現代詩「墓地にて放屁仕り候ふ」

墓所の石段に座って僕は
灰色の空を眺めている
屹立する灰色の墓石たち
居並ぶ直方体
今日もこの街は灰色である
人間到る処青山あり
そう思って僕は
爽快に放屁をすると
墓石の合間から読経が
はじまった
黒衣の人々が新しい墓石の前で
合掌している

ところで
僕は世界から締め出されてしまった
コンビニでドーナツとスムージイを買って
車の中で食べようと思って
その前にトランクに荷物を仕舞おうと思って
少し記憶が断絶して
気が付いたら
車の鍵はトランクに
僕は車の外に
トヨタのシルバーグレイのオールドカーは
鍵が掛かったまま開かない
車の中には僕の全てが入っているのに
さっきまで飲んでいたコーヒー
読みかけの文庫本
今日の仕事
其処こそが僕の世界なのに
無防備に
僕は世界から締め出されてしまった

紆余曲折
うよきょくせつ うようよきょくせつ うよきょくせつせつ

車両保険のロードサービスに連絡をした
ロックマンが来るまで40分から1時間と告げられて
所在なしに僕は裏手の墓地にいる
ドーナツとスムージイを手に提げて
顔も知らない人の読経を聞いている

「邙山」 沈佺期
北邙山上に列なる墳塋
万古千秋より対する洛城
城中に日夕、歌鐘は起こり
山上唯だ聞く松柏の声

もうすぐ雨が降るだろう
読経を聞きながら
今度は控えめに放屁をした

(現代詩「墓地にて放屁仕り候ふ」村崎カイロ)

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