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【水槽(aquarium)】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201908まとめ、読者アンケート

noteユーザー様の新旧作品を一つのテーマで綴る「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」第16集のテーマは「水槽」です。

世界を鋭角に切り取る水槽に潜んでいるのはメダカか金魚かリクガメか。
金魚の尾鰭が舞う如く百花繚乱に集った珠玉の16作品です。

眠れぬ夜はあなたとともに。
今月も眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーをお楽しみ下さい。

アンソロジーはこちらから。https://note.mu/murasaki_kairo/m/m79878a7f122f

contents

01音楽「blue summer」涼子
02小説「金魚の水換えはいつも私。それがいい。」マリナ油森
03連載小説「そこまで寂しいわけじゃないし 3水槽」千本松由季
04イラスト「平成が終わるまでに」てくだてくてく
05漫画「メダカの性転換1」基礎研究って面白い!生物編
06短編小説「ロクさん」ムラサキ
07音楽「はこの中身」yuuu
08写真「生き物」ももろIllustrator絵本
09小説「バナナ水槽」アセアンそよ風
10短編小説「冬の水槽」幸野つみ
11寓話「金色の魚と水槽」くにん
12レポ「はなまめとわたしの旅日記 福岡でアートアクアリウム展編」
13小説「二人を保全する器(スカースカ)」クマキヒロシ
14小説「讃歌」ウネリテンパ
15音楽「charm」恵美須丈史
16漫画「流星と人生」しほにな

解題
01音楽「blue summer」涼子
箏曲の大家、ピアノの名手の涼子さん(適当なご紹介が思い浮かびません。失礼がないと良いのですが。)がベルギーでリリースしたインストゥルメンタル曲。アンビエントです。
涼子さんは馬のマスクを被ってピアノを弾くという荒業で「超ニコニコ会議」に参戦したりと時に突き抜けた奇人ぶりを発揮されておりますが、表現に関して大変ストイックな求道の方でもあります。
リンク先のBandcampで全曲聴けます。ピアノは、鍵盤が琴線を叩く音を連ねる楽器かと思いますが、その音の一つずつにご自身を捧げておられる。緊張感が漂っています。
副題は「lost at the bottom of the sea」
「海底に喪失する」
喪失して、欠けてしまった空虚が海底の海練に漂います。
今回の眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー【水槽】。
先ずは海底よりお送り致します。


02小説「金魚の水換えはいつも私。それがいい。」マリナ油森
表現をする、という行為は自分自身の表明であります。だから私は表現の中に作者様の人間性が見え隠れするような素直な表現が好きです。
マリナ油森さんの小説はマリナさんの感性が率直に表現されていて好ましいですね。
本小説の主題は「主観」であるかと思います。例えば、私は雨が嫌いです。雨が降るともういけません。一日がそれで失敗してしまったような気分になりますが、その一方で雨を「慈しみ」と呼んで貴ぶ方もいらっしゃる。
雨と云えば源氏物語に「雨夜の品定め」のくだりがあります。頭中将たちが好みの異性を論じる場面です。が、現代ではそれが「OLのランチ」に置換されます。千年経っても人間のやる事はさほど変わりません。品定めには雑多な主観が入り乱れますが、ブレずに生きるためにはそれら主張される主観のリテラシーが求められます。悪く言われていても好きなものは好き。放っておくと世論はヘイトスピーチばかりになりますので、アンチ・ヘイト、つまりラブスピーチを積極的に発信する事が良い世の中作りに欠かせないものに思います。ヘイトに眩惑されないラブ・アンド・ピース。マリナさんの水槽の中にいるのは、そうした確固たる主観なんですね。


03連載小説「そこまで寂しいわけじゃないし 3水槽」千本松由季

千本松さんの小説。先月のネムキリスペクトに所収した「そこまで寂しいわけじゃないし」の続編になります。先月の「炭酸水」、中程の「プール」、今月の「水槽」と三部作になっております。(千本松さんのページに完全版が公開されております。)また本作品が作家の川光俊哉さんから添削を受けており、こちらの記事も読み応えがあって楽しいですね。
「そこまで寂しいわけじゃないし」は学生である誠と地層学者である耕二の恋愛小説です。誠の不安定な精神が「水」をキーワードに描写されます。「水」は留まる事もあれば流れる事もある。凍る事もあれば気化する事もある。器によって形も変わる。変化無限の代物です。耕二が地層学者というエレメントも面白いですね。
水泳選手である誠は勿論水属性。耕二は土属性ですから、これを易経になぞらえれば六十四卦の第七番「地水師」。つまり「よく治まる」の卦辞となります。喧嘩をしているように見えても「地」の属性である耕ニが誠を治めてよく治まるという事ですね。
ところで川に向かって石を投げると表面を跳ねながら飛んでいきます。「水切り」という遊びですが、水というものは思ったよりも固いんですね。本作品のタイトル「そこまで寂しいわけじゃないし」とは全編を通して描かれる誠の強がりです。素直になれない強張った感情はまた水の固さにも通じるような気がします。

04イラスト「平成が終わるまでに」てくだてくてく
千本松さんの小説からの同性愛つながりで、今度はてくだてくてくさんのイラストです。こちらは少女ですね。
水槽と同性愛は何故か似合います。
てくだてくてくさんのイラストはノワールが多かったのですが、最近アップされるものは和柄を想起させるようなカラフルなものが増えました。
以前のものも素敵でしたが凄みが増したように思います。
少女たちと公園と金魚たち。
この組み合わせは何の符号でしょう。いずれのオブジェクトも危ういですね。今にも消えてしまいそうな儚さがあります。夏の少女たち。少子化が進んで子どもがいなくなった公園。そして長い歴史の中で養殖家たちの手により変異を繰り返し続けた金魚たち。
不思議な組み合わせですが、これ以上ない均衡を保っているような気もします。

05漫画「メダカの性転換1」基礎研究って面白い!生物編
基礎研究って・・・さんの漫画です。海外の論文を漫画にしているそうです。アカデミックな試みです。この「メダカの性転換」はシリーズになっております。メダカの性転換について全4回で説明されます。
原始の生き物がその姿を変異させるのならまだしも、魚類のような高等生物が性転換するのは不思議に思います。が、どうも資料を読み込むと性転換する魚は雌雄同体で両性具有なのだそうです。成長過程で雌雄のどちらかの特徴が顕著になって性別が決定され、使用されない生殖器は廃用されるものの、環境によって性が逆転し廃用された生殖器が活性化して性の逆転が完遂されるようです。
つまりこれらの魚は性が未分化なのですね。
「ニモ」という名前で有名になったクマノミは生まれた時はすべてオス。集団の中で一番大きい個体がメスに性転換するそうです。そしてこのメスが死ぬ(いなくなる)と次に大きい個体がメスに性を変えるとのこと。
少女たち、または少年たちもまた未分化ゆえにその性が揺らぐのかもしれません。

06短編小説「ロクさん」ムラサキ
拙です。

「海に浮かんだ水槽に海水が満ちております。」
それは水槽という四角い海なのか、海という広大な水槽なのか。

酸欠気味の水槽は私を留める檻です。
極度のインドア派である私にとって収監もまた良し。

07音楽「はこの中身」yuuu
yuuuさんのフォーク。ゴミ箱(わたし)が主観的に語られるというちょっと変わったテーマです。空っぽのゴミ箱はただの箱。いっぱいになったゴミ箱はただのゴミ。と揺れ動く矛盾が弾き語りで歌われます。中庸、丁度良く、程々に生きていきたいと願いますが、人生は極致から極致の道程。そうも参りません。生きることは難しいものです。
歌詞のクライマックスはゴミを捨てるのか満たすのかという正反からアウフヘーベンを起こして新しい自我を獲得するに至ります。
ゴミの為の箱という目的論的存在ではなく、ゴミの有無を問わず絶対的固有として自我が存在するという存在論です。
しんみりとして良いですねえ。

08写真「生き物」ももろIllustrator絵本
ももろさんの写真です。ももろさんはイラストレーターですが、時折投稿される写真のクオリティがかなり高い、ような気がします。私も写真は素人なので偉そうに言えませんが。
この度の写真も凄いですよね。
電話ボックスの中に水が満たされて金魚が泳いでいる。
電話ボックスも金魚も人間が作ったものですが、この電話ボックス水槽には人間が不在です。まるで人類が滅びた後のような光景で、ぞっとします。ぞっとする美しさです。
追記、
あまりに良い写真なので金魚と電話ボックスについて調べてみました。場所は奈良県大和郡山市。全国有数の金魚の町として町おこしの一環で街の水槽化プロジェクトが計られたそうです。が、諸事情あって現在、電話ボックス水槽は無くなったそうです。
当時は受話器の中にエアポンプが仕込まれており、受話器から気泡が立っていたとのこと。受話器から溢れるものは愛の囁きばかりではありません。

09小説「バナナ水槽」アセアンそよ風
本シリーズではすっかりおなじみになりました「アセアンそよ風」さんです。アセアンさんの水槽はからっぽの水槽。これから魚が入るのです。どんな魚が入るかは未定です。水槽に入れる魚を探しにフィリピンに行こう・・・という話。
日本のザリガニとアメリカのザリガニが異なるように、フィリピンには我々にとっては馴染のない生物が沢山いるのでしょうね。
全く余談ですが国内で秋になると猛威を振るう侵略的外来種である「セイタカアワダチソウ」は北米ではポピュラーな野草で、北米に育つセイタカアワダチソウは姿も小さくて可愛らしい花なのだと聞いたことがあります。(未確認情報)居所が異なれば生物も異なる。フィリピンには屹度、珍しい魚が当たり前に暮らしているんでしょうね。

10短編小説「冬の水槽」幸野つみ
この度、初参加の幸野つみさんです。幸野さんは最近、他noterさんたちとコラボした小説企画などを行われたりしております。前回のネムキリスペクトでアセアンそよ風さんが幸野さんの企画と掛け持ちして「炭酸水・ノート」の連作をアップされておられました。今号で前出のマリナ油森さんの作品もたけのこさん発案の『先に『写真』を決めて書いてみよう!』企画にリンクされているなど、最近のネムキリスペクトは企画同士のコラボが目立ちます。私の感覚では「企画」も作品なので、このような「企画」同士のコラボレーションも楽しく感じております。
さて幸野つみさんの「冬の水槽」について。幸野さんの水槽は「山の水族館」です。山と水族館というこの対比が良いですね。そして小説中では冬と水槽もまた対比の中にあります。人工物と自然物の中間にあるテラリウム。この冬の水槽への旅は遠足でもあり試練でもある。主人公である「僕」は父であり同時に息子でもある。水槽を外から見る者、そして水槽の中から見る者。小説構造の中に「対比」が散見されます。このように対比の中に物語を見出すのは面白いですね。冬の北海道に水槽が、そこに暮らす魚たちが対比によって浮き彫りにされて鮮烈と際立つ物語でした。

11寓話「金色の魚と水槽」くにん
くにんさんの今回の作品は「寓話」。美しさに思い上がった金色の魚を懲らしめようと神様が手を尽くします。ただし一筋縄ではいきません。金色の魚がまるで現代っ子かのように中々改心してくれません。
寓話であるにも関わらずデウス・エクス・マキナが通用しないというこのジレンマがユーモラスですね。
ここに登場するローヌ川の化身である神様は「タラスク」という土着神なのですが、その姿の怪獣感と性格が不揃いなのがまた面白いですね。くにんさんの描写によればタラスク様は「山猫の上半身と竜の身体、さらに、六本の肢に加えて亀の甲羅を備えた」外見をしております。奇っ怪ですが、そんな強面なのに優しく思慮深い。良いギャップです。このギャップは金色の鱗という美しい外見なのに性格はアレなマルタという魚のギャップと対になっています。容姿は時間とともに変わりますからね、美しさというものは内面重視が宜しいかと思います…とは外見がアレな私の自慰です。

12レポ「はなまめとわたしの旅日記 福岡でアートアクアリウム展編」
前話のくにんさんの作品には水槽の中で綺麗に踊る魚たちが描写されますが、ここに紹介された「アートアクアリウム」もまた豪華絢爛です。生き物って美しいですねえ。
「アートアクアリウム」のプロデューサーは木村英智さん。これらの水槽とともに全国を巡回しているそうです。7-9月は日本橋三井ホールで開催中。いまは夏休みですから混雑しているんでしょうねえ。
この記事のタイトルの「はなまめ」さんは記事中の写真に写っているクマさんのことですね。はなまめさんが写っているので写真に臨場感があります。まるで自分が行ってきた気になる楽しいレポです。はなまめさんは現在もNoteで各種イベントをレポ中です。これからも素敵なイベントがレポされる事でしょう。楽しみです。


13小説「二人を保全する器(スカースカ)」クマキヒロシ
クマキヒロシさんの小説です。「スカースカ」はロシア語でおとぎ話。くにんさんの「寓話」にも通じるテーマですね。
水槽はガラス製で水槽ごしに世界を見ると、世界は歪曲して見えます。歪に描かれた世界はデフォルメされた寓話のようであり、しかし歪さ故にリアルであるかもしれません。
この小説を初読した際に、作品が持つハイパーリアルの迫力に興奮した私は「登場人物の輪郭線が曖昧になって、それが作話の抽象性を高めている。論理的である、とか辻褄というものは現実の一側面であって全てではないのです。非論理と非整合という、現実には飛躍的唐突的側面もあるのです。だからこの作話術は超現実的と言えますね。」とコメントを残しました。
西川、西本、東川という各登場人物の名前が星新一が小説中に扱う「N氏」のような記号的名称に似て、それが作品のシュール感を増しています。
現実だけ見ていては世界は語れません。時に歪んだ水槽からの視点が必要になるものです。
水槽のガラスを境界に主体が入れ替わる面白い小説でした。脱帽。

14小説「讃歌」ウネリテンパ
脱帽の小説をもう一話。軽妙洒脱の雄、ウネリテンパさんです。ウネリテンパさんの今回の小説はハードボイルド。しかも主人公である筈の探偵「妹鬼塑秋」本人は不在。その助手である拝司が主人公という若干スピンオフ気味の作品です。
貧民窟と称される円生町。厭世街。
この街に住む住人達が色彩豊かでまるで熱帯魚のようです。街が一つの水槽のように見えます。
水槽の中の魚たちはただ必死に生きているだけです。だからこそ美しいのかもしれません。
今回もウネリテンパさんのロマンが炸裂しています。
「妹鬼塑秋」の名前について出自を調べていたのですが、分かりません。ウネリさんのウイットは毎回素晴らしく惚れ惚れ致します。セオニー・ソシュール的な名前の小説か映画の登場人物の名前から来ていると思うのですが見つかりませんねえ。
ソシュールと云えば言語学の父です。言葉を定めのある「ラング」と定めのない「パロール」に分けました。「ラング」は文法上誤りのない言語ですが、「パロール」は話し言葉、文法間違い、省略言葉、スラング等です。ラングは正しい意味を正しく伝えます。パロールは意味よりも感覚を伝える言語といった所でしょうか。ウネリさんの小説は「パロール」によって成り立ちます。散乱するパロールに意味がぶれて揺らいでいきます。その揺らぎの中にロマンが生まれます。言葉の横溢する水槽。ウネリさんの小説を例えるならそのようなイメージになるでしょうか。


15音楽「charm」恵美須丈史
中小企業診断士として活躍する恵美須丈史さんが2001年から2005年まで結成していたバンド「thee Bob」の音源。
ガレージロックです。格好いいですね。
身動きの取れない酸欠の水槽を破って街に飛び出すような衝動。破壊的にブルージーで疾走感があります。本アンソロジーも我々を閉じ込めていた四角い水槽から飛び出してしまいましょう。


16漫画「流星と人生」しほにな
本アンソロジー最後の作品はしほになさんの「流星と人生」。
夜空を見上げていると、水槽の中にいるような錯覚に陥りませんか?
ウネリテンパさんの小説に「月の海」にいる魚を捕まえるというエピソードが登場しますが、夜と水槽は似ています。
私たちがいるのは夜の底。そしてこの世界が水槽だったとしても、私たちがいるのは水槽の水底。エアポンプで気泡立つ天井を見上げるように、酸欠気味の世界の中に喘ぐように。私たちは流星を見つめます。ロマンですね。鱗を光らせる魚たちにとって水中に溶けた酸素が必要なように、我々の人生には流星を見つめる夜が必要です。

眠れぬ夜と水槽と。
あなたの夜にアンソロジーを。

アンソロジーはこちらです。


https://note.mu/murasaki_kairo/m/m79878a7f122f


沢山の方にご参加頂きまして有難う御座います。アンソロジー恒例の読者アンケートを下記に用意致しました。座興の一環としてお気軽にご回答下さい。また、次回アンソロジーのテーマも募集しております。
#小説 #ネムキリスペクト #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #水槽


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「眠れぬ夜の読者アンケート」
どなたでもご参加できます。気まぐれにご回答下さい。
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(締め切りは8/8です。)

テーマ募集しております。
頂戴したテーマをもとに8月5日~8日までテーマ決定のためのアンケートを実施します。テーマの応募は無記名で行えますのでお気軽にご参加下さい。
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(締め切りは8月5日です。)