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たいしのバントと、雄平の代打と、それぞれの役割と。【7/10横浜戦◯】

あのスクイズが決まらなかった時のことを、今でも何かあるたび思い出す。あの日、たいしはどんな気持ちでベンチに戻ったのだろう。そして、どんな気持ちで戸田へ向かったのだろう。

今日、たいしは、8回裏、1アウト1塁の場面でバントの構えを見せた。

あの日と同じことを私は思った。いや待って、たいしには打たせてあげて、と。

たいしは、1球目で失敗し、2球目は見送った。あの日のスクイズ失敗が頭をよぎる。でもたいしは3球目でしっかり、見事にバントを成功させた。

ベンチでみんなに笑顔で迎えられるたいしを見ていたら、なんか私にまで込み上げてくるものがあった。

プロ野球選手はいうまでもなく、みんなみんな野球のエリートだ。子どもの頃からずっと、その地域で、学校で、チームで、おそらく多くの人が一番野球が上手な選手だった。プロを目指そう、と思えるほどに、技術と自信が備わっていただろうと思う。

そして、いつだってここぞの場面で打つことを期待された。たいしだってきっと、いやまあ永遠のアーチが同じ学校にいたとしても、そこで打つことを期待されてきた。でも昨日は終盤の大切な場面で出されたのはバントのサインだった。私にすら残っているあのスクイズ失敗の残像は、きっとまだたいし本人にだって残っているだろうに。

でもたいしはそこで、しっかりバントを成功させた。あの日の残像を打ち砕くように。夢とロマンがたくさんある一人の若者は、そこでチームのためにしっかりと、堅実なプレーを見せた。

それは一つの成長で、そしてたぶん、大人になるということだ。

そしてそのバントを、代打で出てきた雄平は生かし、勝ち越しのタイムリーを放った。

35歳のベテランももちろん、きっとずっとエリートの野球人生を歩んできた。でも投手としてうまくいかず、野手に転向をした。そして野手としてしっかり、結果を残してきた。

去年はレギュラーを掴み取り、5番を打った。年俸は1億の大台に乗った。

でも今年、目の前には厳しい現実がある。ルーキーの中山くんは5番の仕事をしっかりこなしている。3番をココちゃんが打ち、4番を村上くんが打つなんて、去年は1ミリも考えなかった光景が、目の前に広がっている。

雄平が目指すのは多分、「代打の神様」じゃない。そこでスタメンに名を連ね、しっかりと結果を残すことだ。だけどそれでも今、今日この時点で求められるものがあるのなら、それとしっかり向き合わなきゃいけない。くさることなく、その現実と対峙しなきゃいけない。

雄平はしっかりとその仕事を果たした。今、この時点でできる最大の仕事を成し遂げた。

そうだよな、と私は思う。仕事って、そういうものだ。その時その時でやるべきことは変わってくる。チームの仕事なら、自分の役割だってその都度変わってくる。その役割をきちんと理解して、向き合って、そして自分の思いとも折り合いをつけて、堅実にその仕事をこなしていく。たいしはバントを成功させ、雄平は代打でタイムリーを打つ。

それがチームの一勝と、そしてきっとまたいつか、個人の大きな仕事にだってつながるのだ。

後ろに座った小学生が、「俺、明日日直だから、この試合のこと発表するよ!」と、嬉しそうに話す。お母さんが「それいいねえ」とにこにこ笑っている。夏の光景が、それぞれの胸にしっかりと刻まれていく。暑い夏は、きっとこれからやってくる。今この瞬間の仕事を抱えた誰しもにとって、今年の夏もまた、一度きりだ。


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