論文YouTuberいさおさんのインタビューを受けたので補足記事を書いた

こんにちは。ピアニスト石川武蔵です。最近のことですが、論文YouTuberいさお(@isaotinen)さんにインタビューしていただいた動画が出ました。面白くまとめて頂いているので皆是非見てください。2本立てです。

いさおさん、本当にありがとうございました。

このインタビューは8月下旬に豊島区の要町にあるイベントバーエデン本店で行われたのですが、10月からはそこの店長になられるそうです。楽しみですね!

アカデミックな内容のチャンネルで音楽高校・音楽大学というかなりの魔境についてや、もはやマイナージャンルと言えるクラシック音楽についてとりあげた動画を出していただいたので、余計なこととは知りつつも私の方から少しだけ補足と解説をさせていただこうと思います。

音楽高校と音楽大学の授業

動画で喋っている音楽高校・音楽大学というのは主に私が通っていた東京都調布市にある桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)と桐朋学園大学のことです。高校の方は女子高に音楽科が併設されていますが普通科の人々とカリキュラム等は全く別です。同じ授業を受けたりすることもありませんし、交流もゼロです。寧ろ大学生との方が交流があります。桐朋学園大学は音楽部門のみの単科大学です。校舎を共用する関係上高校の授業も90分単位で組まれています。

動画では音楽高校のカリキュラムで特徴的な部分について話していましたが、「西洋音楽史」や「和声」の授業に加えて、「ソルフェージュ」「初見」という演習もあります。ソルフェージュというのはメロディや和音を書き取ったり、書かれている音符を正しく歌ったりする演習のことです。語学学習におけるディクテーションに似ています。初見は自分の専攻楽器で書かれた楽譜を演奏する演習です。日頃とにかく楽譜から情報を得て演奏することになるので、そのスピードと正確性を上げるというのが目的ですね。ソルフェージュや初見は能力別にクラス分けがされるので誰が得意で誰が苦手なのかすぐ分かります。上のクラスの方に配属されると同時に6個や7個の関連性のない音をバーンと鳴らして聴音(聴いて書き取る)するという儀式みたいな授業になってきます。

話し損ねたこととしては、2ヶ月に一回くらいのペースで外国からいろんな偉い先生がやってきて、マスタークラスを受けることが出来る環境があります。その出会いで留学先を決める人も多いです。私もその1人でした。

勉学については動画でも話している通り底辺レベルだと思います。東京藝術大学なんかだと附属高校から進学するにしてもセンター試験を受験する必要があったりするみたいですが、私立の音大附属高の場合は大抵酷いです。桐朋には楽器を弾く以外は何も出来ない人間もけっこうな割合で存在しているので、数学や英語も能力別クラス分けがなされていて、英語なんかだと中学単元で脱落した人たちのための総復習クラスと、イギリス人がもっぱら英語を喋り続けて毎回現地の新聞記事を読まされるようなデキる人たちの為のクラスまで幅があります。私はクラス分け試験がまあまあ出来てしまったので毎回新聞を読まされるのですが全然分からないし周りは帰国子女組がペラペラやっているので大分語学が嫌いになってしまいました。語学学習に苦手意識を持ったことで後にフランス語を覚える時に苦労しましたね。まあ誰も悪くないのですが。

「内部生」と「外部生」

附属高校からの進学組と外部からの受験組は大学に入ってからもカリキュラムが違います。高校の3年間で和声や西洋音楽史の知識が入っている内部生はより発展的な内容を扱う授業を履修することになります。逆にソルフェージュや初見の授業は能力別クラス分けのテストが一斉に行われるので、同じ授業になることもあります。一般教養についても区別はありません。

動画の中で基本的に内部生の方が上手いと言っていましたが、これは全体の平均を見た場合で、上位層は外部生であることが多いです。何故かと言うと、内部からの進学組で上手い人間は大学在学中に留学することが多いからで、卒業演奏会に選抜される面々が殆ど外部生という年もあります。


パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール)について

コンセルヴァトワールというのはフランスにおける公立の音楽院全てを指す単語で、フランスではパリ国立高等音楽院のことを Conservatoire National Supérieur de Musique et de Danse de Parisの頭文字をとってCNSM(セーエヌエスエム)と呼びます。たまにコンセルヴァトワールと経歴に書いておいてパリ地方音楽院卒業だったりする人がいます。まあ嘘はついてないですけどね。色々なタイプのコンセルヴァトワールがありますが、気になる人は以下のWikipediaのページで読んでみてください。動画で触れていたディプロムについても少し書かれています。

CNSMではそれぞれ楽器(或いは作曲)に教授が居て、それぞれの教授のクラスに10人前後学生が在籍できます。クラスの誰かが卒業すると枠が空いて、入試が行われます。楽器によっては教授が1人とか2人の場合もあるので枠が空かなくて募集なしという年もありますし、入試が行われた結果合格者なしということもあります。

特徴的なのは楽器ごとに年齢制限が設定されていて、入学できるのはピアノやヴァイオリン、フルートなどの早熟とされる楽器は21歳以下、チェロはもう少し上、声楽はそのまた更に上、となっています。また3アウト制で、3回入試に落ちると生涯受験できません。これはフランスの教育思想からくるもので、早い段階で適性のある分野を学び、専門を変更することは認められないシステムになっています。ヨーロッパの大学にしては珍しいですね。ドイツなんかだともっと年齢の高い学生は多いです。

ピアノの森について

カイくんと私が同い年という話ですが、作中に出てくる全日本学生音楽コンクールの課題曲が同じだったという理由です。毎年課題曲が変わるので、作中が何年なのか推測できます。

ただ、連載途中でショパン国際ピアノコンクールのレギュレーションが変わってしまったので新ルールに寄せる形になり、18歳のカイくんが受けているはずの2005年のルールとはだいぶ変わっていました。途中で休載も長かったですし連載が長期化したので起きた現象だと思います。なので連載の後半のカイくんと私の年齢はシンクロしていないと思われます。どうでもよいことですが笑

おわりに

素晴らしい動画に対して蛇足であることは分かりつつ、話に盛り込めなかった部分について書いておきました。いさおさんは話の聞き出し方が上手くて、こちらもどんどん調子に乗って話してしまいましたね。少しでもクラシック音楽という特殊な世界に興味を持っていただけた方が居れば嬉しいです。

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