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Elliott Smith "Figure 8"の壁画 (LA旅行 回想録)


 エリオット・スミスは私が最も敬愛しているアーティストであり、そのことについては過去の記事でも何度か触れてきた。


 中でも特に愛聴しているのは2000年リリースの5thアルバム『Figure 8』なのだが、音楽は勿論のこと、そのアートワークにも強く惹かれるものがある。印象的な壁画の前に佇むエリオット。

 色彩豊かでひねりが効いたアートと、エリオットの素朴で飾らない人柄がよく表れていて、とても印象的な写真だと思う。

 この写真はロサンゼルスで撮影されたもので、壁画は現在もなお残されている。

 私は、2017年にここを訪れた。4泊6日のLA旅行のうちの最後の一日、観光名所はあらかた行き終え、最終日はのんびり街を散策しようという中で、以前から気になっていたこのスポットに少し足を伸ばしてみた。

 LAと言えば、アメリカにおいてNYに次いで二番目に人口の多い都市として知られているが、NYのような高層ビル群は皆無で、広大な大地に、何処までもほのぼのとした空気感が漂っているのが印象的だった。

 そんな街の片隅に、この壁画はある。電車とバスを乗り継ぎ、最寄りのバス停から15分ほど歩いたところにそれはあった。観光のついでにふらっと立ち寄れるような立地ではないものの、興味さえあれば、決して行くのが大変というほどの場所でもない。

 ジャケ写が撮影された当時はかなり治安の悪い場所だったそうで、ホームレスやギャングの溜まり場になっていたらしいが、現在は多くの車が行き交う大通りに面しており、怪しげな雰囲気は無かった。

 壁画を見つけた瞬間、『ああ、確かにエリオットはこの街に居たんだな』と、ほのかに実感が湧いた。私が彼の存在を知り、その音楽の虜になったのは、彼が2003年に亡くなってから約7年後のことだった。それから私は、彼の歌声に何度も救われた。彼の歌声は、まるで自分のために歌ってくれているような気にさせてくれる、あまりにも優しい声だと私は思う。彼のパフォーマンスを生で観てみたいという希望はもう叶わないけれど、それでもエリオット・スミスという人物の存在を僅かながらも実感できたことは嬉しかった。

 元々、この壁画が描かれた建物は『Solutions』という楽器店だったそうだが、現在はバーに変わっており、楽器店はそのすぐ隣へと移っている。

 "Figure 8"のジャケ写をこの壁画の前で撮影することになった経緯については、こちらのドキュメンタリー映画で語られている。

 この映画の中でのインタビューによると、オータム・デ・ワイルドという、エリオットと親交の深い女性写真家の発案によって、この壁画がアートワークとして採用されたのだそうだ。当初、彼女はこの壁画を見て『クレイジーなひどい絵だ』と感じたそうだが、次第に素晴らしいと思うようになり、ついには被写体として使いたいとまで考えた。前作"XO"のツアーを終え、LAにて"Figure 8"の制作を行なっていたエリオットに対し、彼女はこの壁画の写真を見せ、アルバムの宣伝用の写真として実験的に撮影してみないかと提案。エリオットは、『確かにいいね』と答え、『みんな僕のことを、暗い部屋を好む人間だと思っているからね』と呟いたという。自分自身のパブリックイメージを覆す、色彩豊かなストライプにエリオットも惹かれたようで、実際の撮影も『こんなに楽しい撮影は初めてだ』と語るほど充実したものとなり、エリオット本人もお気に入りのジャケット写真が完成した。

 なおこのドキュメンタリー映画では、エリオットの活動拠点であったポートランド・NY・LAの風景と、彼の楽曲をバックに、当時の貴重なライブ映像や、エリオット本人、エリオットの妹、友人、バンド仲間、元ガールフレンドらのインタビューが収録されており、エリオットの素朴な人柄と才能がよく分かる、非常に興味深い内容となっている。また、エリオットが亡くなった当時、この壁画の前に多くの献花が供えられた映像も確認することができる。

 ちなみに、一時期は壁への落書きがひどかったそうだが、私が訪れた時には綺麗に修復されていた。

 また、名曲"Son Of Sam"のMusic Videoの中でもこの壁画が登場するので、興味のある方は是非チェックして頂きたい。



 最後まで読んで頂きありがとうございました。




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