現代詩「シラス漁」

海の青さを青と呼ぶには
言葉が足りない
岩礁の陰に
大陸棚に
海溝に
秘密を湛えた青なのだ

昨日から
シラス漁が解禁して
古豪のま白い船が何艘も
水引の後をつけながら進水している
船には老漁夫が乗っている
その子どもは昨日
家を出て
東京に行って仕舞った

水引は伸びていく
来るべく将来に不安を抱えて

海岸段丘の町には
老人ホームが竣工された
綺麗で清潔な最新の建物
住民たちは
いずれ
自らが腰掛けるかもしれない
機械制御のま白い便器に
怒るでもなく
嘆くでもなく
曖昧な笑顔を浮かべている

網には半濁の
稚魚たちが
側線を煌めかせながら夥しく
拿捕されている
眩い命の集合体である彼らは
曳網されて
水揚げされて
水産業者に売られて
釜茹でられて
スーパーに並んで
翌々日に半額になって
廃棄される

乾いて仕舞った魚たちは
押し黙って車に乗った

連れて行かれるのだ
彼らは

凪いだ海上に
水引は伸びていく

海の青さを青と呼ぶには
言葉が足りない

(現代詩「シラス漁」村崎カイロ)

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