眠れぬ夜のアイキャッチ_猫-01

猫【TheCat】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー

noteユーザー様の生み出す数々の作品を新旧問わず愛でる会。「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」です。

(民話ブログさんの作品を追加しました。20190408)

noteユーザー様は皆さんがクリエイターです。数多のクリエイターによって毎日膨大な作品が生み出されております。作品を鑑賞する側はタイムラインを追うのが精一杯でおざなりな鑑賞をしがちでも、作者からすれば、願わくばどなたかの手元に置かれて二度三度と目を通して頂きたい。そんな思いで作品を作っている筈です。
この企画はタイムラインに埋もれてしまった良作を発掘し、クリエイターの存在理由を見つめ直すためにあります。

さて2019年4月号のテーマは「猫」でした。
「猫の作品は沢山あるから作品の発掘も楽だにゃー」と余裕に感じておりましたら、大誤算でございます。
沢山あり過ぎて「収拾つかないにゃー」!

等など混乱を来しつつ、なんとか4月号もまとまりましたが、本号の誌面の都合で掲載する事が出来なかった良作が多々、多々ございます。全く私の力不足でございます。

アンソロジーはこちらから

「猫【the Cat】」目次

01 『どうぶつゆうびん局へようこそ! はしもとみおの木彫の世界』を観た(2018/9/9) shino
02 少女詩集「猫と百匹のうさぎとお月様」ムラサキ
03 レビュー「名古屋の奥西菓折さんが凄いという話」ムラサキ
04 イマネコ「一日遅れのにゃんにゃんにゃんの日に捧ぐ」 望美
sp ルポ 「場末の猫 猫のいる風景」民話ブログ
05 小説「窓を見る猫」 アセアンそよ風
06 詩 「ねこ」 くにん
07 漫画「ネコ使い(ミョーチキリン日記♯58)」MAYBECUCUMBERS
08 漫画「僕んちの猫」 かねきょ
09 写真「猫の食事」 くにん
10 小説「それでも猫は歩く」  クマキヒロシ
11 漫画「猫に寿命を分ける話」 電気こうたろう(イエ・ネコゾウ)
12 写真「猫召喚」 kaeruco (蛙グルーヴ)
13 小説「 ぼうやとシロヒゲ まんまる祭り」 アカネ
14 手芸「赤い化け猫」 どうぶつようかい
15 小説「ねこじゃの書斎」 tmk
16 4コマ漫画「おはぎ」アライグマせんせー
17 小説「ねこはどこへいった。」 ウネリテンパ
18 連載漫画「猫の想い」 いまこ
19 ブルース「みんなと幸せになりたいのです」 ノート
20 イラスト「野外劇場にて」 ハートヘッド(イラスト)

アンソロジーはこちらから

猫【The Cat】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー|murasaki_kairo|note(ノート)https://note.mu/murasaki_kairo/m/md7cdc41ac256

「猫【theCAT】」解題

01 『どうぶつゆうびん局へようこそ! はしもとみおの木彫の世界』を観た shino

彫刻家「はしもとみお」さんの展示会に行ったshinoさんの見学記事です。レポートを読むとき対象になっているものばかりに目が行きがちですが、レポートの良し悪しってあります。魅力が伝わる内容になっているかどうか。
是非はあるでしょうがレポートがオリジナルを越えて魅力的である事もあります。
shinoさんの記事から「はしもとみお」さんの魅力が存分に伝わってきます。
私はこの記事で初めてはしもとみおさんの事を知りましたが、同じ展示会があれば行ってみたいと思いました。
出不精で頑固な私が揺らぐほど、魅力的なレポートなのだと思います。

さて、今回のアンソロジーは「猫」です。皆様、猫について向き合うご準備はできておりますか?
shinoさんがご紹介する木彫りの猫には猫が猫たる可愛らしさが凝集されております。本アンソロジーもまた、そのようなものになっていれば良いのですが。企画の原点が「眠れぬ夜の奇妙な話(ネムキ)」にありますので怪奇趣味に偏るのはご愛嬌。

それでは本編の開始でございます。

**

02 少女詩集「猫と百匹のうさぎとお月様」ムラサキ**

本編の開始は私から。普段、照れから自分の作品についてあまり語ることをしないのですが、本作についてはコメント欄にて大いに語りました。語りきらせて頂きました。ので、解題は例の如く割愛。

**

03 レビュー「名古屋の奥西菓折さんが凄いという話」ムラサキ**

そして次の作品もクレジットは私です。私ですが内容はnoteユーザーのtetsuさんの作成された「シンガーソングライター奥西菓折」さんのミュージックビデオの紹介文です。タイトルの通り奥西さんは素晴らしいんだ、という内容です。皆様も曲を楽しむとともに何処に猫が登場するか、探してみて下さい。

04 イマネコ「一日遅れのにゃんにゃんにゃんの日に捧ぐ」 望美

人気ユーザーの望美さんの写真です。「にゃんにゃんにゃんの日」とはいつだか分かりますか?
猫の日を記念してサンマに大根おろしの猫をつけておられます。この丸い造形が見事ですねえ。
我が家は大根おろしを滅多に食べない家ですが、出た日には私もアートに挑戦して食卓の人気をさらっていきたいと思います。
造形だけでなく醤油の彩色がポイントです。絵心のない私にも出来るでしょうか。

spルポ「場末の猫 猫のいる風景」民話ブログ


場末に漂う哀愁は文学の糧です。
民俗学的名所を求めて全国をフィールドワークされる民話ブログさんは大変に行動力のある方です。
小説家は自分の心の中に異郷を求めて創作活動に沈降していきますが、民話ブログさんは外界に異郷を求めて旅する人です。
行動のためにはアクションポイントが必要で、課金アイテムを購入したり、深夜一時に切り替わる翌日シフトへのスライドを待ったりと何処かでアクションポイントを補充しなしなければなりません。ソーシャルゲーム以前の旧時代的な感性でいえば宿屋で休息したり、落ちてるパンを拾って食べたりとかですね。
民話ブログさんにとって、ロマン行動のポイントを回復するスポットが場末なのでしょう。場末はどこにでも存在します。高架の下に地下に路地裏に。下卑た客、無愛想な接客、手抜きの料理。(民話ブログさんの通うお店はもっと上質な気もします)
我々の持つ電気回路は一方向に向って直流できません。内向と外向の双方向に交流する事で新たなエネルギーを生み出しています。
民話ブログさんにとって、フィールドワークと同一線上の対極が場末なのでしょう。
場末は行動学の火照りを冷まし、力を蓄える場所なのです。
文章の中では電脳空間と現実世界の2つの猫を対比しています。電脳世界(の、更に場末)も場末もどちらもフィールドワークの対極となる場所です。その双方に奇しくも猫がいる。同じ猫の電子変換かもしれないし、違う猫かもしれない。そもそも猫なるものは皆、存在性を一にしているかもしれない。
と、場末の飲み屋では異次元思考が始まるものです。
民話ブログさんと場末と猫のお話です。冒険と呼んでも差し支えない飛躍的思考回路をお楽しみください。(猫の写真が素晴らしいです。)


05 小説「窓を見る猫」 アセアンそよ風

東南アジアに造詣の深いアセアンそよ風さんです。「シャム猫」を主人公にした小さな猫物語を描き下ろして下さいました。
シャム猫の本場はタイです。シャム猫は王族しか飼うことが許されなかった高貴の猫なのだそうです。その温室育ちのシャム猫が大人になって一歩を踏み出そうという物語です。
それは王子であったゴータマ・シッダールタが王宮から外に出て四門出遊に遇するが如きの大いなる一歩です。
踏み出すか出さないか、と逡巡する猫さんが「猫らしくて」和みます。猫って用心深くて恐る恐る動きますよね。また一歩を踏み出したその後の展開もまた見ものです。リアリティある描写でした。

**

06 詩 「ねこ」 くにん**

猫が主人公路線はまだまだ続きます。今度はネムキ派の守護神くにんさんの「詩」です。
此方もまた先程のアセアンさんの作品のように猫の本質に迫られているかに思います。
猫の主観をなぞっていくうちにいつの間にか猫になれますよ。
猫は小さな体でたった一人で世界に向き合っています。誰かを頼る事、省みる事はありません。臆病さ、慎重さはその重圧から来るのでしょう。

07 漫画「ネコ使い(ミョーチキリン日記♯58)」MAYBECUCUMBERS

漫画集団のMAYBECUCUMBERSさんが猫にまつわる作品を提供して下さいました。MAYBECUCUMBERSさんの「ミョーチキリン日記」は主宰のETSUさん、KOSEさんの周辺に起こった妙な出来事を漫画に起こした回顧エッセイ漫画です。ホラーありロマンスあり、???ありと毎度楽しませてくれます。
漫画は時系列的にランダムに作られています。そのため出来事を時系列順に並べなおした「時系列目次」が作られています。この目次内に登場人物紹介もあるので「ミョーチキリン日記」に深くはまりたい方には必携の入門書となっております。

さて、今回紹介されたエピソードはETSUさんのクラスメートのトシさんの話です。特異な筋トレなどの奇癖を持つトシさんですが、彼は仲間思いな優しさと良識に満ちた頼れるナイスガイでもあります。そのトシさんは「ネコに好かれるネコ使い」という側面も持っている・・・とのことですが。
ささやかな日常風景がETSUさんの独特の語り口調とイラストタッチによって黄金の青春秘録に転じていきます。

08 漫画「僕んちの猫」 かねきょ

noteの人気ユーザーのかねきょさんです。この度、猫の漫画を描き下ろして下さいました。大変光栄です。かねきょさんの描かれたのは「僕」の飼う黒猫です。有態(ありてい)の猫ですが、漫画の中では擬人化されています。
この描写故に有態でありながら有態に非ず。肉感的、扇情的、官能的な漫画になりました。つまり猫という存在は官能なのです。
かねきょさんの猫が可愛らしい「黒猫」なので、私の思索はイタリア童謡の「黒猫のタンゴ」に飛躍します。「黒猫のタンゴ(伊原題:Volevo un gatto nero)」は日本では1969年に皆川おさむのデビュー曲として発表されました。たちまち話題となってオリコンでは14週連続1位を記録しています。作詞はNHK放送作家であった見尾田瑞穂さん。
「君は可愛い僕の黒猫 赤いリボンがよく似合うよ」
「だけど時々 爪を出して僕の心を悩ませる」
大人のための童謡として発表されたこの曲には男女の痴情が集約されています。
ここまで書いて少し気になって外国語を調べると「猫」は男性名詞である国が多いそうですね。猫って女性っぽいけどな、と思っていたら。殆どの国で猫の女性名詞系が用意されているそうです。そして、猫の女性名詞形は大概卑猥な意味も併せ持つという。猫という言葉が卑猥すぎて、わざわざ男性形で使うようになったとの解釈で宜しいでしょうか。
私事ですが我が家の庭にも隣家の黒猫が頻繁に出没します。太った黒猫で「マダム」と呼ぶに相応しい貫録を備えております。ふてぶてしい事この上ない。そして懐かない。でも頻出する。猫との関係づくりは悩ましきこと!

09 写真「猫の食事」 くにん

前出の猫の「詩」を書かれたくにんさんが偶然撮った猫の写真です。最近カメラを買ったというくにんさん。私が知る限り撮影した写真をnote上に発表するのは初となります。記念すべきデビュー作品です。
丁度、アンソロジーの順次で言えば一つ前がかねきょさんの黒猫に餌をあげる話です。餌を食べる猫がまとう緊張感が見えるようです。
「近付いたら逃げるわよ」
「邪魔しないでよ」
と。例えそれが人から与えられた食事であったとしてもその緊張感を雪溶かすには相応の奉仕と時間が必要です。

10 小説「それでも猫は歩く」  クマキヒロシ

クマキヒロシさんの社会派小説です。近接未来の日本は外国人が多く流入し多人種国家となっています。国内企業の競争力が低下し、次々と外資に買収され日本人のアイデンティティは残されていない…ように見えます。
そうした時代の潮流にながらう力動と背反する力動が拮抗しています。その狭間を歩くのが猫。
未来の設定にリアリティがあります。SFを書こうとすると設定の説明だけで相当のページ数を割くような冗長の作品もありますが、本作は設定に溺れる事なく簡潔にまとまっていて面白く読むことができました。設定と人格が力動的に絡み合って物語を生み出していく。巧みなストーリーテリングです。
揺れ動く対流の狭間にいる猫の存在が際立っています。やはりこれも先から前述される猫の猫たる特徴「我関せず」を上手に使っているからなのでしょう。リアリティがもたらす迫力に満ちた作品となっています。

11 漫画「猫に寿命を分ける話」 電気こうたろう(イエ・ネコゾウ)

イエ・ネコゾウさんの「猫に寿命を分ける話」と言えば、長らくネコゾウさんのトップタイトルに、なっていた冠作品で、その作品がこの度、新たに描き直されておりました。
冠作品だけにネコゾウさんの作品の中で最も人気のある作品です。
形而上絵画派の代表たるジョルジョ・デ・キリコは不安を表すために敢えて遠近感を歪めて作品を描いたと言います。また坂本龍一が戦場のメリークリスマスを弾いたとき、やはり狂気を出すためにピアノの調音を故意に狂わしたと言います。
ネコゾウさんの描く人物はコマとコマで縮尺が異なります。同じ人物が空気人形のように、膨らんだり萎んだりする。骨格も見当たらない。頭が伸びたり縮んたりする。時に遠近感は無視され奥側の人物が大きく、手前の人物は小さく描かれる。
前のコマからインプットされた情報が無意識下でズレを生じ続けるうちに我々の不安は加速します。不安を抱えた我々は空気人形のように膨らんで物語の終局に向かっていきます。
「不安の作家」これが私の感じるネコゾウさんです。おそらくネコゾウさん自身が不定形であり、作品ごとに全く違う側面を見せつけて我々の認識を乱すのです。

**

12 写真「猫召喚」 kaeruco (蛙グルーヴ)**

毎日沢山のイラストを描かれるkaerucoさんです。毎日のイラストを私も楽しみにしております。
最近のインクで描く小さな女の子たちの冒険シリーズが特に好きです。
このシリーズにはインクで描き乱したモザイク様のキャラクターがいて、この黒雲から網タイツの女の子の足が生えている。かと思えばトカゲの尻尾が生えたり触覚が生えたり、黒雲モザイクの中身はクトゥルフ的で生物様が失われている。近付くものを吸収するブラックホールのようであり、その中には生物の進化の過程が全て含まれていて、それが足やら尻尾やらの形ではみ出している。
時に毛虫、時に龍。
そのような異次元の存在が登場します。
前出のネコゾウさんのようにまたこの存在も不定形。その不気味さが、可愛らしく描かれている。良いですねえ。
この度の作品はkaerucoさんの撮られた猫写真。
「召喚」というタイトルに相応しく、異次元感が出ております。
本アンソロジーは怪奇趣味に偏る所がございます。
しいて言えばこれまでは現世界の猫。これからは召喚されて現れた異次元の猫。
シフトを換えて参ります。猫にして猫にあらず、されどしっかりと猫である亜ネコ属の博覧会です。

**

13 小説「 ぼうやとシロヒゲ まんまる祭り」 アカネ**

「ぼうやとシロヒゲ」シリーズを書いておられるアカネさんです。シロヒゲはヒゲが白い黒猫です。人語を解する猫族の一員です。偶然知遇を得たぼうやとシロヒゲ。毎度平和なアクシデントに見舞われながら平和的解決を図ります。
私はこういう話好きですねえ。最近になって(!)初めて世界的な名著である「エルマーの冒険」を読みました。現実世界は思いがけず過酷です。だからフィクションの世界はこのように平和が良いのです。

**

14 彩色紙粘土「赤い化け猫」 どうぶつようかい**

どうぶつようかいさんは紙粘土の人形を沢山作っておられます。それをモデルにして外界にい出て写真に収めたりと、楽しそうなことをしておられます。その作品中に本キャラクターがいます。
張り子のあかべこのような赤い化け猫。
奇抜さと柔和さが同居した見事な造形です。是非皆様も丸みを帯びたボディラインをご堪能下さい。

**

15 小説「ねこじゃの書斎」 tmk**

tmkさんの小説です。文章の質感が高く安定感があります。構成もしっかりされていて、tmkさんは大変優れた書き手です。
テイストを変えながら種々の物語を発表されておりますが、猫又が登場する本話はほのぼのタッチのコメディです。
猫たちの凛としたキャッツアイを見つめていると、人間には計り知れない思慮深さを感じます。それはさながら路地裏に住む哲学者のようであります。
(ちなみに私は動物園の檻内のゴリラに同様の畏敬を感じます。ハンニバル・レクター博士や溝呂木博士に相対するような畏怖です。)
その思慮深い猫と心通じあえたらどんなに素敵でしょうか。
この話はそんな話なのですが、主人公にして家の家長たる私が「妻の実家で30年飼われていた猫、たま(この度猫又であったことが発覚)」と交わせる言葉は殆どありません(事情は本文をご参照下さい)。猫又であるので人語を解するのですがコミュケーションはほぼアイコンタクト。つまり普通の猫に接するのと全く同じなのです。猫又という突飛な存在でありながら、現実に深く重複する所に本話の魅力があります。可愛いですよ!
「しび」という猫又言語が登場しますが「しび」は江戸前用語でマグロの事ですね。そんな所にもまた愛着。

**

16 四コマ漫画「おはぎ」アライグマせんせー**

アライグマせんせーの描かれる不思議生物は猫であると思っておりますが、第一話の自己紹介で「違う」と自称していたので猫ではないのかな(アライグマかな)と思っておりました所、本話のコメント欄で「猫」との回答を頂くにあたり、ああ善かった事だと安堵した次第です。
アライグマせんせーの描く話はオチのオチないシュール的な展開も多くそれもまた私が好きな所でもあります。オチない四コマは得てして読者が孤立に立たされるものですが、アライグマせんせーの描く猫たちがあまりにも可愛いらしいのでオチなど無くても気になりません。愛でるという一点においてこれが一コマだろうと五コマだろうとさしたる問題ではないのです。つまりコマとは最終コマ(これが描かれるべき可愛らしさの極地である)に至る過程で、最終コマの可愛い猫が見られればそれがオチなのです。ああ可愛い。猫は。可愛い。アライグマせんせー猫たちの続きをお待ちしております。もうか私に猫を!

**

17 小説「ねこはどこへいった。」 ウネリテンパ**

軽々と美しい修辞を重ねる「独特の」文体でおなじみのウネリテンパ氏。noteに登場した頃の初期作品では手のひらサイズの黄色い象の小話を書いたりと実は可愛いものに目がありません。我々(ミドルエイジ)は皆、可愛いものに目が無いのです。
「見知らぬ男が戸を叩き、猫の絵を購えと誘う。」と始まるこの度の作品は最近の路線と少しく異なり、大正文学の香りがします。小道具も「三和戸」「風呂敷」「紙入れ」などと和風の小道具が並び、そして登場する額縁猫。この額縁の猫が実は生きているのではないか、そんなミステリーから物語が始まります。なんと魅惑的な設定でしょうか。

勿論、いつも通りのユーモアも健在です。
主人公が借りた金を使って酒を浴び、酩酊して迷い込む白昼夢の世界では、痺れた脳内に言葉が反響し、うわんうわんと響きます。

「レオロジィ的観点から申しますと、猫とは液体でありますます。」

その結果、語尾が重なるという奇跡の文体。「あります、ます」このいかがわしさと言ったらありません。こういった怪奇さの裏側で物語は進行していきます。なんと魅力的な世界観でしょう。
小説を書くとは単に粗筋を追うのではなく、文字通り世界を作る所作です。世界は設定、登場人物の他に「空気」から作られます。即ち雰囲気です。この独自の「雰囲気」を作ることに成功した作品は凄いですね。読むこと自体がトリップです。是非、皆様も話中を覆う雰囲気に浸ってみて下さい。
所で、この小説中、猫の鳴き声は「ねえねえ」なんですね。
なんでも日本語の「ねこ」の語源は諸説ありますが、「『ねえ』と鳴く仔」なので「ねこ」という説もあるようです。
また漢字「猫」は中国語の「苗ミャオ」に獣へんを充てたもの。「ミャオ」は猫の鳴き声です。これらから察するに現代の猫は「ミャオミャオ」と中国語式に鳴いていると言えそうです。

**

18 連載漫画「猫の想い」 いまこ**

note内で長期連載されたいまこさんの作品です。note編集部のおすすめに欠かさず取り上げられていたのでご存知の方も多いでしょう。
いまこさんの織りなす物語はよく練られていて、単なる起承転結で終わりません。設定や伏線、思惑が二重三重に折り重なって複雑な人間様を作り出します。模様で例えるなら比重の異なる油彩を水に浮かべて表面を梳き取るマーブル模様に似ています。
物語が進むほど複雑さは増して、展開が読めません。与し易しと思って読み始めたこの「猫の想い」も中盤から始まる混沌に決着が全く見えなくなりました。連載されていた当時はどうやって物語の収集をつけるのか大変愉しみに拝読しておりました。
これまで猫のことを自分勝手で奔放な性として扱いましたが、いまこさんの猫は全く真逆に描かれます。誰よりも気を遣い、誰かに寄り添わなければ生きて行けず、そして一途。概念としての猫らしからぬ猫なのですが、全く違和感は感じません。
猫は本来女性名詞であった所を、その淫猥さを秘匿するため謹んで男性名詞に変化させた諸外国語のように(私見です)、その淫猥さの奥にはかくも細やかな神経の猫性が隠れているのです。
誰よりも気を遣い、誰よりも平和を願う猫の姿が。
いまこさん流の猫の物語。どうぞお楽しみください。

19 ブルース「みんなと幸せになりたいのです」 ノート

いまこさんの「猫の想い」から引き続き、ノートさんのブルースです。文句なしに格好良いですね。「みんなと幸せになりたいのです」との歌詞は前話の「猫の想い」にぴったりです。となると俄然この歌が「猫的」に聴こえてくるから不思議です。
このアンソロジーを通じて、猫という生き物はひなたぼっこをしたり昼寝をしたり、鳴いたり。実に平和な生き物です。猫たちはひなたぼっこをしながら何を思うのでしょうか。もしかしたら誰よりも気を遣い、平和を願いながら「みんなと幸せになりたいのです」なんて考えているかもしれません。

その願いは猫ばかりでなく、本アンソロジーを読んで下さる皆様、そして私自身同じ願いを持っております。

**

20 イラスト「野外劇場にて」 ハートヘッド(イラスト)**

最後はハードヘッドさんの猫のイラストで終幕致しましょう。
タイトルは「野外劇場にて」。不思議な絵ですねえ。
場所は恐らく円形の野外劇場。その中央は本来舞台となる場所です。其処に積み上げられた家財道具。これらの道具は何処から持ち込まれたのでしょうか。舞台を飾る大道具でしょうか。その上に黙して座る猫の紳士。またその傍らに立って月を見る猫。月影が眩しいのか彼は雨傘をさしています。ソワレが終わった後でしょうか。野外劇場で行われた公演の余韻に彼らは未だ浸っているのかもしれません。静かな、しかし熱い夜です。血流が湧きたつような。
皆さんはこの情景にどんなストーリーを見出しますか?

本アンソロジーはこれで終わりです。ここに語られた猫の物語の数々。人が猫を想う時、其処には何があるでしょう。猫、猫、ねこ・・・。猫のように気ままに呑気に暮らしたいという思いでしょうか。
「猫はいいねえ、お前に悩みなんてないだろう」
と、悩みなき世を願い人は猫に物語を託すのかもしれません。しかし、忘れてはなりません。悩みのない者など真実おりません。
猫にしても然り。我々には分からぬ悩みを抱えているのです。
猫になりたい私達がふと其処に気付くとき、私達は互いに慮り平和形成を共助することに思い至ります。私達は猫らしく悩み、猫らしく助け合い、猫らしく祈りを捧げましょう。
日向ぼっこと微睡みに誓って。

末尾となりますが、本アンソロジーが皆様の心に一燈を灯し皆様が心地よい眠りにつかれますようお祈り申し上げます。

おまけ・・・

読者アンケートと次回テーマの募集

googleフォームが埋め込めるようになったので、読者アンケートを作ってみました。今回のアンソロジーであなたの好きな作品を教えて下さい。最大5つまで選択できます。あなたの「スキ」が素晴らしい作品制作のためのモチベーションにつながります。深く考えずお気軽にどうぞ!
あと!次回アンソロジーのテーマを決めたいと思っております。romの方でも歓迎です。書いてみたい、読んでみたいアンソロジーテーマをご記入下さい!

埋め込みフォームから入力できない方はこちら
https://forms.gle/k3X2PZLE8W9yLnD78

#ネムキリスペクト #小説 #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #猫