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第341回/家電大手の"本気"を見よ![炭山アキラ]

 日本のオーディオ全盛期、それは家電大手が最も元気だった頃とほぼぴったり重なっている。即ち1960~80年代くらいの話だ。日本のオーディオ業界は、こちらも全盛を誇ったオーディオ専業のパイオニア、サンスイ、トリオ、オンキヨー、ティアックなど、数え上げれば切りがないメーカー群に加え、東芝AUREX、日立Lo-D、シャープOPTONICA、三洋電機OTTO、NEC DianGoなど、家電大手各社が独自のブランドを付した莫大な量のオーディオ・コンポーネントを市場へ送り出していた。そんな中で一際燦然と輝いていたのが松下電器産業(現・パナソニック)がTechnicsブランドを冠したコンポーネンツである。

 松下電器時代からのオーディオについて語ろうとするとテクニクス以前、ナショナル時代からの話となり、それこそ文字数が倍できかなくなるし、私のような若輩者に語り尽くすことが可能とも思えないので、全盛期のナショナル→テクニクスについては、どなたか先輩が書いて下さることを待ちたいと思う。

■音楽史に名を遺したSL-1200

 世界初のリニアフェーズ型スピーカーというべきSB-7000「Technics7」や、1977年発売にしてセット260万円という威容を誇ったセパレートアンプSU-A2/SE-A1、世界初のダイレクトドライブ・フォノモーターSP-10など、とてつもない技術と物量で世界をあっといわせたテクニクスだが、世界のオーディオ史へ燦然と輝くそれらの製品とは全く違うクラスの製品が、メーカーとしては図らずしもオーディオ史のみらず音楽史に遺ることとなる。他でもない。レコードプレーヤーSL-1200である。

テクニクス栄光のSL-1200シリーズは、ここから始まった。
特徴的なパンタグラフ式サポートは、
この時期いろいろなプレーヤーに搭載されていたのを見かけたが、
80年代へ入る前にすべてジンバルサポートへ置き換わった。
小さなツマミで回転速度調整ができるようになっているが、
この頃のFGサーボDDモーターは回転が不安定で、時折調整してやらねばならなかったせいだ。Mk2以降の積極的な速度調節とは少し意味合いが違うが、
初期のDJはそれもおそらく活用していたのだろう。

 1970年代初頭に開発されたSP-10のダイレクトドライブ技術をより幅広い層へ普及させるため、SL-1200はSP-10に遅れること約2年、1972年に発売された。今からちょうど50年前ということになる。当時5万9,800円だったそうだから、単品コンポーネンツ、当時のいい方でいえばバラコンの中では中級機という位置づけだったのではないかと思う。

 それまでのベルトドライブやアイドラードライブのプレーヤーに比べ、飛躍的にメンテナンスが容易になり調整項目も少なくなったSL-1200は、日本でもよく売れたが海外、とりわけアメリカで飛ぶように売れた。そんなどこの販売店にも置いてある廉価で頑丈なプレーヤーに目を付けたのが、いわゆるヒップホップDJたちである。レコードを特殊な再生法で音楽の一部として、あるいはパーカッション的なフラグメントとして用いる手法は1973年にクール・ハークによって発明されたそうだから、SL-1200発売間もなくのこととなる。ああいうプレイはベルトドライブの製品ではまず無理だろうから、これは私の推測でしかないが、おそらくDJプレーヤーは最初からSL-1200だったのではないか。

DJ用ということを考えて開発されたプレーヤーは、おそらくこのSL-1200Mk2が嚆矢であろう。
モデルチェンジを繰り返し、半世紀近くたった今もなお全く形状は変わりないのだから、
この時点でいかに完成度が高かったかが知れる。

■DJの意見から生まれた"完璧"モデルMk2

 ロングセラーを続けたSL-1200がMk2にモデルチェンジしたのは何と7年後、1979年のことだった。間に石油ショックを挟んだとはいえ、当時の国産プレーヤーとしては異例のモデルスパンである。その間にテクニクスは何をしていたか。DJの需要が相当量に上ると知った同社は当時の一流ターンテーブル・プレーヤーたちと連携し、彼らにとってより使いやすい製品の開発に邁進していたのである。

 余談になるが、「ターンテーブル・プレーヤー」とは、もちろんプレーヤーとレコードを使ってそれまでになかった音楽を紡ぎ出すDJのことを指す。一方、亡くなられた菅野沖彦氏が提唱された「レコード演奏家」は、選りすぐりの装置とノウハウを駆使してレコードから最高の音楽芸術を"演奏"させる人、というような意味合いである。字面のよく似た2つの用語だが、こうまで対照的な意味合いに用いられているのが面白い。

 そういう経緯で生み出されたのがSL-1200Mk2で、前作とはプラッター周囲に刻まれたストロボの凹凸に面影を残すものの、ほぼ完全な別物といっていい製品となった。前作を特徴づけていたパンタグラフ式サポートのアームはMk2になってよりオーソドックスな、しかし高い精度を要するジンバルサポートに変わり、ダイレクトドライブのモーターは、制御が大雑把でコギングによるノイズも大きいFGサーボからよりきめ細かな制御でコギングも激減したPLLクオーツロック式に進化した。さらに、クオーツロックをかけたまま正逆回転と±8%の回転速度調整もできるようになっている。

 これで少なくともDJプレーヤーとしてのSL-1200は完成の域へ達し、以降は現行のMk7まで、パッと見ただけでは何世代めか分からないくらい見た目はそっくりになった。ここまでDJに特化したプレーヤーを作ってしまったおかげで、遠目にはテクニクスと見紛うような他社製のDJプレーヤーも、膨大な数を見かけたものである。

■音質的にも実は大進化を遂げていた

 まるでDJプレーヤーに特化してしまったかのように見えるMk2だが、実はピュアオーディオ的にも大きな進化を遂げている。何よりモーターのPLLクオーツロック化が大きく、これで再生音のS/Nが劇的に向上、見た目華奢なあのボディから意外なくらいどっしりと骨太の音を再現するようになった。また、ジンバルサポートのアームも感度が極めて高く、当時全盛を迎えつつあったローマス/ハイコンプライアンス・カートリッジの実力を巧みに発揮させていた。

 そうやってDJとホームオーディオの両面を満足させながら、SL-1200シリーズは少しずつ進化を続けていく。Mk3ではレギュラーモデルの他にDJ専用のMk3Dが登場し、Mk4は一転78回転も回せて、電源ケーブルもIECインレットで着脱可能のピュアオーディオ専用モデルとなった。確か3と4の間に金ピカのLTDなんて製品もあったように記憶する。MK5では一転してDJ用に戻った感があり、Mk6もそれを引き継いだ製品という印象が強い。

■地味だが大きな音質向上を遂げたMk6

 しかし、あまり知られていないがMk6は実のところ1箇所とてつもない音質向上を果たした点がある。ターンテーブルシートである。これまでテクニクスのシートはカチカチに硬いゴム製で、レコードをしっかりと支えられなかったのであろう、何だかカンカンと耳障りな音で、恐れ多くも私はほんの下っ端編集者の頃から「SL-1200シリーズはシートを良いものに交換するまでは半完成品だ」などと雑誌に書いたりしていたものである。今思えば、よく同社の担当者に怒られなかったものだ。太っ腹の同社開発陣へ、今頃になって謝罪する次第である。

Mk6から投入されたオーディオ向けの方のターンテーブルシート。
見た目はMk5まで使われていたものと全く変わらないが、
ゴムの組成は完全な新設計がなされたものであろう。
一部の販売店にてパーツ扱いで販売されているのを発見したが、
ちょっとここで価格を書くことを憚られるくらいの廉価である。
音質の良いゴムシートを探している人は、
騙されたと思って一度購入してみられてはいかがだろうか。

 ところがMk6のシートは、見た目は全く変わらないのに実に柔らかくしなやかで、レコードをしっかりとホールドしてくれるのだろう、カンカンした耳障りな部分は完全に消え失せ、格段に品位の高い再生音を聴かせてくれるようになった。このシートは単売しても高く売れるのではないか、などと感じているくらいである。

 ちなみにテクニクスのプレーヤー、かのSP-10シリーズにしてMK3に至ってもゴムシートの質は決して好ましいといえず、全3世代を愛用された故・長岡鉄男氏もシートはパイオニアのJP-501へ変更されていたくらいである。しかし、こちらも鮮やかな復活を遂げたSP-10Rとそれを完成品としてまとめたSL-1000Rは、しっかりゴムシートが良質のものへ更新されている。確認したわけではないが、触感といい音質傾向といい、おそらく新世代1200と同じものではないかと推測している。

ユキム・スーパーオーディオアクセサリー・ブランドのターンテーブルシートCVS-1。
後付けシートながら盤の常時吸着を実現してしまった奇跡のシートで、音質はもう超絶的、
レコードからこんな音が出るのかと衝撃を受けられること間違いなしである。
「珠玉のたった15万円」と申し上げよう。

 もちろん、世の中にはユキムのCVS-1を輝ける筆頭候補として、高音質のターンテーブルシートが文字通り枚挙にいとまがないから、それらをお使いになっている人には役に立たないアドバイスではあるが、もしMk5までの1200やMk3までのSP-10などをお使いで、まだシートが純正のままという人がおられたら、ぜひともまず新世代の純正シートへ交換してみられることを強く薦める。長く使った愛器へ残されていた大きな伸びしろに、きっと驚かれることであろう。

■雌伏6年の後、復活した1200

 Mk6の発売は2008年、2年間売り続けられた後2010年に生産を完了し、そこで後継機種が発売されず、40年近く続いたSL-1200、そして45年のテクニクス・ブランド栄光の歴史は終わりを告げたかに思われた。しかし6年のブランクを経て、テクニクスの復活と限定モデルSL-1200GAEの登場がアナウンスされるや否や、33万円と1200としては異例の高価格ながらあっという間に予約で完売し、レギュラーモデルの1200Gと廉価版の1200GRも登場、少なくともピュアオーディオの世界ではすっかり昔日の勢いを取り戻したかに見える。

 しかし、新生1200に足りなかったのはDJモデルだ。もちろんどの製品もDJプレイは可能だが、手荒に扱うには少々気が引けるオーディオ製品としての作りがなされているといって間違いなかった。

復活テクニクス初のDJ用プレーヤーとなるのがこのSL-1200Mk7である。
Mk6までDJ用は電源ケーブル直出しだったが本機はIECインレット方式に変わり、
機材を縦2連とする際など配線をレイアウトしやすくなったという。

 そこでこのたび登場したのがSL-1200Mk7である。フォノケーブルも電源ケーブルも着脱できるし78回転も回るからピュアオーディオにももちろん使える製品だが、ターンテーブルシートはDJ用のスリップマットだから、同社の純正品を取り寄せるもよし、東京防音やオヤイデなどのゴムシートを使うもよし。しかし、そうするならGRか、いっそのことよりピュアオーディオに特化したSL-1500Cあたりを購入した方がいいような気もする。やはりMk7はDJプレーヤーなのだ。

 ここでほんの少しだけ、復活の1200シリーズに苦言を申し上げたい。Mk6までの生産ラインは解散してしまい、GAE以降は完全にゼロからの開発と生産設備の構築だったと聞くから無理をいっては申し訳ないのだが、ジンバルサポートの精度をあとほんの僅か向上させられないだろうか。極めて感度高く優れたアームだと認識するだけに、時折見られるほんのちょっとのガタつきを有する個体が残念でならないのだ。そこまで気にするのは私のような偏屈者だけなのかもしれないが。

■2022年イヤーモデル的な輝きのSA-C600

 とここまで書いてきて、やっと本稿の主役へご登場願うこととなる。ネットワーク対応のCDプレーヤーとFM/AMチューナーを内蔵したプリメインアンプというべき存在のSA-C600である。このモデルを紹介したさにテクニクス復活の歴史を書こうと思い立ち、ならばMk7も出たことだし1200を主軸にすべきだろうというので、前文が長くなってしまった。

やっと出てきた今回の主役SA-C600がこちら。
詳しくは本文をお読みいただきたいが、
何ともはや一体どれほどの機能が詰め込まれているのか俄かには勘定できないほどの
多機能機でありながら、あろうことか音質まで素晴らしいという美しき大物である。

 一見すると上品なトップローディング型のCDプレーヤーにしか見えないSA-C600だが、前述の通りネットワーク・プレーヤーになるわラジオが聴けるわ、かてて加えてアンプまで内蔵しているのだからもうてんこ盛りもいいところだが、さらに前面にはUSB-A端子があってUSBメモリーを受け付け、背面には同B端子を有していてパソコンからも音源を送り込むことができる。

 さらにCDでもUSB/ネットワーク音源でもMQAのフルデコードに対応しており、CD並みの軽いデータからハイレゾ音源を楽しむことができるのがうれしい。最近はe-onkyoなどのハイレゾ配信サイトでもMQA音源が増えたから、対応機器が増えるのは大いに喜ばしい。

 受けられるハイレゾのフォーマットはPCMが384/32まで、DSDも11.2MHzまでと最新デジタルのフォーマットをクリアしているが、USB-BのみPCMは192/24、DSDは5.6MHzまでとなるから注意が必要だ。もっとも、384/32や11.2MHzは下手をするとシングル1曲で1GBなどということになりかねず、よほど潤沢なストレージを有する人でないと管理が大変なのではないか。もちろん、DXDやDSDのマスター・クオリティがそのままわが家へやってくると考えればそれはとてつもないことだが、個人的にはもう少し軽めの音源で楽しむことがどうしても多くなっている。

 さらに、ブルートゥースでスマホやタブレット内の音源も再生できるし、スマホのクロームキャスト・アプリに対応するストリーミングも楽しめるほか、単体でもアマゾン・ミュージックとスポティファイ、ディーザー、そしてインターネットラジオが再生できる。

 アンプは定格出力60W+60W(4Ω、1kHz)と十分な出力を持ち、加えてスピーカーのセッティング位置による再生音の偏りを補正するスペース・チューン機能が素晴らしい。開放空間、壁際、部屋のコーナー、棚の中という4つのプリセットを持ち、それらは左右スピーカー独立して設定できるから、例えばセットを部屋の右隅に置いてあって右スピーカーがコーナー、左が壁際といったセッティングによる音の不自然さを簡単に解消させることができる。

 さらにあなたがiPhoneかiPadをお持ちなら、専用アプリ「Technics Audio Center」をダウンロードすることでスピーカーから再生させたテストトーンをスマホやタブレットのマイクで拾って非常に高度な音響補正をかけることも可能だ。

 ちなみにこの機能をなぜアップル製の機器に限っているかというと、同社製品は非常に均質なマイクを搭載しており、フラットに校正することが容易なのに対し、アンドロイド機器は膨大なメーカーが参入しており、マイクの特性にそれぞれ大きな違いが出てくるからであろう。この話、実はテクニクスではなくフォステクス技術陣から聞いた話を元に私が推測したものだから確証はないが、そう間違ってはいないと思う。

 このSA-C600、CDにハイレゾにストリーミングにと何でも聴けるが、そうなったらレコードだって聴きたくなるではないか。そんな時にぜひ組み合わせたいのは同社の高信頼プレーヤー群であろう。そこでうれしいのは、本機がSL-1200Mk7やSL-1500Cなどと高さやデザインを合わせてあることだ。2台横に並べると、実に美しいセットとなる。もちろんSA-C600にはMM対応フォノイコライザーが内蔵されている。

SA-C600とオーディオ専用プレーヤーSL-1500Cを並べるとこういう格好になる。
高さやデザインを巧みに合わせてあることがお分かりいただけよう。
両脇はSA-C600との純正組み合わせを企図して開発された
2ウェイ・ブックシェルフ型スピーカーSB-C600。

 せっかくだから、純正組み合わせ的に推奨されている同社の新型スピーカーシステムSB-C600も紹介しておこうか。本機は15cmウーファーの中心に2.5cmドーム型トゥイーターを仕込んだ同軸2ウェイで、ウーファーもトゥイーターもアルミ振動板を持つ。トゥイーターの前にマウントされたイコライザーは高域方向の位相をそろえて自然な再生音を得ることに資しており、オールドファンなら同社の20cmフルレンジ8P-W1の「ゲンコツ」イコライザーを思い出されるのではないか。

SB-C600に搭載される同軸2ウェイユニットの中心に装着されたイコライザー。
ゲンコツのようなボール型ではなく、最新の解析技術によって開発された形状である。

 今の同社スピーカーはもう凝り過ぎではないかというくらいの作り込みと物量投入がなされており、昨年登場したSB-G90M2(これがまたとんでもない超ハイCP実力機!)譲りのユニットの重心マウント構造が凄い。ユニットをフレームでバッフルに取り付けるのではなく、バッフルの奥へもう1枚仕込んだサブバッフルへ、発音の起点というべき磁気回路部分をマウントするという方式である。これによりユニットの頑丈な固定が可能になるほか、バッフルへ伝わる振動も激減させられ、これがまた再生音に大きな影響を与える。

従来マウントと重心マウントの違い。
ユニットが極めて安定し、ユニットへ余計な振動を伝えず、
キャビネット剛性も高まるという、三重の意味で優れたマウント方式だ。

 クロスオーバー・ネットワークは高品位のフィルムコンデンサーや積層鋼板コア型コイルを採用して構築され、何より驚くのはトゥイーターのネットワークがコンデンサー1発とされていることだ。クロスオーバー周波数は2kHzとごく一般的だから、このトゥイーターはかなりの振幅と耐入力を持たせていなければたちまち破綻してしまう。このあたり、自社でユニットからネットワーク素子まで開発できるテクニクスにしか実現できない、とてつもない作りであるのは間違いない。

 バスレフダクトは最新の流体工学を駆使したもので、相当の流速で流れるダクト内の気流から風切り音を出さず、効率良く低域を稼いでいる。前述のサブバッフルが副次的にもたらすキャビネット強度の高さに加えて、全くすきのない構えはさすがテクニクスというほかない。

 ここで驚くのは、SA-C600とSB-C600を合わせて買っても合計22万円にしかならないことだ。アナログプレーヤーSL-1500Cを加えたって33万円だ。日本国内のみならず、世界でバカ売れするのではないか、そうあってほしいなと切に願う。

 そこまで凄い製品を投入してきた。さてそれなら音はどうなのか。音響的にしっかり整ったある試聴室でSA-C600とSB-C600のセットを聴いたのだが、一聴して感じるのは大変な品位の高さだ。S/Nが極めて良く、しっかり情報量を出していながら音が下品にならない。特に強烈な印象を残したのは高域方向の伸びと輝かしさ、よく歌うことだが、これはトゥイーター素性の良さに加え、先端のイコライザーと1次のネットワークが大きく作用しているものと思われる。

 中~低域は少々ロースピードでいささか勢いに欠けたが、金属振動板のウーファーはエージングに大きな時間のかかるものだから、200~1,000時間も鳴らし込めばどんどん音の角が出てくるようになるのではないか。器のとてつもない大きさは一聴して感じられたから、少し長い目で育ててやりたくなるスピーカーである。

 SA-C600はもう文句のつけようがない。CDとUSBメモリーからのハイレゾを聴いたのだが、どちらも音楽の勘所を巧みにつかみ、朗々と表現することにたまげた。CDとハイレゾに垣根のようなものがなく、すべて同じ方向性に表現してくれるのも、さすが手慣れているなぁという印象だ。フロントパネルの表示が大きく、情報量豊富で扱いやすいことも特筆しておきたい。

 繰り返しになるが、これだけの器と音質を持つ超多機能コンポーネンツがセットでたったの22万円とは、良い時代になったものである。セットで一気買いするもよし、SA-C600をお気に入りのスピーカーと組み合わせるもよし。ファミリー層からオーディオ・ビギナー層へ安心して薦められることに加え、高度なマニアの皆さんにも、リビングで使うサブシステムには大いに魅力的であろう。

 以前SL-1500Cの内覧へ赴いた折、同行の編集子が取材後に「家電大手が本気出したら、オーディオ専業社はたまったもんじゃないですねぇ」と呟いたことを思い出す。今回の新製品群もまさにその言葉がふさわしい。複合コンポーネントというと、ピュアオーディオ・マニアにとって少しばかり手を出しにくい存在ではあるが、SA-C600は十分考慮に値する存在ではないかと思うのだ。

*     *

 本当は同社の新型SACDプレーヤーSL-G700M2も紹介したかったのだが、これまた大変な中身の濃さでさらに文字数が激増してしまうものだから、またの機会に譲りたい。それでも、とんでもない実力機であることだけは強く申し上げておくとしよう。いやはや、昨今のテクニクス技術陣はいい意味で「どうかしている」と思う。この技術力と膨大な物量は、文字通り他の追随を許さない。もっともっと注目されてよい製品群である。

(2022年12月13日更新) 第340回に戻る


※鈴木裕氏は療養中のため、しばらく休載となります。(2022年5月27日)


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炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。


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