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盗難から始まる愛もある

-2010-
Mexico City, Mexico-


旅行中、大事な物やお金を盗難にあった経験のある人って、結構いるんじゃないだろうか。
僕にもある。
あれって、本当辛くてしんどくて、あの瞬間に戻れるなら!と思わずにはいられない!

そう、あれは忘れもしない2010年のある日、僕はメキシコシティにいた。
同じ宿で仲良くなった数人と一緒に、街で遊んでいた時に、一人のメキシコ人の女の子と知り合った。
彼女の名はロミナ。
ノリが良くて可愛いのでみんなすぐに仲良くなった。


ほぼスペイン語の英語を話すロミナ。
何話してるのかあんまわからないけど、明るくて優しいからオッケー。




その日の夜、彼女の友達の家でバースデーパーティーをやるから遊びにおいでよ!と誘われ、時間だけは有り余る程あった僕らは当然のごとく遊びに行った。
友達の家でのパーティーは楽しく、誰だかわからない女の子の誕生日をみんなで祝った。
ホームパーティーが少し落ち着いて来た頃、数人で外で一服してると、何処か遠くから別の音楽が聞こえてくる。


ちょっと歩いて行ってみる?


ロミナと僕らは音楽の流れる方へ歩いて行くと、一軒の家の中から爆音で音楽が流れてくる。
どうやらここでもホームパーティーが開かれてるらしい。

彼女はズンズン中に入って行き、数人の人と話した後、中に入ってもいいらしいよ、ちょっと覗いて行く?
と、もう一度中に入って行く。

これがメキシコなのか。
てか、知り合いなのか?

ま、いっか。と、僕らもとりあえず後からついて中に入って行くと、中では部屋をダンスフロアにして、DJブースまで作って十数人の若い人達が踊ったり喋ったりしてた。

みんな僕らの事なんて気にしてない様子で、僕らも数人の人と挨拶しながら、ダンスフロアで体を揺らしてた。

DJがマイケルジャクソンから、レゲエ、ダンスホールを爆音でかけ始めて、僕も段々その場が楽しくなり、ロミナとダンスフロアの真ん中で踊り出した時の事だった。
いつも肩から掛けてるカメラが、彼女の腰や背中に何度も当たってるのに気づいた。

あ、ごめんごめん!と、なるべくカメラが当たらないようにするのだけど、くっつき合って踊っているから(離れろよ)どうしてもカメラが彼女にガンガンぶつかってしまう。

そんな時に流れ始めたのが、サルサ。
パートナーと手と手を取り合って踊る、あの情熱のサルサだ。

僕はこのカメラどうにかならないか、と、目の前に置いてある椅子に目がいった。
僕と椅子との距離は1m以内の、手をちょっと伸ばせば届く、ほんの目の先だ。
僕は肩に掛けてたカメラを一旦椅子に置いて、ロミナとカメラを気にする事なくサルサってた数十秒。

熱かった。
燃え上がった、ほんの数十秒の間だった。



ふと椅子を見返すと、そう。
なんと、カメラが無くなってるじゃん!

えええーーーーー!!!
さっき、ほんの一瞬前まで目の前にあったカメラが見事に無くなってる!

すぐに周りを見回してみるけど、誰も何も変わった様子もなく、相変わらずがやがやとしてる。
すぐにロミナに伝えると、彼女も、ええーーーー!!!と絶句して、すぐに周りの人に聞き回り始めた。

人間て同様すると、どう見ても絶対ないのに、何回も椅子の下とか見返すから変な生き物だと思う。(あ、俺だけか)
DJも何かを察知したのか、どうしたどうした!?と音を止めて寄って来た。

周りの人達に聞き回っても、誰も知らないという。
当然だ、僕ら以外、きっとみんな友達なのだ、知ってても知ってるなんて言わないだろう。
完全に100パーセントアウェイ。

ロミナは警察に電話してくれたり、家の主と話したりしてくれたのだけど、家の主も「誰が家に居たのかなんて、俺だって完全に把握出来てないんだ、申し訳ないけど、もし誰か見つかったらすぐに彼女に連絡するよ」
と、謝るばかり。

そらそうだ、俺らだってすんなり居れちゃうくらいゆるいんだもん。

あんた、本当は何か知ってんな?とかいつまでも言ってたいけど、そんな事をしても、もう絶対出てこないだろう。


真っ暗だ。
あの情熱的にサルサってた熱い瞬間から一変、完全に真っ暗だ。


それから、みんなに慰めてもらいながら家を出て、元の家に戻った。
僕は完っ全に死んでた。
なんであの時カメラを手放したんだ!って事ばかり何度も考えてしまう。

だって少しでもくっつき合って踊っていたかったんだ!良い雰囲気でくっついておどけてる間に盗むなんて、余りにも酷いじゃないか!
(いや、だからだよ!とか言わないで!)




元の家でのパーティーも完全に終わっていて、人も殆どいなくなってた中に、ロミナ達は荷物を取りに行った直後、彼女は突然走って外に飛び出して来た。

私のカバンが盗まれてる!どこにもない!

どーん!!
ええええーーーーー!!!

みんなで家の中を隈なく探したけど、結局カバンは出てこない。

中には財布と携帯と家の鍵が入ってたらしく、一瞬、キー!!って表情を見せて、ファックと呟いたものの、彼女は、またすぐに僕の事を気遣ってくれる。

いやいやいや、財布と携帯盗まれたんでしょ!と聞き返すと、彼女は笑いながら、
まあしょうがない、こういうの時々あるから。
それよりカメラどうする?
と、僕より全然あっけらかんとしてるじゃないか。

なんで?大人!?
いや、メキシコ人ってこんな感じ?
いやいや、ロミナがこうなの?

とにかく、なんか暗い顔して何も喋らず、真っ白になってる自分が、急に恥ずかしくなってきた。


そうだ!盗られたのは全部俺のせいじゃないか!それをなんで世界一不幸な奴ぶってるんだ!
ちっちゃい!
俺、ちっちゃい!


残ったみんなで明け方の芝生に座ってジョイントを回しながら、今夜の出来事を思い返してると、なんか全てがマンガみたいで、僕より断然普段通りの10も年下のロミナ達を見てると、段々と笑えてきた。

一緒に盗難に合った事もあってすっかり意気投合した僕らは、翌日から毎日の様に遊ぶ様になった。



ロミナは家族や友達を次々紹介してくれて、時々友達の家を一緒に泊まり歩いては、とにかく会える日はなるだけ一緒に遊び周ってるうちに、あんなに大事だったカメラを盗られた事が、すっかり小さい事に思えて来るから人間てやつはよ。

いや、本当ゆっくりくよくよする時間もない位、ずっと遊んでくれてたロミナと宿友達には、今でも超絶感謝してる。


大体いつも何処にいるのかわかってない僕と、そんな事どうでもよさそうなロミナ。
時々友達の家に泊めてもらって、朝まで遊んだ。


待ち合わせに数時間遅れるなんて事もよくあって、待ってる間に仲良くなったピアス屋のおばちゃんに、穴を開けてもらったりなんて事も。


街に出る理由があると、良い感じのカフェや洒落たお店なんかも段々わかる様になってきて、メキシコシティが好きになった。





とにかくカメラだ!これでカメラさえあればオールオッケーだ!

その時持ってたお金をほぼ全額つぎ込んで、同じカメラを買い直してから数日が過ぎた時だった。

一通のメールが届いた。

ロンドンの治験所から、治験の案内だった。



つづく





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いや、これ誰かからサポートあった時ほんまにむっちゃ嬉しいんですよ!!