見出し画像

カナダの大所帯バンドBroken Social Sceneの音楽を聴き直す

 ここ最近、3ヶ月前にリリースされたKevin Drewのソロアルバム『Aging』をよく聴いている。

 Kevin Drewといえば、カナダの大所帯バンドBroken Social Scene(以下、"BSS")の発起人にして、音楽レーベルArts & Craftsの主宰者でもある、カナダ音楽シーンにおける重要人物である。

Kevin Drew


もう一人の発起人であるBrendan Canningと2人でBSSを立ち上げたのは1999年。同じくカナダ出身のアーケード・ファイアとともに、00年代のインディーロックシーンを牽引した。

Kevin Drew(左)とBrendan Canning(右)


 現状、2017年の『Hug Of Thunder』以来フルアルバムのリリースから遠ざかってはいるが、元々、メンバー個々のバンド活動やソロ活動の合間を縫って集結するというスーパーバンド的なスタイルであるため、アルバムのリリース自体が数年に一度のお祭りのような感覚なので、ブランクが空いていることは特に気にならない。

 今回は、そんなスーパーバンドを構成するメンバーや、各アルバムについて紹介していきたい。

BSS プロフィール

活動拠点:カナダ🇨🇦トロント
活動期間:1999年〜
ジャンル:インディーロック、ポストロック
メンバー:常時参加のコアメンバー5名と、作品ごとに入れ替わるメンバーを合わせ、最大19名編成の大所帯バンド。

◾️コアメンバー

Kevin Drew(vocal, guitar)★発起人
Brendan Canning(vocal, bass)★発起人
Andrew Whiteman(guitar)
Charles Spearin(guitar)
Justin Peroff(drums)

◾️その他の主なメンバー

Feist

 カナダを代表する女性SSW、Feistことレスリー・ファイスト。99年のデビュー作から昨年の最新作まで、計6枚のフルアルバムをリリース。代表作は07年『The Reminder』で、収録曲の『1234』が当時ipodのcmソングに起用されたことで日本でも一躍有名となった。


Stars

 モントリオールのインディーポップバンド。これまでに9枚のアルバムを発表。男女ツインボーカルであるAmy MilanTorquil Campbellの両名が参加。また、ベーシストのEvan CranleyはBSSではトロンボーンとして起用されている。


Metric

 トロントのシンセポップバンド。シンセポップとは言うものの非常にロック色が強い。アルバムの数はStarsと同じく9作にのぼる。ボーカリストEmily Hainesのほか、ギタリストのJames Shawがトランペットとして参加。


Do Make Say Think

 アンビエントなインストナンバーを奏でるポストロックバンド。ギター・ベース・サックス・フルートを操るマルチプレイヤー、Ohad BenchetritがBSSにおいても多種多様な楽器で参加している。またリードギタリストのCharles SpearinはBSSのコアメンバーでもある。

◾️BSS ディスコグラフィー

1st『Feel Good Lost』(2001)
2nd『You Forgot It In People』(2002)
3rd『Broken Social Scene』(2005)
4th『Forgiveness Rock Record』(2010)
5th『Hug of Thunder』(2017)

1st『Feel Good Lost』(2001)

 まだ大所帯バンドとしてのスタイルが確立される前の時期に制作されたアルバムで、その多くはKevin DrewとBrendan Canningの二人のみで作曲・録音された。インストナンバーが大半を占めており、その音楽スタイルはアンビエントなポストロックと言える。本作を下敷きとして、次作以降で様々なアーティスト達の音楽性をミックスさせていくことになる。なお、Feistをボーカルとして迎え入れた4曲目の"Passport Radio"は本作で唯一、歌がある楽曲である。


2nd『You Forgot It In People』(2002)

 楽曲ごとにメンバーを変えるスタイルを本作で確立。総勢11名が参加し、その名を一躍知らしめることとなった傑作2nd。前作のアンビエント音楽からは大きく姿を変え、轟音ギターがうなりをあげる"KC Accidental"や、エレクトロニカ要素を強調した"Stars and Sons"など、フィジカル面の強さが際立つギターサウンドが鳴らされている。Feistが歌う"Almost Crimes"はバンドの代表曲。その他、"Cause=Time"や"Lover's Spit"など、人気曲を多数収録。


3rd『Broken Social Scene』(2005)

 StarsやMetricらの台頭も経て、更に注目度を増した中での3rdアルバムはセルフタイトル。"Ibi Dreams Of Pavement(A Better Day)"や、
"7/4(Shoreline)"といった人気曲を収録するなど、一定レベル以上のものを手堅く作ったなと思う一方で、キャリア全体を通じて見ると、ややインパクトに欠ける感は否めない。私はこのバンドに対して、メンバーの強烈な個性・才能が激しくぶつかり合うような"アクの強さ"を求めている。


4th『Forgiveness Rock Record』(2010)

 カナダの音楽チャートで初の1位を獲得し、名実共にカナダを代表するバンドへと躍進した5年ぶりの4th。ポストロック由来のタイトなリズムワーク、冴え渡るポップセンス、そしてそこに堂々たる貫禄・風格も加わり、前作までとは明らかに雰囲気が異なる。更に特筆すべきは、スーパーバンド特有のカオス感と言うか、いい意味でのアクの強さ。まさに盤石のインディーロックアルバムと言っていい仕上がりだ。2ndと5thも捨て難いが、個人的にはコレを最高傑作として推したい。


5th『Hug of Thunder』(2017)

 目下のところ最後のリリースとなっている5th。2011年からの6年間に渡る活動休止期間を経てのリリースだがブランクは一切感じさせず、前作に勝るとも劣らない力作。従来よりもメロディックで、輪郭が明瞭な楽曲が増えたように思う。10名以上の個性豊かな才能が見事に纏め上げられており、洗練された印象を受ける。4thが最高傑作だと書いたが、純粋な楽曲の洗練度、完成度では本作が一番だと思っている。


 ケビン・ドリューの新譜を聴いて、まだまだ才能が枯れていないことが確認できた。またブロークン・ソーシャル・シーンのメンバーが集結することはあるだろうか。個々のメンバーがそれぞれに音楽活動を長く続けていってくれるのが一番だが、もしその先にまた"お祭り"が待っているのであれば、なお嬉しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?