Interview:Celia Hay | ニュージーランドワインの今

 「世界が白に目覚めた一本」。

 ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランを世界に広めたカリスマワイン「Cloudy Bay(クラウディ・ベイ)」のキャッチコピーである。

 マールボロー地方のソーヴィニヨン・ブランをきっかけに、ニュージーランドワインが世界に注目されはじめたのが1990年代。いまやワイン銘醸地として地位を確立しつつあるニュージーランドの今を追うべく、ニュージーランドで料理とワインの学校を経営しているセリア・ヘイさんに話を聞いた。

 まずは、セリア・ヘイさんの経歴を紹介したい。

 クライストチャーチの元市長の娘として生まれ、大学では歴史学を専攻。卒業後、まったく別業界の料理の道に入り、政府認定のシェフとなる。WSET(イギリスのワインアルコール類の教育認定)のディプロマ、教育学、経営学修士号を取得。現在は教育者・経営者・執筆活動と八面六臂の活躍ぶりだが、さらに驚くことに、3人の子どもがいる。お会いする前は「バリバリのキャリア・ウーマンなんだろうなぁ……」と怖じ気づいていたが、実際お会いしてみると、「いいお母さん」という印象で、温かく気さくな方だった。

 3作目の著書となる「NEW ZEALAND WINE GUIDE」のお披露目もかねて来日していたセリアさん。まずは新刊についてうかがうと、「今回完成した本は5時起きで執筆したから、『5-AM-Book』なの」といって笑った。さすがスーパーウーマンは自分に厳しいのだ。

 今回の本は、「この本を持って、ニュージーランドのワイナリーに来てほしい」とセリアさんも言うとおり、ワイナリーのガイドブックを意識してつくったもので、持ち運び不可能な分厚いデータ・ブックにするつもりはなかったという。確かにページをめくると、写真や地図が多用されており、読み進めるだけで、ワインだけでなくニュージーランド全般に詳しくなりそうだ。


◆NZで料理とワインを学ぶには

 ニュージーランドは大きくわけて北島、南島に分かれるが、セリアさんが経営する料理とワインの学校「New Zealand School of Food & Wine」は、北島のオークランドという街にある。

学校では政府認定の専門資格が取得できるほか、数日から受講できるバリスタ・コースやサービングのクラスなど多彩なカリキュラムを用意している。学校にはレストランが併設されており、ワインのサービスを現場で学べるのも利点のひとつだ。

生徒の人数や男女比はコースによってまちまちだが、経営に関する本も出しているセリアさんの影響か、IT系からレストラン経営への転身を目指す年配の方も多いそう。


◆つぎに来るのは低アル&低カロワイン?

 先日参加した試飲会で、輸入元の方に、「ニュージーランドでは低アルコール・低カロリーのワインが流行っている」という情報を聞いたので、真相をセリアさんに確かめてみた。

「政府機関とワイナリーが協力して『より高品質かつ低アルコール・低カロリーのワイン』を研究しているけれど、まだそこまで一般的ではないわ。お酒は飲みたいけど太りたくない人や、飲んでも酔いたくない人にはいいかもね」

飲んでも酔いたくない人……ほろ酔い感覚が好きな私には信じられない話だが、かくいうセリアさん自身もそのタイプのようだ。

「昔は、ニュージーランドワイン、特にシャルドネやソーヴィニヨン・ブランから作られるワインは、アルコール度数も12.5%程度とそれほど高くないものが多かった。そこから、収穫時期を遅らせ糖度を上げ、アルコールを高めにするワインが増えた。さらにその反動で、再び低アルコール化へ向かう流れが出てきたとも考えられるわ」

以前、アルコール度数10.5%のニュージーランドワインを試飲したことがあるが、フレーバーがよく、するすると体内にしみこむようなナチュラルな味わいだった。低アル&低カロのダイエットワイン、それほどお酒に強くない人や、ヘルシー志向の女性にはいいかもしれない。

 

 ◆ニュージーランドのお酒事情

 日本では一部の例外を除き、酒ばなれが進んでいるというが、ニュージーランドの人はどんなお酒を飲むのだろう。

—若者はワインに対し、どんなイメージを持っているか?日本みたいに、スタイリッシュなお酒のイメージ?

「Absolutely(もちろん)」とセリアさんは大きく頷いた。

 若者は以前はビールをよく飲んでいたが、今は”ワイン=オシャレ”というイメージがあるという。ニュージーランドでもワインは比較的新しい飲みもので、よく飲まれるようになったのもここ20年ほどのこと。

—セリアさん自身は、どんなワインを飲むのですか。いままで飲んだニュージーランドワインの中で、おすすめを教えてください。

 「個人的にはシャルドネやヴィオニエが好み。辛口の白が好きだけど、ソーヴィニヨン・ブランはあまり飲まない。酸が強くて、アルコール度数が高いので、個人的には好きではないわ。日本の夏のようにむしむししたところで飲むにはピッタリだろうけど、ニュージーランドは涼しいもの」

 ニュージーランドというと、どうしてもソーヴィニヨン・ブランの白のイメージが強いが、地元の人がソーヴィニヨン・ブランをよく飲むとは限らない。確かに日本人だからといって、日本の甲州やマスカット・ベリーAを飲む人ばかりでないのと同じだ。

 そして、おすすめのワインとしてHanz Herzog(ハンズ・ヘルツォーク)のヴィオニエ、Pegasus Bay(ペガサス・ベイ)のリースリング、The Millton Vineyards(ミルトン・ヴィンヤーズ)、Te Whare Ra(テ・ワレ・ラ)、Grey Wacke(グレイワッキ)などを挙げてくれた。

 話を聞いていたら、セリアさんの本をバッグに入れて、ニュージーランドを縦断したくなった。


◆ワインの好みを把握する方法

 セリアさんの最近の関心事は、個人の行動パターンや食の好みがワインの嗜好にどう影響するか。本のなかでも紹介されているが、アメリカのワイン専門家ティム・ハンニMW(マスター・オブ・ワイン)が提唱する「Vinotype」という方法では、ワインの嗜好パターンを「甘党派」「超敏感派」「敏感派」「寛容派」の4つに分類している。珈琲にミルクやお砂糖を入れるか、スナックは好きか、などいくつかの質問に答えていくことで、自分がどのタイプかがわかる。

 私も実際試してみたところ、「冒険心がつよく自由な性格……」と、ワインの好みばかりか、性格や仕事の適性まで分析されてしまった。たしかに、柔軟な性格なら未知のワインもどんどん試すだろうし、えり好みする性格なら、自分のストライク・ゾーンに近いものばかり選ぶだろう。自分の好みを把握し、最適なワイン選びに役立てる1つの方法としては面白い。

 セリアさんについていえば、インタビューの合間にこぼれるワイン哲学「皆レストランや自宅で、ワインを飲むペースが早すぎる。ゆっくり時間をかければ、もっとワインを楽しめる」「(ワインの味がわからなくなるから)飲んでも、酔いたくはない」……などからも、味覚に対してストイックなことがうかがえた。


 インタビュー後、セリアさんの「日本のワイン・スクールを見てみたい」という要望により、アカデミー・デュ・ヴァン青山校を案内させて頂いた。「いつかここでワインセミナーをやりたい」と話しながら、興味深そうに見学していたセリアさん。その好奇心が、彼女が現状にとどまらず、進歩しつづける原動力なのかもしれない。世界を飛び回る彼女の今後の活躍が楽しみだ。

▼NEW ZEALAND WINE GUIDE
http://nzwinebook.com/

▼Cloudy Bay(MHD社)
https://www.mhdkk.com/brands/cloudy_bay/

▼Vinotype
https://www.myvinotype.com/


(2014.5.24取材 / 水上 彩)

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