見出し画像

第328回/気がついたら4320、パラゴン、4343とJBLを聴くことが多かった4月[田中伊佐資]

●4月×日/ステレオ誌の「音の見える部屋」で杉並に住むマニア氏を訪問。こちらにはかつて「マイ柱上トランス」などの電源工事がテーマで訪れたことがあったが、それ以外のネタがあまりにも多彩だったため、もう一度つっこんだ話をしたかった。
 スピーカーがJBL4320。漫画の編集者をしている関係で「美味しんぼ」の作者、雁屋哲氏から譲り受けたという。ヴィンテージのJBLはもともと濃い音がするが、こちらの4320は想像以上だった。
 ウェスタンを始めとするアンプ類やライントランスの力も大きく、それらの色香に幻惑されて、CDとレコードの音が区別できない。
 フリート・ウッドマックの『噂』をカチカチと切り替えながらブラインドで聴かせてもらい、いまかかっているのがどちらか当てにいったら編集者と二人してまんまと外した。それだけキャラクターが立ったマイファイ道を邁進した音だった。
 安価な中古CDをレコードのような音で聴けるようになったそうで、これはなんとも羨ましい。

レコードプレーヤーGarrad 301、CDプレーヤーPHILIPS LHH2000、プリアンプ.Marantz♯7、
パワーアンプWestern Electric 124B、スピーカーJBL 4320TANNOY ・LZ GOLD Monitor
などでシステムが組まれている。写真:高橋慎一

●4月×日/「音の見える部屋」の連載が27人分に達し、それをまとめたムック「音楽とオーディオを愛する人々」の発売が6月21日に決定。表紙の撮影を行うため、カメラマンの高橋慎一さんと大河ドラマで盛り上がる鎌倉駅近くのマニア氏宅まで行く。
 こちらの部屋はEMTやパラゴンなど世界の名機が並んでいるにもかかわらず、オーディオ中心のリスニングルームといった趣はかなり希薄。機器が生活の一部となった調度品っぽい感じがすごくいい。
 オーディオは「読書の友」で、静かにクラシックをかけながら本を読んでいることが多いとのこと。あのパラゴンを拝むように正対せずに、ラジオのように気安くつきあっていることが印象的だった。居心地のいい部屋で、オーナーの余裕がにじみ出ている音を聴いた。


「音楽とオーディオを愛する人々 音の見える部屋 ・」
特別付録:部屋がひと目でわかる動画DVD
田中伊佐資著 B5・224ページ 
2022年6月21日発売 定価3190円(税込)

●4月×日/YouTube「やっぱオーディオ無茶おもろい」の収録で、秋葉原の「オーディオみじんこ」へ。オリジナルのハンドメイドケーブルや独自の仮想アースなどを何種類か集めて聴き比べ。僕は第322回で書いた「Konadeアース01」を持参して対決した。
 それはそうとして、収録の合間に店頭の商品をつぶさに眺めてみると、同店オリジナルのコンセントベースを見つけ、なにかピーンと来た。
 これはカメラマンの山本博道氏が10数年前に、編集者の安原顯さんの家に行ったとき、コンセントが脆弱な壁に取り付けてあるのを見て思いついた、いわばコンセントの台座だ。その後メーカー各社が製品化して一時ブームになった。
 最近はあまり新製品もなく、そのため雑誌でも取り上げられることも少ないこともあり、僕はすっかり忘れていた。
 考えてみれば、自室の壁コンは何個もあるが、ひとつとしてプレートで強化していなかった。「オーディオみじんこ」では在庫がなかったので、帰宅してから、まずは壁コンと同じメーカーにしてみるかとフルテックのGTX WALL PLATEをネットで買ってみる。

秋葉原にあるオーディオ工房&ショップ「オーディオみじんこ」。
試聴用のスピーカーはYG Acousticsなど

●4月×日/ステレオ編集部とつながりのあったある方が亡くなられて、部屋整理の都合上、生前使用していたマッキントッシュMC2500とJBL4343を引き取ったという連絡を受ける。編集部に寄贈なのか、暫定的な保管なのかは定かでないが、音を出してみるらしいので、野次馬根性を抑えきれず試聴室を訪れる。
 オーディオ最新機器の試聴盤にふさわしいとはとても思えないヴァニラ・ファッジのファースト初盤がなぜか編集部にあって、さっそくそれを聴いてみることにした。
 やっぱり往年のマッキン&JBLコンビはいい。音楽を受け入れる器が泰然自若というか構えが大きい。音についてああだこうだと考えることもなく、理屈抜きで音楽へすっと入れた。
 ハイスペックな高解像度系モデルで音そのものに拘泥していくのも楽しいことはわかっているが、最近そういうのは面倒くさくなっているのも事実だ。なにかをいじっているよりはレコードを聴いている時間が多い。

1980年代、ファンの憧れだったマッキントッシュMC2500(手前)とJBL4343

●4月×日/音いじりが面倒くさくなっているというわりには、コンセントベースが届いてさっそく装着してみる。
 アルミ合金削り出しで、持った感じはなかなかずっしり来る。取り付ける壁コンセントはテクニクスのレコードプレーヤー(SP10-Mk3)に給電しているものに決めた。
 音声信号とは関係ない、ターンテーブルをただ回転させているだけのプレーヤーに、電気の質が関係しているとはどうしても頭では理解しがたいのだが、経験的にはアンプと同様に大きな影響がある。
 そして今回も「なぜこれほどまでに」と頭を抱えながら、音の変化に仰天した。装着してから、壁コンセントを押してみるとかなりがっちりとコンセントボックスに固定され、まさにそのイメージと同様に音が引き締まった。低音が明瞭になって深く沈み込む。ハイファイ度が高まったマイナス部分を差し引いても、総合的にはこのまま付けておきたい。
 となると他の壁コンセントにも装着したいところだが、金属製コンセントベースを多用し過ぎると旨味のある贅肉が減ってしまう予感もある。次は木製がいいのかもしれない。
 それにしてもまた面倒くさいことが持ち上がってしまった。しかも現在まったくトレンドではない、今更ながらのコンセントベース。もっと面倒くさがり屋になって、こんなことを気にしなくなればいいなと思う。

フルテックの壁コンセントに合わせて、コンセントベースは同社「GTX WALL PLATE 」を選ぶ。
シャーシーはアルミ合金削り出し

 (2022年5月20日更新)   第327回に戻る


▲気になる方はこちらをクリック
▲気になる方はこちらをクリック

過去のコラムをご覧になりたい方はこちら


田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter 

お持ちの機器との接続方法
コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」バックナンバー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?