現代詩「LIFE」

一「半丁」

私の命に値段が付いている
その値段は私自身が決めていて
掛け金を高くすればするほど
私の命の値段が上がる

さあ賭けないか 賭けないか
賭場の男が
私の命を壺に入れて

生死を出目になぞらえて
毎日壺が振られている

ニ「消化管」

一本の消化管である私が
しょろしょろ稼いできた
マネーを泥にして
食べる量と排泄する量と

しょろしょろ残ったマネーは
消化管である家族に分配されて
彼らが食べる量と排泄する量と

いつまでも
貯まらないマネーと
そういう毎日と

三「大手生命保険の代理店の方」

ある日
大手生命保険の代理店の方がきて
あなたの生命保険の掛け金は
来月から三倍の金額になりますと

大手生命保険の代理店の方が
(大手生命保険の代理店の方が)
仰るのであった

私の命の値段が下がったので
(加齢とともに)
受け取る死亡保険金に対して
掛け金が足りないのだ
(加齢とともに)
終身の保険に入っていた筈なのに
私は生命保険の幻想から追放されたのだ

いまの私の価値に見合わせて
保険の見直しを勧められるこの屈辱
私は
あなたとは
もう付き合わない!
私はあなたを解約するのだ

四「LIFE」

新たな生命保険を探す私の旅が始まって
健康診断書のコピーを持って
聞きたくもない私の命の
値段交渉を繰り返して

生涯年収と
必要となる生活資金を
FPして
リスクヘッジして
固定負債を勘案して

私がいま死ねば

生き永らえれば


刻一刻
死亡保険金の配当を減らし
(死んだら住宅ローンもなくなる)
損得の勘定をしながら
私は死ぬのを待っている

年表にされた私の生は
住宅ローンと学資保険と
生命保険料を支払いながら

その合間に
ちょっと笑って
ちょっと泣く

掛け金の支払いと死亡配当金の収支差額を
天秤にかけた人生であった

to be, or not to be!
ながらう事と
ながらわざる事
それがLIFEの問題だ

新しい生命保険に入ったので
三年間は自死できません

新しい担当者は言った

へえ
そうなんだ
と私は笑う

(現代詩「LIFE」村崎カイロ)

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