私花集「擬音・パリン...」眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201903号

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第11弾は擬音語「パリン」がテーマです。
「パリン」と鳴った音の正体は割れたガラスか薄氷か。煎餅、食器と数々の音の正体をお楽しみ下さい。
眠れぬ夜はあなたとともに。「パリン」という軽妙な音とともに流れる物語を送ります。

CONTENTS

01 論文【閑話】オノマトペ(擬音語)「パリン」くにん
02 音楽 「毎日の生活」 Mega White
03 現代詩 「ぱ りん/ 雨情」ムラサキ
04 小説 「パリン」クマキヒロシ
05 漫画 「シャツ子のサチ。」 hamadayama
06 音楽 「寂しい夜に」 saki39
07 小説 「五分で小説を書く。」zaderan
08 小説 「断捨離の皿」アセアンそよ風
09 四コマ 「無理をして」 タカハシツネミ
10 音楽 「Eat Eater Eatest.」いぬまた
11 コラム 「割れたガラスの継ぎ」土曜舎の毎日が土曜日♪
12 写真 「浜辺」ムラサキ
13 詩 「瞳の中の星空」Fuyuno Coat
14 小説 「but me.」ウネリテンパ
15 音楽 「盆栽」Mesco Iwata

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解題

01 論文【閑話】オノマトペ(擬音語)「パリン」くにん

本アンソロジーは毎度、公募によってテーマを決定しておりますが、今回の「パリン」はくにんさんの案です。流石、発案者だけあり濃厚な作品を仕上げました。くにんさんと言えば、資料に基づいて詳細なディティールを描き出す書き手です。今回は「擬音」を巡る論考を多くの資料を遊ばせながら自由闊達にされております。
一つのキーワードから生まれる小話が次々派生していきます。沢山の興味深いお話と示唆に富んだ文章になりました。


02 音楽 「毎日の生活」 Mega White

Mega Whiteさんは以前、アンソロジーに作品をご提供をお願いした「1646メガネ」さんです。前回は「BrassBand」という格好良いダンステクノな曲でしたが、今回は「毎日の生活でふとこのままじゃいけないと思った事、何かやりたいと思った事ありませんか?」という音声のサンプラーです。この音声とリズムがかなりキマッています。コミック的なのに格好良い、このようなバランス感って凄いですね。
日常にふと疑問を感じた時、目から鱗が落ちる音が「パリン」と聞こえてきませんか?

03 現代詩 「ぱ りん/ 雨情」ムラサキ

私です。


04 小説 「パリン」クマキヒロシ

巧みな心理描写の小説からコメディタッチまでこなすクマキさんの小説です。この度のアンソロジーで書下ろしに挑戦された方々は「パリン」と鳴る音が何処から聞こえてくるのか、その発想の勝負でありました。
クマキさんが聞こえてきたパリンはナントナント・・・なんとも意外な所から。これには意表を突かれました。こんな愉快な「パリン」なら是非私も聞いてみたいものですね。おっと、あまり不用意に発言すると変態扱いされてしまいます。自重。


05 漫画 「シャツ子のサチ。」 hamadayama

hamadayamaさんの漫画です。売れっ子デザイナーを目指すシャツ子さんの物語。ここでは第一話を掲載致しました。登場人物が濃くてとても面白い漫画です。面白いと思いつつ実は第一話を読んでおりませんでした。今回、初めて第一話を読み、痛快な気分になりました。勢いがあって話の展開が走っています。
昂奮の夢が覚める音。これも何かの破裂音である気がします。「パリン」そんな音が鳴っても良いのではないでしょうか。


06 音楽 「寂しい夜に」 saki39

今回のアンソロジーの中で、最も奇作です。
sakiさんへのコメントにも付けましたが、最初に聞いた時には「灰野敬二(不失者)」かと思いました。灰野敬二は「ノイズ」とか「フリージャズ」などと言ったジャンルの人であまり一般的ではないですね。音楽というより「呪い」に近いです。
ご興味ある人はyoutubeから灰野敬二「滲有無」
https://youtu.be/-eCIKLigI2U
この曲は一曲53分ありますのでwifi環境下でお聴き下さい。
と、そんなフリーなセンスの本曲。独自の世界を作っております。
寂しい夜には身の回りのものがパリンパリンと壊れていくような、危うさを伴った曲です。


07 小説 「五分で小説を書く。」zaderan

「パリン」と割れるもの・・・と考えた時に「眼鏡」が思い浮かびませんか?そんな期待に応える一作を。
zadarenさんの小説は流暢な流れで進行します。「ストーリー」とは予想を裏切る事で進行するものに思います。本作は予想する間もなく奇想天外に物語が進み、飽きさせません。実に上手な進行です。
それにしてもこの「眼鏡」の可愛らしいこと。
お気に入りの一作です。


08 小説 「断捨離の皿」アセアンそよ風

アジアと日本を往復するアセアンそよ風さんです。いつもアジアンなもの題材して、まるで私たちが仮想旅行をしたような気分にさせてくれます。
今回の題材は「チェンマイのお皿」。アセアンさんによれば、「チェンマイ」のお皿は大変可愛らしいデザインなのだそうです。
アジアの品物って異文化情緒に溢れていて良いですよね。
欧米の小物は日本にも多く流入して、目にする機会は多いですが、アジアの品々は民族雑貨店などに行っても目を惹きます。日本には無いデザインですが、どこか懐かしさを感じさせる・・・同じアジア人である共通項を何処かに感じさせるデザインです。
そう言えば東南アジアから東アジア、日本まで共通に食べられているものがあります。「クルプック」と呼ばれる揚げた海老のお煎餅。インドネシア、マレーシア、フィリピン、中国とあちこちで食べられています。と、昔読んだ「世界の食事」から引用しましたが、間違ってたら教えて下さいませ!
海老のお煎餅を「パリン」と鳴らして次に進みましょう。


09 四コマ 「無理をして」 タカハシツネミ

四コマ漫画をnoteでアップしているタカハシツネミさんです。タカハシさんの漫画は面白いですねえ。好きですねえ。本作は目から怪光線が出る超能力者のお話。凄い能力ですが、使うと疲れちゃってへとへと。
面白い発想です。
落ちかけた壺が「パリン」と鳴ってしまうのか否か。皆さんも一緒に応援しましょう!


10 音楽 「Eat Eater Eatest.」いぬまた

いぬまたさんのサンプリングです。今回音楽にサンプリングミュージックが多いのは「擬音と言えばサンプリング」という私の謎の思い込みが反映された結果です。
いぬまたさんのサンプリングは咀嚼音。いまyoutubeで「咀嚼音」が流行しているそうですね。なんとも珍妙なものが流行する時代です。
文化の成熟は時に奇妙奇天烈な流行を生み出すものです。旧時代の私にはよく分かりません。と言いつつ、先日「毛抜き動画」なるジャンルがあることを知り見始めたらついつい「毛抜き動画」のトップランカーの動画を一通り観てしまいました。うーん・・・ビザール。
いぬまたさんのサウンドにようやく時代が追いつきました。「じゃがりこ」の咀嚼音ではありますが、アップテンポのダンスナンバーが出来上がっています。ポリポリパリンパリン。

11 コラム 「割れたガラスの継ぎ」土曜舎の毎日が土曜日♪

毎日が土曜日さんのガラス戸修復物語。私はおよそ空想を食べて生きていますので、このような「ものつくり」とか本物志向の方には敵いません。毎日が土曜日さんのガラスの「継ぎ」。見事ですねえ。ほれぼれしますねえ。
障子に穴が開いた時に張り替えるのではなくて蝶々や紅葉をかたどった障子紙を上から貼って修繕する、とか。食器が割れたら金継ぎするとか。日本の伝統的な補修文化ってクールですね。ここでもガラスが継がれていますが、その継がれた曲線の美しいこと!
私は「割れたガラス」は元に戻らないと思い込んでおりましたが、割れたガラスがより美しくなることを知り、まさに目から鱗でした。


12 写真 「浜辺」ムラサキ

私です。「割れたガラス」の写真を探してウロウロしましたが、丁度よい塩梅の写真が無かったため手前味噌で失礼します。下手ながら写真が好きです。写真から音が聞こえてくるような気がします。海の音。ガラスの音。
海辺でシーグラスを拾った写真です。「みんなのフォトギャラリー」で時々使って頂いておりますが、シーグラスを持つ指が私のようなおっさんの指でいつも申し訳なく思っております。
シーグラスは割れることで美しくなりますね。


13 詩 「瞳の中の星空」Fuyuno Coat

冒頭くにんさんの論考を読んだ時に擬音語の原音について考えておりました。「ぱりん」という擬音は何処から来たのか、その原音があるに違いない。そしてそれはきっと美しい音故に、他の様々の音に派生して使用されるようになったのだ、と。
私はそんな想像の中から薄氷が割れる透明の音を聞いておりました。
その薄氷の音が最も似合うのが冬野さんの詩です。
冬野さんは名前に「冬」の字があるだけに「雪」や「氷」が似合います。
そんな冬野さんの作品の中から選んだのが本作です。
望遠鏡が少年の手から落ちてレンズが割れるその音は、やはり透明度の高い氷のような音であったことでしょう。その音が美しければ美しい程、物語は儚く哀しく響きます。


14 小説 「but me.」ウネリテンパ

ウネリテンパさんの小説です。「一つの恋愛小説だ、と俺は思う」と最初の一文からして硬派です。
恋愛とは言葉にできない淡いものです。果たしてこれが恋愛小説であったのか。それは立証できない程の淡さです。そう言った不透明性が恋愛であった証左となるのでしょう。
登場人物たちは名前も失くして素性も失くしてお互いに対峙しています。もしかしたら性別すらも失くしているかもしれません。恋愛の目的すら見失い、名前も無い地点からの出発。ベルナルド=ベルトリッチ監督の「ラスト・タンゴ・イン・パリ」のようにそれは究極的です。
ガラスが砕けるような、氷が割れるような透明の音が響いております。大変美しい物語でした。


15 音楽 「盆栽」Mesco Iwata

本アンソロジーも最後の作品のご紹介となりました。
Mescoさんの「盆栽」です。
サイモン&ガーファンクルとかニックドレイクのようなフォーキーな音ですが、タイトルが「盆栽」です。植木鉢が落ちると「パリン」と割れる、そんな発想からこの曲をアンソロジーにお借りしました。
歌詞が「born to die」。そして「born on sigh」なんというshare!面白いですねえ。そして格好良いですねえ。素晴らしい音楽を拝聴致しました。

今月も沢山の皆様が作品のお貸し出しを下さりありがとうございました。皆様ご多忙の中、お付き合い下さり感謝しております。

私事ですが、最近全く不調子でございまして、
そんな時に「パリン」という音探しをしておりましたから、
私の作品はすっかり破壊的なテーマとなりました。
しかし、皆様の作品を見渡すと壊れたガラスを美しく修復する技術であったり、ガラスの割れることの美しさであったり、はたまた「パリン」という擬音そのもののSFチックな面白さであったりと悲観に陥ることが全くない。
ガラスは割れて終わりではなく、新たな生、新たな存在価値の始まりである、と作品を通じて皆様仰られる。
これには大変勇気を頂きました。
「ユーモア」こそが最大の攻撃力。とは最近拝読した某氏の小説のテーマであったわけですが、窮地においても悲観に陥る事なく道を探せば、必ず活路はあるのでしょう。
人生には三つの坂があるそうですよ。
上り坂、下り坂、そして「まさか」。
これから幾らも現れる窮地に本アンソロジーにご登場した作品を思い返したいと思います。


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