名曲285 「ジャングル黒べえの歌」【大杉久美子】[ジャングル黒べえ]

ーー不遇の作品には、いまこそもっと大暴れしてほしいーー

【ジャングル黒べえ】

 今回は藤子不二雄作品の中からいわくつきの名曲を紹介。ちなみにSFの世界観のイメージが強い藤子不二雄とは対照的なようだがれっきとした同氏の作品である。テイストが違うのは雑誌連載からではなくアニメの持ち込み企画でスタートしたからだ。だから作者自身も少し苦労したようである。

 「ジャングル黒べえ」については知らない人も多そうだ。何しろドラえもんの前に作られ(1973年)、放送も短期間で終了したから……というのは建前で、実はもっと大きな問題がある。

 こちらがオープニング映像だがこのキャラクターが主人公黒べえである。お分かりだろうか。名前もそのまんまだが、黒人のステレオタイプに属するとのことで、自主規制されてしまったのだ。その結果、封印作品となっていたわけで、長らく公の舞台から遠ざかってしまっていた。

 当時は「黒人差別をなくす会」という団体があり、「ちびくろサンボ」を始めとした作品に対して相次いで抗議していたそうなのだ。この団体、一見大きそうに見えて実態は核家族の3人(夫、妻、子ども)によるものであり、たったそれだけの抗議で多くの作品が封印されてしまった。ジャングル黒べえはその騒動に巻き込まれる格好で藤子サイドが自主規制。同氏の作品ではオバQも一部犠牲になった。

 だがどう見ても黒べえは人間ではないマスコットキャラクターである。これを差別と捉えるのはどういうことか。そもそも、私は差別という意識すらなかった。これを差別だと判断するほうが黒人を下に見ているのではないか。難癖とまではいわずとも、本当にそういう正義の姿勢だったのかと問いただしたい。正直怒りすらある。

 もっと熱く書こうと思えば書けるのだが割愛。曲に移ろう。歌うは大杉久美子だ。

{ウラ!ウラ!!ウラウラウラウラウラ ベッカンコー}

 この曲は出だしのフレーズがよくできている。特に「ベッカンコー」は絶妙。いまではそのポーズを「あっかんべー」という人のほうが多いと思うが、そちらは相手をバカにした嘲笑の意図がちらつくのに対し、ベッカンコーは「ぐわし」や「テクマクマヤコン」みたいに独特のワードセンスによるキメ台詞となっている。

{木の葉が 沈んで 石 泳ぐ 魔法の力だ 魔法の力だ}

 黒べえは魔法の力を持っているのだが、短くまとめて歌詞に取り上げられた。これぞ昭和アニソン。しっかりポイントを押さえている。

{まんまる目玉を ベッカンコ グリグリ回して ベッカンコ くっちゃめちゃだよ ベッカンコ ベ…アッベッカンコ…}

 いやはやキャッチーなメロディーに加えて耳に残るフレーズ。何度も聴いていると黒べえが愛おしくなってくるではないか。私は気になって仕方がなくなった。今回、YouTube上ではアニメ映像を見ることができなかったので、死ぬまでに何らかの形で見るのが私の目標である。

 昭和の作品が、平成の後期まで(2010年ごろ)封印されていたため、時代としてはぽっかりと穴が空いてしまったことになる。だからこそ規制の解かれた令和のいま、ウラウラと大暴れしてほしい。

       【今日の名歌詞】

黒べえのべの字は ベッカンコーの べの字

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?