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絵のない絵本「スイートホーム」

あるところに。

素敵なお家がありました。

いったい何が素敵か、ですって?

そのお家は住んでいる人の
望むようなお家に姿を変えるのです。

あるときは
数学者が住みました。

ほらね、凄くアカデミックなお家になったでしょ?

またあるときは
女優が住みました。

鏡ばっかり!

またあるときは
子どもの生まれた若い家族が住みました。

子どもが遊べるような

すべり台。
ブランコ。
隠れ家。

ちっちゃなテーブルに
ちっちゃな椅子。

たくさんのおもちゃ!

素敵な家は子どもが喜ぶように
一生懸命かたちを変えていきました。

でも
子どもはいなくなってしまいました。

そして

家に残ったのは
男の人が一人だけ。

素敵な家は段々歪んでいきました。
溶けたようになって、グニャグニャに。

段々汚い色になっていきました。

気持ちの悪い装飾が付くようになりました。
コウモリ。
蜘蛛。
おばけ。

素敵な家は悲しくなりました。
こんなの全然素敵じゃない!

素敵な家は
初めて住んでいる人の気持とは
あべこべな家になろうとしました。

そうすると
かつてここに暮らしていた子どもの姿になりました。

パパ!

男の人はとても驚きました。

それから
男の人は素敵な家の中で揺り籠に揺られるように安心した顔で暮らしています。