名曲623 「二十歳の夏」【NONA REEVES】

ーーグッと胸が締め付けられるあの感覚。海岸沿いをドライブしてーー

【Summer of 20】

 曲のタイトルを聞いて、思わず腕を組んでしまった。二十歳の夏は何をしていたっけ。

 大学に通っていたがよく覚えていない。きっとつまらない日々だったのかもしれない。いまの私を想像すれば、もう少し勉学に励んでいただろうに。大学生の夏休みというのは、それまでの課題学習等があった高校生のころまでと違ってガチの夏休みなのである。私は人生の休暇期間と呼んでいた。その中で私は何をしていただろう。

 何かひとつでもいい思い出があれば、それをバックにこの曲を嚙みしめていただろう。本当に何もなかったのか。友人と遊ぶ機会は少なかった。燃えるような恋愛はなかった。趣味に打ち込んでいたのかもしれない。でも覚えていない。

 どうやら人生の谷間の時期だったようである。だからこそ、この曲が沁みてきた。後悔という感情がバックになり、感傷的なメロディーが胸を打つ。

{海まで続くこの急カーブで スピンして驚かして怒らせて笑うのさ 街から離れてゆく一秒ごと アクセルを踏み込んでイヤなこと忘れるさ}

{二十歳の夏 「このまま時間を止めて」神に祈るのさ サマー・デイズ つけっぱなしになってるラジオから 今年の夏 喜びも悲しみも全部 君に捧げるよサマー・デイズ そしてギュッと抱きしめていたい 指先を滑らして、夢の中 「誘惑されたい?」イエス,イエス,イエス}

 歌詞の中にいる主人公はずいぶんヤンチャだ。それが若者らしくていい。私にもそんな時期があったのだけれど、高校生で卒業してしまい、大学生になってからはつまらない人間になってしまった気がする。

 「このまま時間を止めて」の歌詞にあるように、この曲は妙に長い。7分近くあり、つい最近に書いたホルストの「木星」並みの長さなのだ。それはもう戻ってこない日々をできる限りとどめておきたいという惜別の表現といえる。曲が終わってほしくないのだ。切ないアウトロがまた印象深い。

 いつもだったら「ノーナの曲はくどい、長い」とツッコミを入れているが、この曲に関しては適切な長さに感じる。まあ、アルバムの最終曲というのもあるだろう。ラストにふさわしいフィナーレである。

 ああ、それにしても二十歳の夏はもう少しインパクトのある行動をしておくのだった。いまこの記事を読んでいる二十歳未満の方に全力で勧めたいこと。それは派手に何かを起こすのである。あとから振り返って「よく覚えていない」でいるのは最大の損失だ。

       【今日の名歌詞】

焼けつく素肌に缶ビールを 砂時計みたいにちょっとこぼしてずっと見ていた

 



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