると胡瓜は人知れず分裂行動を起こすのである
鞭毛の基部から二つに裂けて
胡瓜AとBという二人格に分か

もっとみる

現代詩「フライパンに捨てられる」

フライパンを捨てる
お前を
実家のフライパンを捨てても捨てても
戻ってくる台所に
母が
捨てた筈のフライパンを拾って来てしまう

フッ素加工が剥げた鉄製のフライパンは重くてそのくせすぐ焦げる
にんじんにころもをつけて
揚げ焼こうと思ったら焦熱地獄
黒鉄に張り付いたまま焦げていくにんじんたち悲鳴をあげている
フライ返しも歯が立たず僕はにんじんを助けられない
だから僕はフライパンを
お前を
捨てるのだ

もっとみる

没ネタ祭「現代詩 黒衣の鳩」(未発表)

没ネタ祭開催中!
下書きフォルダの未整理品お寄せ下さい!
未発表、未完成に纏わる個人的事情即ち物語をお聞かせ下さい。
という訳で、まだ続いている没祭。
(わっしょい)
秋の詩を蔵出しします。
立体駐車場の屋上階で鳩を見ながらコロッケを食べる詩です。
鳩の鳴き声を模写して、ポストモダンの思想家の名前等が無意味且つ無目的に列挙されます。取り敢えず「鳩の鳴き声」が「ボロブドゥール」と聞こえます。が、この

もっとみる

現代詩「LIFE」

一「半丁」

私の命に値段が付いている
その値段は私自身が決めていて
掛け金を高くすればするほど
私の命の値段が上がる

さあ賭けないか 賭けないか
賭場の男が
私の命を壺に入れて

生死を出目になぞらえて
毎日壺が振られている

ニ「消化管」

一本の消化管である私が
しょろしょろ稼いできた
マネーを泥にして
食べる量と排泄する量と

しょろしょろ残ったマネーは
消化管である家族に分配されて

もっとみる
現代詩 ひさかたの

現代詩 ひさかたの

病気がちな九十八歳の祖母と
病気がちな二歳の子どもが
目を交わして
微笑み合っている

祖母は思い出したように
昨日の出来事を話し始めるが
その話を聞くのは
今日にして三度目だ

それを二歳の子どもがが
にこにこと
聞いている

だが
二歳の子供は言葉が分からず
祖母の話は理解できぬ

幾度も繰り返される
和やかさの真ん中に
私は立っていて
自らの不機嫌性を恥じる

二歳の子供は
大人ぶって得意げ

もっとみる