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FUNKを学ぶ - Free Your Mind And Ass Will Follow(2019年4月6日「ファンクの庭」テキスト)

※このテキストは2019年4月6日に歌舞伎町ROCK CAFE LOFTで開催されたエレファンク庭さんの企画「ファンクの庭」のために書いた台本ないしメモのようなものです。

1. ファンクとは・・・

ファンクとは、60年代後半に誕生したアフロ・アメリカンによるアフロ・アメリカンのためのダンス・ミュージックのこととします。従来のポップスとは異なり、歌のメロディやコード進行よりもリズムを強調したスタイルが特徴です。これがとても革命的でした。アメリカのヒットチャートを目下制覇中のヒップホップ、およびその流れを組むポップスはファンクから派生したジャンルとも言えます。

リッキー・ヴィンセントによる『ファンク 人物、歴史、そしてワンネス』という本にはこのような記述があります。

「カリフォルニア大学のロイ・トーマス教授によるとアフリカの言葉では、音楽という概念と踊りという概念のあいだにまったく区別がないことが多いのだそうだ。」

黒人にとって音楽とダンスはわけて考えられないものだということです。ファンクはまさにそうした感覚を強調した音楽だといえます。

我々日本人も音楽に合わせて歌うことは好きな人も多いと思います。カラオケ店がそこかしこにありますよね。しかし、踊りとなるとあまり日常的ではないかもしれません。おそらく、カラオケには行ったことがあるが、クラブには行ったことがないという人が多いのではないでしょうか。音楽を聴いて踊るという習慣がないことが、今ひとつファンクが市民権を得ていない理由のひとつのように感じられます。別に統計を取って調べたわけではないので、ただの印象でしかないことは念を押しておきたいと思います。

黒人にとって音楽と踊りは分けられないものという背景があって、ファンクという音楽が成立していると言えます。ファンクは座って静かに耳を傾けるものではないということです。黒人にとって音楽と踊りは分けることができないものという前提、または背景を理解してファンクに接することが大事だと思います。

“Funk”という単語はもともと「憂鬱な気分」、「ぞっとするような恐怖」というような意味だったそうです。”Funky”は”Funk”よりも古い言葉で、「強烈な悪臭」という意味があるとのことです。そうしたニュアンスを汲むとファンクとは「味の濃い、癖の強いダンス・ミュージック」といえるかもしれません。

ごちゃごちゃ言ってないでひとまずファンクの代表曲を聴いてみることにしましょう。

♪ Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine – James Brown

JBことジェイムズ・ブラウンの代表曲です。ファンクってこういう音楽です。「ゲロッパ」でお馴染みの曲です。「ゲロッパ」と「ゲロンノ」という掛け合いが印象的ですね。ちなみに”Sex Machine”というのはある種の玩具のことだそうです。今回調べてみるまで知りませんでした。つまり「起き上がれ!ある種の玩具みたいに」ということになります。 そのままの意味で取ることもできるし、お客さんやリスナーを踊らせるための煽り文句とも取れます。ファンク、ひいてはブラックミュージックには際どい内容とダンスを盛り上げる煽り文句をダブルミーニングにする伝統があるようです。日本の歌でいうと「胸騒ぎの腰つき」といったところでしょうか。

細野晴臣はYMOの音楽を以下のように説明していました。(1)下半身モヤモヤ=リズム、(2)みぞおちワクワク=和音とメロディー、(3)頭クラクラ=クラクラさせるようなコンセプト。ファンクはこの「下半身モヤモヤ」という感覚が非常に大切です。

2. ファンクとポップスの違いは?

ここで一度ファンクから離れた音楽を聴いてみたいと思います。

♪ Everything – Misia

Misiaの名曲です。すこし時間をとって1番のサビまで聴いてみましょう。歌以外にも意識を向けて聴いてみてください。

弦の華麗なイントロの後に、エレピをバックにしっとりと歌が始まります。次にリズムセクションが加わって同じメロディが繰り返されます。後半は新たなメロディが加わり、Bメロへと移行していきます。Bメロでは弦が加わって音に厚みが増して、サビに向かって徐々に盛り上がっていきます。そのままの流れでサビにいくかと思いきや暗転。一度ピアノとベースと歌だけになり静かになります。しばらくするとまたリズムセクションと弦が入ってサビらしくなります。その後に短い間奏があり、キメで締めて再びAメロに戻ります。冨田恵一の編曲によるとても素晴らしい構成だと思います。

ポップスは一般的にこのように起承転結のある構成になっています。ここでもう一度JBを聴いてみましょう。

♪ Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine – James Brown

JBの歌は多少変化があるものの、演奏は「ワーンツースリーフォー」とカウントされる1小節単位のフレーズをひたすら繰り返しています(※厳密にいうとベースは2小節単位)。これがファンクの特徴のひとつといえます。起承転結がないといえるかもしれませんが、個人的にはそうは思いません。たしかに「この後衝撃の展開が!一体どうなってしまうのか!」みたいなことは起きません。起きないというよりは、衝撃の展開が繰り広げられている真っ只中と言ったほうが良いかもれません。遠目に見ていると気づかないかもしれませんが、近くでみるととんでもない事態が起きていることがわかるはず。だから煽るとしたら「今まさに衝撃の場面に遭遇しております!」と言ったほうが適当だと思われます。

「ひょんなことから二人の人間が出会い、それぞれ第一印象は最悪で、反発しあうものの、お互いのことを知るうちに徐々に惹かれていく。すれ違いや恋敵の邪魔により何度も機会を逃すが、紆余曲折を経て二人は遂に結ばれる」こんなストーリーのドラマがよくありますよね。これがポップスの構成だとすると、ファンクはいきなり結ばれたところからスタートします。ドラマが全11話かけて見せるところを、ファンクはもっともっと短いスパンで結ばれるところを延々と繰り返していると考えていただけたらと思います。『東京ラブストーリー』の有名なセリフ、「かんち」「なに」「かんち」「なんだよ」「かんち」「だから、なに?」「かんち、好き。あ、言っちゃった。悔しいな」というやり取りをひたすら繰り返しているようなものです。

一体なんの話をしているのだろうと思うかもしれませんが、このイベントが終わった頃にはなんとなく納得していただけるかと思います。

3. ファンクで踊るためのリズム講座

ダンスミュージックとしてのファンクに接する前にまずリズムのとり方をしつこいぐらい説明していきます。今日以降、音楽の聴こえ方が変わってくるかもしれないので、是非お付き合いいただければと思います。

リズムは動いている(まるでハリウッドスキャンダル)

まず「リズムとは絶えず運動し続けるもの」と考えてみてください。リズムは常に振り子やブランコのように行ったり来たりの往復運動を繰り返しています。

リズムは昼と夜、ハレとケ、満潮と引潮、労働と余暇みたいなものです。または恋愛。まるで「ハリウッドスキャンダル」(郷ひろみ)のように、くっつき離れて愛して別れる繰り返し。まさに涙の粒のミラーボール。リズムの基本は往って来いの往復運動となります。

トランポリン、ホッピング、シーソー、ブランコ、お手玉、ヨーヨーといった遊具やおもちゃのようものです。上がって下がる、進んで戻ると考えてください。音楽を聴いて踊るためにはこのリズムの往復運動にのっかる必要があります。音楽を聴いて踊るのは我々ですが、実は音楽自体も踊っているのです。騙されたと思ってそんなふうに考えてみてください。

緊張と緩和のリズム

トランポリンは上下の往復運動、ブランコは前後の往復運動ですが、リズムはどことどこを往復しているかといえば、緊張と緩和を往復しています。お笑い芸人の方がよく「笑いは緊張と緩和」と言いますが、リズムも緊張と緩和でできています。

小節と拍(一枚のピザと4切れのピザ)

リズムの緊張と緩和についてお話する前に小節と拍について説明します。拍とは音楽を分割する単位のことです。英語ではBeatといいます。音楽のテンポを表す単位、BPM(Beat Per Minute)のBeatとは拍のこと。メトロノームの「カッ…カッ…カッ…カッ…」という音は拍を表しています。ポップスでは4/4拍子が一般的です。4分音符ひとつが1拍にあたり、1拍が4つで1小節という単位になります。ダンスのレッスンなどで「ワン、ツー、スリー、フォー」とカウントしますよね。つまり、1小節はこのカウントひとつ分ということです。

1小節を一枚の丸いピザに例えると、1拍は4等分したピザの一切れとなります。ダンス講師はこの4当分したピザに一切れずつ1、2、3、4と番号を振り分け、それをカウントしていると考えてください。

奇数は緩和、偶数は緊張

「1、2、3、4」というカウントについて補足しますと、1と3の奇数は緩和、2、4の偶数は緊張とおぼえておいてください。ここは言葉で説明してもなかなか伝わらないのですが、1と3はリラックスしながら、2と4は緊張しながら感じ取るというイメージをなんとなく持っていてください。

ひとつの拍を2つに分けてそれぞれに役割を振る
拍を真ん中で割ってふたつにわけます。さきほど4等分したピザをそれぞれ2等分するというわけです。合計で8切れのピザになります。これを4人に分けたいと思います。一人あたり2切れピザを食べることができます。4人の人間がピザを囲んでいます。時計まわりに一人2切れずつ食べていきます。最初に食べたほうのピザをオモテ、次に食べたピザをウラと呼ぶことにしましょう。

オモテとウラを行ったり来たりする運動がリズムの基本となります。

オモテとは?

最初に食べたピザのほうです。8切れのピザに1から番号を振っていった際に奇数になるピザです。オモテは奇数だと覚えてください。ダンス講師のカウント、のど自慢のオープニングで手拍子を入れるポイントです。

♪ のど自慢のオープニング

ウラとは?

2枚目に食べたピザのほうです。8切れのピザに1から番号を振っていった際に偶数になるピザです。ウラは偶数だと覚えてください。スカなどはギターでウラにアクセントを入れたリズムでお馴染みです

♪ プレゼント – ジッタリン・ジン

ギターのウチャッチャッ!という音がウラです。ベースとキック、スネアがオモテです。

ウラとオモテの往復運動

1拍をオモテとウラに分けたことで往復運動が可能になりました。オモテが家だとするとウラは会社です。毎日家と会社を往復するようなものです。

オモテとウラ、脱力と緊張

体を使って往復運動を実践していきたいと思います。その前にオモテとウラにおける体の使い方を説明します。まずオモテでは体から力を抜きます。いわゆる脱力です。オモテは偶数なので脱力になります。例えるなら部屋着でだらっとしてポテチでも食べながらスマホをいじってる状態です。

一方、ウラは奇数なので体に力を入れて筋肉を緊張させます。例えるならパリッとしたスーツを着て怖い上司のプレッシャーを感じながら今月の売上ノルマをこなすために営業に回っているような状態だと考えてください。

これからオモテとウラ、脱力と緊張ということを意識して実際に体を使ってリズムを取ってみたいと思います。

ふたつのポーズでリズムを取ってみる(家と会社の往復)

音楽に合わせて頭を前後に往復させてリズムをとっていきます。オモテとウラにそれぞれポーズを振り分けます。

ウラのポーズ

まずウラのポーズから説明します。首の後ろの筋肉に力を入れて頭を後ろに引っ込めます。営業成績が芳しくなく上司に詰められているときのポーズです。「なんだよ、この数字は。理由を説明しろよ、理由を。」と言われて、声を詰まらせながら「ど、努力はしたのですが・・・」なんて言っているような状況を想像してください。首の皮を顎の下でまとめる感じです。

オモテのポーズ

オモテは首の力を抜いて顎を前方へダラリと下げたポーズを取ります。普段わたしたちが頭を働かせずスマホを見ているときのようなポーズです。怖い上司のことなど頭の片隅にもありません。

このふたつのポーズを繰り返してリズムをとっていきます。脱力と緊張というふたつの状態を行ったり来たりしてリズムを取るということです。

2つのポーズを行ったり来たりする際は「1 and 2 and 3 and 4 and」とカウントしながら行うと良いでしょう。1234という数字がオモテ、”and”がウラです。

点と点を線にする(リズムは納豆)

リズムを取る上で大事なのがオモテとウラを点で捉えて終わりにしないということです。家と会社の往復ということを言いましたが、リズムを取る上で大事なのは通勤、そして帰宅というふたつの移動がメインだと考えてください。オモテとウラというのは点ではあるのですが、この2つの点を結んで線にすることが重要です。それぞれの点が納豆のように糸を引いてくっついていると考えてください。リズムは煮豆ではありません。リズムは納豆です。糸を引くような音楽がある種のファンクだと言うことができます。

移動に関して付け加えると、なるべく定刻通りに移動することを心がけましょう。遅刻厳禁です。そしてサービス残業にはノー!を突きつけてください。仕事が残っていようが関係ありません。「明日やろうは馬鹿野郎」と言われたら「何だこの野郎。明日でも良いことは明日やろう」と言い返しましょう。

ゴム人間のようにリズムを取る

ウラで首の筋肉に力を入れて後ろに引っ込めると説明しました。筋肉は伸び縮みするものです。筋肉をゴムだと考えて、ゴムを伸ばすようかのように後ろに引っ込めてください。伸びたゴムから手を話すと勢いよく縮みますよね。この要領でオモテで頭を前に下げてみましょう。バランスボールに乗っているような感覚で取り組むと良いです。

緊張と脱力を電化製品のオンとオフのように考えるのではなく、オンとオフがグラデーションになっていて徐々にオンからオフ、オフからオンに移っていくと考えてみてください。

ファンクに合わせて頭を動かしてみよう

それでは、ファンクを代表するグループ、パーラメントの”Up For The Down Stroke”という曲に合わせて往復運動をしてリズムを取ってみましょう。水泳の水かきのことをストロークと言ったりします。”Down Stroke”は上から下への動きという意味があります。タイトルを直訳すると「上から下への動きのために起き上がれ」となります。往復運動するにはもってこいのタイトルだとは思いませんか。”Stroke”はその手のスラングとしても使われているそうです。ファンクのダブルミーニングがここでも登場しています。

♪ Up For The Down Stroke – Parliament

今後ファンクに限らず音楽を聴く際には頭でリズムを取るようしみましょう。とりあえず本日のイベント中だけでも良いです。

この項目の話に興味がある人は「黒人リズム感の秘密」という本を手に入れて読んでみましょう。

4. ファンクはリズムが細かい

ここまで、拍を2つに割り、それぞれの点をウラとオモテとしてリズムを取るということをしてきました。今わたしたちの眼の前に八等分したピザがありますね。これをさらに2等分して16切れのピザにします。なぜそんなことをするのかといえば、ファンクのリズムを構成する点の最小単位が一般的に16分音符だからです。ファンクのリズムを感じるには16等分した点が判別できるようにならなくてはなりません。そのために新たなレッスンに取り掛かりましょう。

ファンクにのせて「ぶるんぶるんぶるんはるちるがるとるぶる」を歌ってみよう

童謡「ぶんぶんぶん」の歌詞にらりるれろを足して「ぶるんぶるんぶるん はるちるがるとるぶるん」と歌う遊びをご存知でしょうか。私が小学生のときに流行った遊びです。この遊び使って16分音符の細かさを感じてみたいと思います。ファンクのリズムにのせて実際に歌ってみましょう。

「ぶんぶんぶん」のメロディは最小単位が8分音符です。8分音符をふたつに割って16分音符2つにします。前半はもとの歌詞、後半に「らりるれろ」をたすと「ぶるんぶるんぶるん」になります。

ここで使用するファンクはZappというグループの代表曲”More Bounce To The Ounce”です。80年のヒット曲です。原曲を聴いてみましょう。

♪ More Bounce To The Ounce – Zapp

「ぶるんぶるんぶるん」用のオケを用意したのでそれに合わせて歌ってみましょう。頭を動かしてリズムを取ることも忘れずに。

最初に準備運動がてらもとの「ぶんぶんぶん」を歌ってみましょう。しばらくして「ぶるんぶるんぶるん」が始まります。ほとんど早口言葉なので舌が回らないと思います。私は回りません。ともかく16分音符という単位を意識してみてください。歌詞ものっけておきます。

ぶるん ぶるん ぶるん
はるちる がるとる ぶるん
おるいる けるのる まるわる りるにる
のるばる らるがる さるいる たるよる
ぶるん ぶるん ぶるん
はるちる がるとる ぶるん

♪ More Boom Boom Boom To The Ounce

16切れのピザにも1から16まで番号を振った場合もやはり奇数がリラックス、偶数が緊張となります。4等分したときの大きい緊張と緩和、8等分したときの中ぐらいの緊張と緩和、16等分したときの小さい緊張と緩和が3段構えになっていると考えてください。

5. シンコペーションで揺さぶりをかける

ファンクの演奏ではシンコペーションという技法が多用されます。業界用語では「食う」なんて言います。辞書では以下のように説明されています。

シンコペーション【syncopation】

リズムに関する音楽用語で,切分音と訳される。一般に、基準となる拍節パターンを破るアクセントの移動をいう。

具体的には、
(1)最も一般的な方法は弱拍の音を次の強拍の音とタイtie(同じ高さの2音を結ぶ弧線)などで結んで後者のアクセントを先取りさせる、
(2)強拍部を休止させ,そのアクセントを次の弱拍の音にずらす、
(3)弱拍の音にアクセントをかけて強弱の関係を逆にする、
などがある。

なんのこっちゃという感じですね。簡単にいえばアクセントの位置をずらすということです。シンコペーションを使用するとリズムに躍動感が生まれます。また、膝カックンされてびっくりしたときのような効果もあります。奇数と偶数、リラックスと緊張でいうところの緊張するポイントに音を入れて伸ばすので、なんとなく緊張感が生まれるというわけです。

聴いたほうが早いとという訳で、音源を聴いてみてください。ブラックミュージックのファンで知らない人はいないであろう”Tighten Up”を使ってシンコペーションを感じてもらいたいと思います。まず原曲から。

♪ Tighten Up – Archie Bells & The Drells

こちらの曲は一般的にファンクに分類されることはなく、どちらかというとR&Bの代表曲なのですが、シンコペーションを使った躍動感溢れるリズムなので使用することにしました。ベースラインが印象的な曲です。

♪ “Tighten Up”のフレーズを使ったシンコペーション実演音源

タンバリンの音は拍のガイドとして聴いてください。まず原曲とおりに弾いてみました。16分音符と次にシンコペーションをなくしてすべて8分音符にしてみました。ドラムのフィルが合図になっています。そして再び原曲とおりのフレーズに戻りますが、カウベルの音を足してわかりやすくしてみました。シンコペーションをなくした演奏も同様です。最後はベースとタンバリンだけの演奏です。ドラムがないほうがわかりやすいかもしれません。

原曲のほうは16分音符単位でシンコペーションしています。どちらが躍動感があるか感じていただけたらと思います。シンコペーションしているほうは不安定で、ちょっとジェットコースターに乗っているような気分になりませんか。シンコペーションしてないほうは安定感がありますが、なんとなく躍動感がないように感じます。ちょっと童謡っぽい感じ。シンコペーションは大人の味だと昔から思っています。シンコペーションしてないほうが楽しい、気持ちが良いという人がいても別におかしなことではありません。

ダメ押しで”Tighten Up”風のオケにのせて「ぶんぶんぶん」を演奏した音源を用意してきました。前半が通常のリズム通りの演奏、後半がシンコペーションした演奏です。「ハッチポッチステーション」みたいなノリです。「ハッチポッチステーション」ってご存知ですか?

♪ Tighten Up Boom

さらにダメ押しのダメ押しでソウルの女王ことアレサ・フランクリンがファンクに挑戦して見事にものにしたファンクを代表する曲”Rock Steady”風のオケにのせて「どんぐりころころ」を演奏した音源も聴いてみてください。蛇足といえば蛇足ですが楽しくてついつい作ってしまいました。何はともあれ、まずは原曲から。

♪ Rock Steady – Aretha Franklin

続いて「どんぐりころころ」シンコペーションバージョンです。さきほどと一緒で前半が通常のリズム、後半がシンコペーションになっています。

♪ どんぐりころころっくすてでぃ

オモテとウラでリズムを取りつつ、16分音符が感じられるとどうシンコペーションしているかよりわかるようになります。わからなくても良いです。わたしもかつて何も知らない状態で「楽しい!」と思って聴いていました。まずなんか楽しいリズムだなと感じる心が大事です。ただ、別に楽しくないなーと感じても何も間違ってはいません。

ちなみにシンコペーションという技法は現在クラシックと呼ばれている時代の音楽からあるものです。シンコペーションという名前がつけられたのが14世紀らしいのですが、それ以前もきっとあったものです。ですのでファンクとともに誕生したわけではありません。一応念の為。

また、シンコペーション自体はポップスにもよく使われる技法です。例えばMisiaの”Everything”のサビもシンコペーションが使われています。メロディの頭が全部食ってる状態なんですが、これはアウフタクトと解釈するほうが一般的かもしれません。ただし「あーなたがー」の「がー」はシンコペーションといえます。

音符の最小単位が16分音符でシンコペーションしているとファンキーだねなんて形容するのが一般的です。

6. ファンクのアレンジ(ロックとの比較)

ファンクのリズムは各楽器及びボーカルの掛け合いで作られています。最初に聴いたJBの”Sex Machine”でもJBが”Get up”(ゲロッパ)と叫ぶと相棒のボビー・バードが”Get on up”(ゲロンノ)と答えていました。これを楽器同士で行っていると考えてください。「あなたと呼べば あなたと答える 山のこだまの うれしさよ 」という歌がありますが、そのような嬉しさでファンクという音楽は作られています。アイドルのライブでもお客さんが合いの手を入れることがありますよね。あれを楽器でやっていると考えてみてください。

もう少し具体的なことを言うと、それぞれが異なるリズムパターンを演奏して全体を作っているのがファンクということになります。みながそれぞれ異なることをしているのだけど一体感があるという音楽です。異なると言ってもフリー・ジャズのように本当の意味で異なることをしているわけではありませんよ。念のため。

ロックではひとつのパターンを皆で演奏して厚みをつけるというアレンジのものがあります。まずロックの有名な曲をお聴きください。

♪ My Sharona – The Knack

アメトーークで使われていますね。続いてもう一曲ロックを代表する曲を聴いてみましょう。

♪ Smells Like Teen Spirit – Nirvana

ご存知Nirvanaの代表曲です。

これら2曲のギター、ベース、ドラムをそれぞれそれっぽく演奏した音源を用意してきたので各楽器ごとに聴いていきましょう。

♪ My Sharona パラ音源

♪ Smells Like Teen Spirit パラ音源

どちらの曲も、ギターとベースはオクターブ違いでだいたい同じようなことをやっています。ドラムはそれを補強するようなパターンになっています。

続いてファンクの代表曲を聴いてみましょう。

♪ Cold Sweat – James Brown

“Sex Machine”以前の曲です。JB流のファンクが完成した曲と言っても良いでしょう。個人的にはこれほどまでにかっこいい曲は存在しないと思います。人類の偉業のひとつと言っても過言ではない。ある意味で到達点です。それはさておき、これもパラで聴いていきます。

♪ Cold Sweat パラ音源

各々が異なるリズムパターンを演奏していることがわかるかと思います。「”Cold Sweat”ってどんな曲だっけ?ちょっと歌ってみて!」と言われたら困りそうですね。それぞれが別のことをして、ひとつのものを作っているということです。だからファンクという音楽は一つの楽器だけ聴いていてもあまりおもしろくないんです。それぞれの楽器の絡み合いが重要なので、歌だけ聴く、ベースだけ聴くということをせずに全体を聴くようにしてみてください。

♪ Mother Popcorn – James Brown

“Cold Sweat”をより複雑に発展させた曲です。個人的にはJBの曲の中でも特に好きな曲です。こちらもパラで聴いていきます。

♪ Mother Popcorn パラ音源

ホーン隊がふたつに分かれています。Cold Sweatよりもフレーズが細かくて躍動感が増しました。

以上の2曲からわかるようにファンクはフレーズの掛け合いによる芸術だと言っていいでしょう。ここでJBの次に来るファンク界のスター、スライの曲を聴いてみたいと思います。

♪ In Time – Sly and The Family Stone

♪ In Time パラ音源

個人的にファンクが過ぎると思っている曲です。楽器の構成は、リズムマシン、ドラム、ベース、ギター、オルガン、ホーン隊となっています。これらの掛け合いが本当に細かい。もぐらたたきのようにあちらからこちらから楽器の演奏が現れます。各楽器ごとに聴いていきましょう。これこそ口ずさもうとしても口ずさめない音楽ですよね。例えばギターだけ聴いても曲として成立しているようには感じられないと思います。

ファンクと比べるとロックのほうが目鼻立ちがしっかりしています。主人公が目立っている状態といいましょうか。ファンクは登場人物が多い群像劇のようなところがあります。アベンジャーズみたいな感じですかね。

7. まとめ “Free Your Mind And Ass Will Follow”

ファンカデリックの”Free Your Mind And Ass Will Follow”という曲があります。「精神を開放せよ。さすればケツがついてくる」という意味です。本日お話した内容すらも忘れ、頭を空にしてファンクに身を委ねれば自然とケツがついてくる、すなわち思わず踊ってしまうこと請け合いです。これはピーター・バラカンさんの受け売りだということをここに白状したいと思います。

♪ Free Your Mind And Ass Will Follow – Funkadelic


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