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現代詩 ひさかたの

病気がちな九十八歳の祖母と
病気がちな二歳の子どもが
目を交わして
微笑み合っている

祖母は思い出したように
昨日の出来事を話し始めるが
その話を聞くのは
今日にして三度目だ

それを二歳の子どもがが
にこにこと
聞いている

だが
二歳の子供は言葉が分からず
祖母の話は理解できぬ

幾度も繰り返される
和やかさの真ん中に
私は立っていて
自らの不機嫌性を恥じる

二歳の子供は
大人ぶって得意げに喃語を繰り返す

ててて
ててて ててててて

何が何やら全く分からぬ

だが祖母は嬉しそうに微笑んでいる

いちいち返事されることが
嬉しいのか
子供の話が弾んで喃語が続く

ててて ててて
ててててて

そして祖母は思い出したように
昨日の出来事を話すのだ

柔らかな冬の陽光が
二人を照らしている
二歳の子供が
自明を得るまでに
祖母は生きておるまい

この光芒の中の出来事は幻

きっと私の不機嫌が見せる幻

失われる者たちの
狭間に落ちて
途方に暮れている
私が見た幻