現代詩「ある聖夜」

台所のサンタクロースが溜息をした
溜息をしてから
プレゼントが
用意していた包装袋に
入らない事に気付いた

雪だるまの形をした包装袋は
腰の部分にくびれがあって
プレゼントがくびれにつかえて入らない

ああ と冷たい床の上で彼は嘆息した

サンタクロースの丸まった背中に
僕は手を添える

ねえ あなた
僕は言った

代わりの袋を探しましょうか

いいや
とサンタクロースは言った

無理に入れるから
良いのです

僕は言った
でも それでは
袋がひしゃげてしまいます

袋なんてどうだって
要は中身ですから

いいえ それでは
と 自棄になった聖人を慰めて
僕は言った
子どもたちの夢が壊れてしまう

夢 とは
決して中身ばかりの事ではない
だろう

あなたもその聖衣を失えば
サンタクロースとしての自明を失う

無言のサンタクロースを尻目に
僕は玩具箱から
お人形や宝石箱を取り出して
適当な袋を探した

しかし 適当な袋は見つからない
何処かに買いに行こうにも
既に深夜
開いているお店など

振り返ると

果たして
サンタクロースは消えていた

プレゼントは剥き出しにされていた

本が二冊とすごろくと お砂場セットが
台所の床ですっかり冷えていた

暗い台所には
鍋やら調理器具たちが
押し黙って凍えている

12月の夜空は
雨が降っていた

幼子たちは布団にくるまって
並んで寝息を立てていた
暖かで柔らかな布団

或る聖夜
そして
雪だるまの形をした包装袋

僕は物音を立てないよう
外に出て
深呼吸をした

(現代詩「ある聖夜」村崎カイロ)

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