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【アーカイヴ】第241回/「Record Shopパタパタ漫遊録」の動画を撮った11月[田中伊佐資]

 JICO(日本精機宝石工業)の自社サイトがこのところ面白くなってきている。

 レコード針とカートリッジのメーカーなので、僕が好きなネタということもあるが、製品を宣伝する目的を飛び越えて、ひとつの読み物として成立している。
 原稿執筆や写真撮影している仲川幸宏さんは、肩書きをはっきり憶えていないが、JICO社内でエライ人だということは知っている。つまり制作や編集に関して本業ではないのだが、妙に作りのセンスがいい。もしも出版業界に入っていたら、かなりイケてたんじゃないかと思う。
 その仲川さんから「ちょっと相談があるんですけど」と連絡が入った。

事前に作られた「予告編」のタイトルバック

 JICOの製品をもっと多くの人に知ってもらいたい。ひいてはレコードファンを増やすことも重要だ。レコードの楽しさを自社サイトでこれまで通り伝えていくが、若い人たちには紙媒体よりもネット動画で直接アピールするほうが力は強い。つきましては、伊佐資さん、そのビデオに出てもらいませんか、後で企画書を送りますからということだった。

 ああいいですよ、と安請け合いをしてしばらくしてそのメールが届いた。
「田中伊佐資と行く!!Record Shopパタパタ漫遊録」
 タイトルからしてなんのこっちゃである。
「パタパタ」とはレコードを探すときの音だ。確かにステレオ誌の原稿で「レコード屋でパタパタやる……」と何度か書いたことがある。

Grassella Oliphantの『The Grass Is Greener』を買うかどうか迷う

 企画書の趣旨を読む。
「当企画はフリーライター田中伊佐資氏が関東、中部、関西等を中心に中古レコード店を訪れ、限られた予算の中で、レコードを購入し試聴する旅を動画に収め、配信するものである。SNS閲覧者にレコードを探す楽しさのみならず、レコード愛を育成する事を目的とするものである」

 レコード愛の育成とか大きなことを言われて笑ってしまった。やりたい人は家族から止めてくれと泣きつかれてもやっているし、やりたくない人は高額盤をただでもらったって、ほっぽっておく。どんな愛だろうと他人から言われて育めるわけがない。

 まあでも、企業として社長からオーソライズされるためにそれなりのもっともらしい理屈が必要なのだろう。何にせよ動画で訴えていく方向は間違っていない。

 オーディオ雑誌にいくら熱く「若者よ、レコードは面白いぞ。オーディオは楽しいぞ」と語ったところで、肝腎の若い世代は活字なんて読んでいないから届かない。「誰でもわかるペルシャ語講座」がペルシャで書いてあるのと同じで、伝わらなければ意味がない。

 だが動画なら、ちょっとした関連で引っ掛かって、とりあえず見てみるかくらいの人がいるかもしれない。

 しかしこの企画そのものはどうなんだと首をひねらざるをえない。

 僕がレコード屋で気ままにパタパタやってなにかを買い、それによって「よし俺も」と刺激を受ける人がいるとは到底思えない。
 動画シリーズを始めたはいいが途中で「ぜんぜん反応がないので、このへんで」と急遽終了になりはしないか。
 このあたりは心中でねちねちとうごめくものがある。

 企画書をさらに読み進めていくと、レコードの購入予算は用意されていて、買ったものは持ち帰れるとの一文があった。なかなか我ながら意地きたないもので、瞬間的にあっさり引き受けることを決めた。不評で頓挫しようと知ったこっちゃないのだ。

 第1回のショップ探訪は京都編に決まっている。僕は京都のレコ店には行ったことがない。どこに何をストックしているのか見当がつく店だと、まっさらな気持ちでひたむきに掘っていく感じが出ないので、これはおあつらえ向きだ。

 京都駅で新幹線を降り、待ち合わせの八条口に向かって行くと、改札の外から自撮り棒みたいなものを駆使してなにやら撮影しているオッサンがいた。こんなところでも鉄ちゃん、がんばっているんだなあと思った瞬間に、それが幸宏さんだと判明した。
「えっ、もう撮っているんですか」である。
 それから先も「後から編集すればいいのでね」とカメラは回しっぱなしだ。食事中、車で移動しているとき、パーキングから店までアーケードを歩いているときなどなど。
 誰がどう見たって僕は京都に来たのがうれしくて舞い上がっている東洋系外国人のようになっている。

「pocoapoco」の店主が、カートリッジの針をJICO製に取り替えて試聴する

 第1回のレコ店は三条大橋から歩いてすぐの「poco a poco(ポコアポコ)」。

 で、興味がある方は、この続きをぜひ動画で見てください。そういったことで、今回は完全に宣伝になってしまい、失礼しました。

(2019年12月20日更新)第240回に戻る 第242回に進む 


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田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。近著は「ジャズと喫茶とオーディオ」(音楽之友社)。ほか『音の見える部屋 オーディオと在る人』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。Twitter 

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