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解題「三つの願い」文芸ネムレヌ第58回


はじめに

この度の文芸ネムレヌのテーマは「三つの願い」でした。どうにも進行が捗々しくなく関係の皆様には申し訳ございません。さしあたって私の三つの願いは「寝てる間に作業を終わらしてくれる小人たち」「常に応援してくれてやる気を発奮させてくれる娘々」「膝の上で寝転がる猫」を下さい。そうすればもっと早く、解題もまとまる気がします・・・嗚呼、神様!(代わりにやっておいて下さい!)本日の文芸ネムレヌもいよいよ開幕でございます。本日も他力本願、低空飛行でテイク、オフ……!

さて人は願うもの。

プロメーテウスが天界から火を盗んで人類に与えた事に怒ったゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」というものを作るようにヘーパイストスに命令したという。

ヘーシオドス『仕事と日』(47-105)によればヘーパイストスは泥から彼女の形をつくり、神々は彼女にあらゆる贈り物(=パンドーラー)を与えた。(中略)そして、神々は最後に彼女に決して開けてはいけないと言い含めてピトス(「甕」の意だが後代に「箱」といわれるようになる。)を持たせ、プロメーテウスの弟であるエピメーテウスの元へ送り込んだ。

美しいパンドーラーを見たエピメーテウスは、プロメーテウスの「ゼウスからの贈り物は受け取るな」という忠告にもかかわらず、彼女と結婚した。そして、ある日パンドーラーは好奇心に負けて甕を開いてしまう。すると、そこから様々な災い(エリスやニュクスの子供たち、疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などなど)が飛び出した。しかし、「ἐλπίς」(エルピス、意味は後述)のみは縁の下に残って出て行かず、パンドーラーはその甕を閉めてしまった。こうして世界には災厄が満ち人々は苦しむことになった。ヘーシオドスは、「かくてゼウスの御心からは逃れがたし」という難解な言葉をもってこの話を締めくくる。

Wikipedia「パンドーラーの項」

ゼウスの作りたもうた人類の初の女性、災厄の象徴パンドーラ―が持つピトスの中に最後に残っていたものは「ἐλπίς」。エルピス。一般的に希望、と訳されます。パンドーラ―によって開放された災厄のはびこる世界で人々は苦しみながら生きています。が、それでも人類の手には希望が残っているのです。だから人類の手元には希望と可能性が腐るほどある。だから私の三つの願いもいつかきっと叶う筈……!

それはさておき、人類に禍をもたらすためにゼウスが作ったのが「女性」。その女性が封印を破って世界に放出したのが、エリス(不和と争いの女神)とニュクス(夜の女神)。そしてその女神が生んだ多くの災いである忘却や悲嘆、虚言や不法(エリスのこどもたち)、あるいはモロス(死)やタナトス(死)、ヒュプノス(眠り)、オネイロス(夢)(ニュクスの子どもたち)・・・。災厄として並んだ言葉を見ると、同じ系列に本企画、恐怖とエロス、死と絶望の「文芸ネムレヌ」もありますね。どうやら我々はパンドーラ―のピトスから生まれたようですよ・・・?

さあ、願いを叶えましょう!
この度の企画はあらゆる願いが叶うゴールデンタイムです!皆さんはどのような願いごとを叶えますか?金ですか?娘々ですか?嫌いな人間を貶める呪詛ですか?さあ、願いを叶えましょう!暗黒神様はあなた方の願いを何でも叶えてくださいますよ。さあ暗黒神に臓物を捧ゲロ!覚悟は良いか、悪魔ども!

目次
01 コラム「村人の3つの願い〈助け合いの精神〉」まなびの絵本
02 小説「三つの願い」数理落語家 自然対数乃亭吟遊
03 映画レビュー「ボリス・ルイツァレフ『アラジンと魔法のランプ』ソ連版ジーニーは真っ赤な老人だった」KnightsofOdessa
04 小説「幻詩人の小径」としべえ
05 漫画「メニュー」木内達朗イラストレーター
06 小説「落穂拾いの特別展示にて」くにん
07 漫画「猿の手」絵な子
08 小説「我等の騎士と錬金術師{序}」アイウカオ
09 小説「天使の去ったあと」葵
10 エッセイ「砂漠でアラビアンナイトを体感する旅」am_erica_n
11 小説「願い ~小さな叙事詩Ⅱ」くにん
12 小説「願いをめぐる二つの短い物語」海亀湾館長
13 小説「ゴーストの凍ったシャワー」千本松 由季
14 小説「ゴッド・ウィル・B・デッド」ムラサキ

解題


01 コラム「村人の3つの願い〈助け合いの精神〉」まなびの絵本

ユダヤの寓話。貧しい夫婦が親切を施したのは預言者でした。親切の御礼に預言者は夫婦の願いを叶えます。そして貧しい夫婦は幸せになりましたとさ・・・とっぴんぱらりのぷう!
と・・・終わる訳には参りません。ユダヤ人の物語にはこの続きが語られます。どうにも悲劇に仕立てあげないと気が済まないのでしょうか・・・。
そうして、心の優しかった夫婦は富む者になりましたが、清い心を無くしてしまいました。それを預言者は咎めて、夫婦の幸福を取り上げて一文無しにしてしまいました。だから、富む者になったとしても親切心を無くしてはいけないよ・・・

と、この話。
そんな単純な教訓ではないかもしれません。

☆ベストセラー『「権力」を握る人の法則』の著者が、世にはびこる欺瞞に満ちた「リーダーシップ論」を一刀両断。組織を動かす人々の「真実の姿」を赤裸々に明かした話題の書、待望の文庫化。

☆世間に流布しているリーダーの「あるべき姿」は、誠実で、謙虚で、思いやりにあふれ……、というものだ。しかし、そんなリーダーは、実際には組織で指導的立場についていたりはしない。

☆本書は、スタンフォード大学ビジネススクールの人気教授が、成功しているリーダーたちの本性、「自信過剰な人ほど出世しやすい」「状況に応じて、嘘をつく」「社員第一より、自分第一」など、真のリーダーの姿をあぶり出し、我々がそれにどう対処すべきかを教えてくれる。組織で働くひと、必読の一冊である。

紹介文より(amazon)

会社組織で偉い立場の人間ほど、欺瞞的、猜疑的、邪知的・・・。それは悪い人間でなければ出世しないからだ・・・という本、のようです。いや、確かに・・・、思い当たるぞ・・・??
善良であれ、という言葉は統治者が民草から反抗という武器を取り上げるために課した「欺瞞」の倫理かもしれない。

そうとなるとこの昔ばなしは成功した善人が、立場にしたがってそれなりの倫理観を得たにも関わらず、絶対権力者の気まぐれによって地位と名誉を易々と剥奪される構図・・・。だから本当に悪いのは、いたずらに願いを叶えたり、それを奪ったりと気まぐれ三昧の神様たちかもしれませんよ。取り上げる可能性があるなら、説明をしておいてよ!神様、説明責任不履行ですよ!取上処分の無効を訴えます!

いちばん悪いのは神様かもしれない。

・・・などなど、考えさせられる物語ですね。



02 小説「三つの願い」数理落語家 自然対数乃亭吟遊

今回のテーマ「三つの願い」は実は、かなり難しいテーマでして・・・、いやこれはテーマに挑戦して創作に望もうとした方なら分かる。

「何故、三つの願い、をテーマにした作品を作ることがむずかしいのか」
・まず、三つの願いを叶えてくれる超越的な存在を登場させることが難しい。テーマに即して物語を作ろうとすると、どうしても超越的存在が必要になりがち。SF、ファンタジー、或いはホラーにならざるを得ない。
・そして次に、もっと前段階として。普通人であれば願い事が三つもない。願い事はひとつ叶えばもう幸福なので、ひとつでは足りないほどの強欲を描けない。なんでも一つ願い事が叶うのに、三つないと嫌だ!とか思っているわけですよ。強欲の異常者です。
・三つ願ったことから生じる因果が描けない。上記ふたつの困難をクリアしないと物語が生まれない。願いが叶った、叶わなかった。その結果、幸福になった、不幸になった。願い事に対して二つのルートに分かれて、更にそれぞれの結末が二つに分岐する。それが三つもある。この「組み合わせ」は64通り。物語の分岐ルートが多すぎる。だから願いごとは一つにして、お願い、神様。
と、こんな苦労を味わう訳です。

吟遊さんの物語はこれらの問題に対して非常によく整理されていて、テーマに対する完成度がとても高かったと思いました。

・「超越的存在」・・・ウィッシュという人類にとって未知の機構。ウィッシュを持った人間は、国家が願ったものを三つまで何でも叶えてくれる。しかし、三つの願いを叶えると、ウィッシュは他国に転生する。
・「願い事三つ」・・・国家反映の目的のために願い事は一個では足りない。では何を望むのが適切か、と三つを考える事自体が物語化している。
・「結末」・・・「何を願うべきか」が物語であるので、願い事が叶う、叶わないと言った分岐が生まれず、ストーリーテリングが複雑化しない。

上質のショートショートでした。面白いよ!



03 映画レビュー「ボリス・ルイツァレフ『アラジンと魔法のランプ』ソ連版ジーニーは真っ赤な老人だった」KnightsofOdessa

三つの願いといえば、アラジンと魔法のランプ。ディズニー映画でもおなじみです。

https://www2.nhk.or.jp/school/watch/bangumi/?das_id=D0005150138_00000

考えてみたら私は「アラジンと魔法のランプ」って知らない……!ハクション大魔王くらいの知識しかない。いや、ハクション大魔王もよくわかってない。
アラビアンナイト(千一夜物語)の中の物語でしょ……?と思って調べてみたら……

・「アラジンと魔法のランプ」はアラビアン・ナイトがヨーロッパに伝わるときに偽造された偽アラビアンナイトだった。(欧州人が偽造)
・アラジンと魔法のランプの舞台は中国だった
・悪い魔法使いはアフリカ(マグリブ)出身

アラビア要素がない!物語を作ったのはヨーロッパで、舞台は中国。悪者はアフリカ出身。原型見てみたいですね。

アラジンには(悪い魔法使いから奪った)指輪の魔人とランプの魔人というふたりの魔人が味方していて、願い事は叶え放題!三つどころではない。紆余曲折の末に、アラジンとお姫様はお酒に薬物を入れて悪い魔法使いを眠らせて、刺殺して、平和に暮らしましたとさ。

殺しちゃうんですね?お酒と薬で眠らせて?殺人の上に成り立つ幸福は教育に悪い!

昔の物語って青少年への教育的配慮が無いので過激ですね。「教育的配慮」の歴史としては1924年に「児童の権利に関するジュネーブ宣言」が国際連盟で採択されて、国際的にはじめて児童の権利、という言葉が認められるようになりました。それまで、児童の権利は概念自体あんまりない。
例えば、後の竹久夢二の愛妾となった「お葉(永井カネヨ)」は12歳の時(1914年)に、ヌードモデルを斡旋するモデル事務所にスカウトされ、東京美術学校(現東京芸術大学・西洋画科の教授に藤島武二)のモデルとなりましたが、同年、SM春画家の伊藤晴雨の愛人兼モデルに(!)。それが2年で終了し、14歳から21歳まで竹久夢二の愛妾となりました。(お葉が21歳の時に自殺未遂して、竹久夢二との関係は終了)。と、こんな話があるくらいなので、社会の中に児童に関する「教育的配慮」などあろう筈がない。
少し時代が進んで国内では1933年(昭和8年)に日本では旧児童虐待防止法が成立。「子供はお酒の酌をする仕事についてはいけない」など、そんな規定が設けられました。こんな頃から子供に読ませるものに配慮が生まれるようになってきたのかもしれません。「教育的配慮」の歴史はまだ100年も経っていません。

と・・・そんな過激な「アラジンと魔法のランプ」です。魔人が二人もいて、なんでも願い事が叶い放題というのは強欲ですね。アラジン、悪い奴ですね!

ここに紹介した記事はその「アラジンと魔法のランプ」をソ連が作ったという怪作のレビュー。KnightsofOdessaさんの紹介文も軽妙で面白いですよ!




04 小説「幻詩人の小径」としべえ

としべえさんの私小説風。本小説の主人公、アナタ・ジロウはインド、東京、過去・現在あらゆる次元に旅をします。
この度の冒険はネパールの旅。現地でしか分からないネパールの御国事情満載でお送りしております。
ネパールと言えば。ネパールの人に宗教を聞いたらヒンズー教だと言うので、世界三代宗教である仏教を取り込んで、拡大したヒンズー教は凄いですね、という話の中で。
お釈迦様はインドで生まれたのに、よくインドは仏教国にならなかったね。
と言ったら
お釈迦様が生まれたのはネパールでインドではない。
と言われました。そうなんだ!

先日、その方にネパール料理を食べよう、と誘われたのはインド料理屋でした。ネパール人がやってます。
日本にいるインド人は大体ネパール人らしいです。



05 漫画「メニュー」木内達朗イラストレーター

願い、というテーマは即ち欲望のお話。
そこで、木内達朗さんのこんな漫画を紹介します。
メニューの多い料理店に行ってアレコレ悩んで結局いつも同じメニューに決まる。この悩んだ結果、いつも同じになるというのがポイントですよね。
私もねえ、外食と言えば「台湾料理」で、台湾料理の多いメニューを見ながらアレコレ悩み、必ずエビマヨに落ち着くという。
メニューを選んでいる時はとにかく欲望の権化と化しています。「美味しいものが食べたい!」「コスパを求めたい!」「太りたくない!」という三つの願い。

いつもエビマヨだから、違うメニューを頼もう!今日は絶対違うメニューにするぞ!という決意でメニュー表を取り、これも美味しそう、あれも美味しそうとメニューを眺め、でも今ひとつ決め手に欠ける。舌が味を想像した時に、五味五色の空虚を感じる。どうも何かが足りないぞ?それならやっぱり今回も、いやいや今回こそは違うメニューを頼むと決めたじゃないか。と再びいちからメニュー表をめくり始め……、とそんな堂々巡りの末に、よし!今回もエビマヨで!
……と、まあこんな具合です。皆さんはそんな経験ございませんか?バラエティに富むオーダーしていますか?



06 小説「落穂拾いの特別展示にて」くにん

くにんさんです。本年もよろしくお願い致します。くにんさんは今回二つの作品を出されています。
一つ目は「落ち穂拾い」が展示された美術館が舞台。挙動の怪しい男が現れます。念入りに展示品の配列や警備の確認をしております。一体この男、何者でしょうか?
くにんさんらしいブラックユーモアのショートショートです。

ミレーの落ち穂拾いについて。
農民の子、ミレーは若い頃から画家を志しましたが。その道のりは暗く険しいものでした。
花の都パリに来たのは良いけれど、絵が評価されない。絵が全く売れない。田舎者と馬鹿にされる。苦しい時期を過ごした後に、パリを去って芸術家の集まるバルビゾン村に転居します。このバルビゾン村に暮らす画家達が行ったのが、屋外でのスケッチ。風景画です。当時の風景画はアカデミーが定めた題材のヒエラルキーでは最も下。歴史画、宗教画で名声を得て、肖像画の依頼を受けて金銭を稼ぐような時代で、安い値段でしか買われない風俗画(市民の生活風景)、風景画は見向きもされないジャンルでした。しかし辺鄙の農村で、安い絵を描き続ける画家たちに次第に注目が集まります。宗教画のような大仰な絵画よりも、風景画や風俗画などの自然で素朴な、しかしリアルな絵に人気が出る時代だったんですね。そしてバルビゾン派の代表的画家として、農民たちの姿を描き続けたミレーも高い注目を浴び、作品への評価が高まっていきました。晩年は巨匠のひとりとして数えられ、パリ万博でも特設展示場が設けられる程の人気を得ました。バルビゾン派の人気は高まり続け、最盛期には小さな村に画家が百人が暮らしていたそうです。

落穂拾いは農村の中でも最も貧しい農夫たちが、収穫後の零れた麦穂を拾い集めているところ。貧者が、荘厳で神聖な、まるで宗教画の登場人物のように描かれる。極貧者のヒロイズムは「清貧」という言葉そのもの。堕落の無い美しい世界です。

ちなみに。昨今のAIブームを受けまして、AI殿に「落穂拾いをもっと欲にまみれた浅ましい姿に再構築出来ませんか?それこそスーパーのバーゲンに現れる主婦陣のように。」と尋ねたところ、「芸術に敬意を払っておりますので、そのような、芸術への侮蔑とも思われる要求には応じかねます。これで対話を終了します」と強制終了されました。芸術には敬意を払わねばなりません。



07 漫画「猿の手」絵な子

絵な子さんの漫画です。時々この企画では絵な子さんの漫画をご紹介しておりますが、大変楽しい。世界観はとてもキッチュでファンシー。
平和を重んじながらも毒がある。うさぎの皮を被ったオカルティズム。毎度、ぼく君とうさぎ君がほのぼの活躍する冒険活劇です。
今回ご紹介するお話には「猿の手」が登場します。

「猿の手」
ある夫婦が手に入れた「猿の手」には願い事を叶えてくれる魔法の力があるとされる。だが、願いは必ず不幸を呼び寄せる。誰も、何も、猿の手に願ってはいけない。
そんな忠告を馬鹿にして夫は猿の手に200ポンドを願います。その場では何も起こりません。しかし翌日、仕事に出た息子が事故で死んだと会社の使いがやってきて200ポンドをお見舞金に置いて帰りました。願いが叶ってしまったのです。
息子を失って悲嘆に暮れる夫婦。ある日、妻は猿の手に「死んだ息子を生き返らせる」ように願い事をするのでした。ええ!そんな願いをしたら、ゾンビが来ちゃうよ!ほら!すぐ!そこに!
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と、このようなお話。
願い、というものは自らの手で叶えるもの。恐らく神様は自ら願いを叶えようとする者を祝福してくれますが、願いを叶えてくれることはしません。願いを叶えてくれるのは悪魔です。悪魔の誘惑に負けて、他力本願にあやかろうとする者には不幸が訪れます。

猿の手、の面白い所は「説明責任」が果たされています。夫婦が猿の手を譲り受ける時、知人は猿の手について余すところなく説明し、更にはそれを捨てろと言います。知人が自分で捨ててくれても良かったんですけれどね。もしかしたら知人はあらゆる願望を叶えてしまい、あらゆる不幸を背負い、それでも尚、猿の手に取り憑かれて捨てることができないのかもしれません。
次の所有者の夫婦が猿の手を手放す事を願った時、猿の手を奪いに来るのはこの知人であったりするのかも。
そんな呪わしいマジックアイテム、猿の手をうっかり手に入れてしまったぼく君、うさぎ君。どんなトラブルに見舞わせるのでしょうか。

こちらは絵な子さんの近況報告漫画。

漫画が商業的では無い、という悩み。前述の「落穂拾い」の巨匠ミレーさんのようです。農村を描いた風俗画は全く商業的でない。当時の非商業系画家たちは食べるために貴族の依頼(屋敷に飾る歴史画)や肖像画(肖像画は高い値段で依頼を受けられる)を描いて金銭を得ていたという事です。今で言えば企業の依頼を受けて、広告漫画や、説明書漫画の仕事をして金銭を得る感じですね。
これは小説家も同じでクリエイター系個人事業のポータルサイト「ココナラ」などに売文家が1文字1~4円の相場で売文しています。面白そうなので、私も登録しようかと思ったのですが、クライアントから色々文句を言われるんでしょうねえ。想像するだけで胃が痛みます。いつの時代も生きると言う事は大変なことです。



08 小説「我等の騎士と錬金術師{序}」アイウカオ

アイウカオさんが以前、舞台にした脚本を本年は小説にするということで、そのプロローグ。登場人物が魔術的でワクワクします。
種村季弘、荒俣宏、澁澤龍彦が好きな方はもう必見と言わんばかりのヴンダーカンマー。これは面白いに違いない。
その末端を垣間見ると、主人公は錬金術師ロコと断頭台から生まれた姿なき少年ヤズミン。断頭台、姿なきなどのフレーズが胸を衝きます。序文では風と水と土を操る不思議な三つ子が現れて、誰知ること無く生きている事が語られます。この不思議な三つ子が「三つの願い」と呼ばれています。錬金術師と不思議な三つ子たち。どのように関わるのでしょうか。楽しみですね!




09 小説「天使の去ったあと」葵

葵さんの小説です。物語の起承転結が整理されていて、今迄の作品と比べると全体の構成をまとめる力、物語を支配する力が上がったように思われます。三つの願いを叶える権利と共に孤独になってしまった少女は放浪の末に魔使いのカワウソという男に出会います。半ば強引にカワウソに同行する少女、二人が着いたのは呪われた街でした。
物語のテンポが良く、時にスリリングで長い文章なのに一気に読めます。魔を吸収して放出する。アクション活劇の部分もあります。文章表現でアクションを描くことは難しいように思いますが、しっかり読ませる文章になっておりました。面白かったです。




10 エッセイ「砂漠でアラビアンナイトを体感する旅」am_erica_n

先程、ソ連版のアラジンと魔法のランプのレビュー記事のご紹介を致しましたが、am_erica_nさんの旅行記はまさにアラビアンナイトの世界観。旅行先はオマーン、という日本にはかなり馴染みの無い国。その馴染みの無い国の写真がどれも素晴らしくて心奪われます。
どの写真もアラビアンナイトで、アラジンです。空飛ぶ絨毯で旅をしたいものです。夢がありますねえ!中東って美しいんですね。
エキゾチック。魅惑的です。



11 小説「願い ~小さな叙事詩Ⅱ」くにん

くにんさん、二つ目の作品。
今も昔も、戦争や紛争が起こっていて、死ぬ人たちと泣いている人たちがおりますが、苦しむのはいつも弱い人たちばかりなので心が痛みますね。
人間は幸福になるほど強欲になり、不幸になるほど清貧になる。強欲の人達は願い事がいくつもあって、何でも欲しくなります。清貧の人達は何を希い願うこと無く生きています。戦争は強欲の人が起こして、清貧の人々が苦しみます。強欲の人達が清貧の人達の持っている僅かなものを奪っていく、怖いですねえ。

ロシアとウクライナが戦争をしていて、ガザでは内紛が起こっていて、北朝鮮と韓国が敵対して、中国と台湾の軋轢もあって。大丈夫でしょうか。くにんさんの詩にならって、我々の願いもたった一つです。



12 小説「願いをめぐる二つの短い物語」海亀湾館長

海亀湾さんの小説。
「願い」をテーマにした全く異なるふたつの物語に別れています。一つ目は軽妙な登場人物が繰り広げるコメディ。ジャック・タチの「僕のおじさん」、松田龍平が叔父さんを演じた「ぼくの叔父さん」はたまたフーテンの寅さんまで。叔父さんは謎に満ちている!
海亀湾さんの描く叔父さんもまた謎そのものです。何をしてるの?何をしてたの?何を考えているの?全く分からないけれど魅力的。それが叔父さん!

もうひとつは、頼るべき拠所のない少女と、彼女の抱える儚さの、聖夜の物語。こちらは悲しくて苦しい話です。海亀湾さんの配慮から、「読むのに注意しろ」との注意書きが「狭き門」の如くなされて躊躇われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今すぐ読んだ方が良いですよ。

この度の三つの願い、というテーマは取扱が思った以上に難しく各々のご苦労が見え隠れする回となりました。(無論私も)「三つ」という言葉の圧力から作品が膨れる傾向にあるんですよね。それでくにんさんが二作品、海亀湾さんが二パート、(ちなみに私も二倍の長さ)の作品を提出する事になったように思います。
清貧の、心清い人間には願いが三つは多過ぎる、とも言えますし願いを三つも叶える事のできる神様のごときテーマは、それだけ熱量を含んでいて人の手に余る、とも言えます。
作品ご提出の皆様、お疲れ様でした。



13 小説「ゴーストの凍ったシャワー」千本松 由季

千本松さんの今回の作品はネムキ企画での初出が2020年の5月。4年近く前なんですね。当時のテーマは「幽霊」でした。新型コロナウイルスの対応に各国が追われて、基本的に外出禁止。飲食店は営業禁止。主要都市に人はおらず、ロックアウト。ゴーストタウンと化していた。そんな当時の小説です。
その4年近く前にもこの小説を読んでいる気がするのですが、年月を経た所為かあまり覚えておらずまるで初読のように感じました。もしかしたら内容が改変されてそう感じるのかもしれません。
幽霊と恋仲に落ちる男がいるのですが、実はそれが幽霊と生霊の三角関係なんですよ。もしかして登場人物が三人いるから、それぞれの思惑がテーマである「三つの願い」に通じているということなんでしょうか?死霊生霊陵辱系三角関係ボーイズラブという中々クレイジーな設定でした。



14 小説「ゴッド・ウィル・B・デッド」ムラサキ

5万文字あります!
わたしです!



まとめ

と、願い事を巡る旅。いかがでしたか?
邪悪な願いから純真無垢の願いまで様様の願いがありました。そのどれもが人間の心理から発するものです。
文学は人間の欲求を邪悪と無垢とに分けますが、経済は需要と供給の経済曲線に、需要の種類を問いません。欲望するのが人間で、社会は欲望に従って潤滑するので経済学では欲望に善悪などつかないのです。
さて、人間の生きる道標とはなんでしょうね。

十人の人間が今、死ぬ運命にあるとして、何人か助かることが出来ます。必ず一人は生きなくてはいけないし、必ず一人は死ななければなりません。また、死ぬ人間が多いほど生き残った人間には多くの報奨金が出ます。

なんて、デスゲームがあったらどうなるんでしょうね?いや、どうしよう?そもそも生に執着するべきか、諦念するべきか。生きるも地獄、死ぬも地獄ですね。

暗黒神様「デスゲームをやるよ!」
NEMU「!」
暗黒神様「臓物を捧げろ!」
NEMU「!!!」

三つの願いを言ってみろ!

と、今回もぐだぐだの儘、閉幕です。
お付き合い下さりありがとうございました。締切遅れて誠に申し訳ございません。平に平に。


山羊の郵便局と新企画について(検討中)

山羊郵便、どうしようか検討中です。皆様の解題にポストは設置しているので、郵便を差し出す事は出来ますが、次回どうするか検討中です。一番最初の「互選」に戻すかも……。いや、戻さないかも。


次回NEMURENUのテーマについて

NEMURENU(文芸ネムレヌ)のテーマは投票によって決められます。
書きたいテーマ、読みたいテーマにご投票お願いします!投票はどなたでも出来ます!お気軽にどうぞ。
・各点数につき一作品を選んでください。
・点数にふたつの作品を割り当てるとエラーとなります。
・ひとつの作品にふたつの点数を割り当てた場合は高い方の点数が反映されます。
・投票締切は1月26日金曜日18:00です。
・本当は59回の締切は2月末なのですが、遅くなってしまったので、3月末にずらそうかと思っています。(偶数月の末日締切にして、年末年始に締切が来るのは毎年キツイ……)

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