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池田澄子句集『月と書く』

池田燈子の新句集『月と書く』が上梓された。
さっそく、朝日新聞の夕刊に、インタビューと紹介記事が掲載されていた。
要点を押さえた記事なので、私の個人的な評ではなく、その記事を以下に転載、紹介させていただく。

戦争・コロナ…詠まないわけには 池田澄子さん句集「月と書く」朝日新聞2023年7月26日夕刊

記事転載 


 幅広い世代のファンがいる俳人の池田澄子さん(87)が第8句集「月と書く」(朔〈さく〉出版)を出した。ロシアによるウクライナ侵攻、コロナ禍を詠んだ句を収録した。何年も続く悲しみと悔しさが、ひしひしと伝わってくる。「詠まないわけにはいかない」と覚悟を決めた作品群だ。
 〈蝶(ちょう)よ川の向こうの蝶は邪魔ですか〉
 ロシアとウクライナを、空を舞う美しい「蝶」に例えた。池田さんは言葉少なに「邪魔なはずはないのに、何で人間は……他の動物は爆撃などしません」と嘆く。
 〈春寒き街を焼くとは人を焼く〉〈焼き尽くさば消ゆる戦火や霾晦(よなぐもり)〉〈日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾(しょういだん)〉〈剥(む)いてあるリンゴ錆(さ)びゆき何故(なぜ) 空爆〉
 8歳のとき、父を戦争で奪われた。過去に〈前ヘススメ前ヘススミテ還(かえ)ラザル〉という句を詠んだこともある。時を経た今、新聞やテレビで連日報道される泥沼の戦争。父を亡くした悲しみを、また突きつけられる思いがする。
 もう一つの災厄であるコロナ禍。「人が人に会えない時代」だと痛切に感じてきた。
 〈逢(あ)いたいと書いてはならぬ月と書く〉
 今回の句集のタイトルにした句。若き日、遠距離恋愛の恋人に宛てた手紙に「月を見ています。あなたも見ていますか」と書いた。この句にも「離れていても、同じ月を見て、あなたのことを思っていますという気持ちを込めた」と言う。
 〈お久しぶり!と手を握ったわ過去の秋〉〈疫病の話に戻る黄粉餅(きなこもち)〉〈夏休みも終(おわ)るウイルス拡大図〉〈春愁のともかくも手をよく洗う〉
 「私の年齢になると、いま会わないと、寿命が尽きて、あるいは病気で亡くなってしまう友人、知人が出てくる。それなのに、会えないというのは切ない」「若い人や子どもたちにとっても、その年齢でしかできない何かを失うのは、取り返しのつかないことですよね」
 ロシアのウクライナ侵攻とコロナ禍を「悪い夢を見ているよう」。だからこそ、祈りの句も収録した。〈夕顔の蕾(つぼみ)うごきぬ明日は平時か〉
 俳句を始めたのは30代の後半。代表作〈じゃんけんで負けて蛍に生まれたの〉や〈人類の旬の土偶のおっぱいよ〉〈恋文の起承転転さくらんぼ〉など人気が高い作品を生んできた。
 今回の句集には「イケスミ俳句」の柱の一つである生命賛歌も収められている。
 〈健やかなれ我を朋(とも)とす夜の蜘蛛(くも)〉〈幸あれよ薔薇(ばら)の葉裏に棲(す)む虫も〉〈蛇の尾の筋肉質の喜怒と愛〉
 「生物にわけへだてはないでしょ。だって、生きているんだから。私だって、たまたま人間の一人として生まれてきただけ」
 「俳句って何だろう」とずっと考えている。答えは、まだ見つからない。「ただね、俳句を詠んだときに『私からこんな句が出てくるの』とびっくりすることがあるんです。それがうれしくて、続けているのかもしれませんね」(西秀治)


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