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8〜9月 新譜レビュー

 今回は、8〜9月にリリースされた新譜のレビューを書いていきたいと思います。

 順番はリリース順です。


The Hives 『The Death Of Randy Fitzsimmons』

 00年代初頭、ストロークスやホワイト・ストライプスらがガレージロック・リバイバル・ムーヴメントを牽引。そこに続く存在の一角として君臨したスウェーデンの雄、ザ・ハイヴス。2012年以来、実に11年ぶりとなる6thをついにリリースです。2004年の3rd『Tyrannosaurus Hives』が全英チャート7位を記録するなど高い評価を得ましたが、セールス的にはそれが頂点。4th, 5thも決して内容は悪くなかったものの、プロモーションが機能しなかったのか、セールス的には低迷。まあ3rdの神懸かり的な出来栄えと比べてしまうと若干見劣りしてしまったのは確か。3rdは元々のテンションMAXなロックンロールサウンドにエレクトロな要素を少し取り入れつつ、ソングライティングもかなり冴えていたので。今回の6thは、そんな名作3rdを順位的に上回り全英2位を記録するなど絶好調。ただ、サウンド的に4thや5thに無かった新しい試みや進化が有るかと言えば特に無いですね。持ち前のポップセンスと、勢いの良いロックンロールサウンドにとにかく磨きをかけた、その一点に尽きます。一曲一曲の精度を上げ、痛快なナンバーを増やすことに成功した会心の一枚。



Yonlapa『Lingering Gloaming』

 タイ北部、チェンマイを拠点に活動する4人組、初のフルアルバム。2020年リリースの5曲入りEP『First Trip』が素晴らしい内容で、インディーフォークをベースに、ドリームポップやサイケの要素を絶妙なバランスでブレンドした傑作でした。それから3年後、従来のサウンドを軸に、より多彩なアプローチを展開しています。浮遊感溢れる、ノスタルジックでメロウな雰囲気はそのままに、より陶酔感の強いシューゲイザーライクなギターを前面に押し出しています。女性ボーカリストNoi naaのやや憂いを帯びたクールな歌声との相性も抜群なサウンド。深海の中を浮遊しているような"i don't recognize you"、動き回るベースラインが印象的な"INSOMNIA"、ドリーミーで美メロな"On My Own"と、冒頭3曲で一気に心を掴まれます。"ONE WAY TICKET"のアーバンライクかつサイケなギターリフと美メロの融合は本作のハイライト。"I'm Just Like That"で見せたオルタナなギターロックは新境地。来日公演も経て、これからの更なる飛躍に期待したい全11曲。


Buck Meek『Haunted Mountain』

 Big Thiefのギタリスト、ソロ通算3作目。過去2作のリラックスした雰囲気、インディーフォーク/カントリーな内容を軸としつつ、シンセなどの新機軸を取り入れたり、バンドサウンドを前面に押し出したりと、新たな試みの多い意欲作。過去作と比べて、明らかに色彩豊かな音像へと変化しているのが分かります。ただ、あくまでサウンドが派手になり過ぎることはなく、淡い煌めきを帯びたフォーク・ロックといったところ。そこの味付けの加減を間違えると一気に陳腐に成りかねないところを、華麗に回避しているのは流石の一言。シンセが印象的な冒頭の"Mood Ring"、最もバンドサウンドが前面に出ている表題曲の"Haunted Mountain"、歪ませたエレキギターが軽やかに鳴り響く"Cyclades"と"Undae Dunes"。もちろん過去2作も良かったですが、自分の個人的な好みで言えば、今作が断トツ。素晴らしい作品でした。


Slowdive『Everything Is Alive』

 マイブラ、Rideと並ぶシューゲイザー界のレジェンド、6年振り5作目。2017年、バンド名を冠した堂々の自信作『Slowdive』で、22年振りの新譜リリースを果たしました。復活作にして最高傑作との呼び声も高かった前作から6年、フジロック2023での来日に今回の新譜リリースと、非常に精力的な活動を見せています。極めて安易な個人的印象ではありますが、陶酔感の強いギターが主役のマイブラ、バンドアンサンブルに躍動感がありキャッチーなRide、そして、メロディが美しく浮遊感溢れるサウンドのSlowdiveと、それぞれ異なる個性がよく表れているなと思っています。本作『Everything Is Alive』においても、持ち前の浮遊感がよく出ているのに加えて、エレクトロニックな音像を強めている点は過去作からの変化と言える点かもしれません。リバーヴの効いた、より没入感のあるサウンドを展開しています。大きな期待値に応えた一枚。


Royal Blood『Back To The Water Below』

 2014年のデビュー作から4作連続となる全英1位を獲得したロイヤルブラッド。Museのような圧倒的スケール感、The White Stripesのようなシンプルかつ痺れるギターリフで魅了し続けてきました。ヘビィでありながら、キャッチーで大衆受けしやすいのも強みですよね。更に2021年リリースの前作『Typhoons』では、ダンサブルでエレクトロなディスコビートを大胆に取り入れ、新たな可能性も示しました。そんな彼らの最新作ですが、1st/2ndのようなヘビィでラウドな方向性、3rdのようなダンサブルなディスコビートの方向性、そのどちらの要素も併せ持ってはいるものの、『両者の良いとこどり』と手放しに褒められるかというと正直微妙なところではあります。ソングライティング的には決して悪くはないものの、サウンド的に突き抜けた個性が少ないだけに、有無を言わせぬ圧倒的な楽曲が1〜2曲は欲しかったというのが正直なところ。ただ、元々このバンドは95点〜100点な楽曲は無い代わりに、アルバム全曲通じて90点以上は絶対外さないっていうタイプだと思ってはいたので、そういう意味では最大限評価したいですけどね。それって相当貴重な存在だと思うので。キャリアの中で突出するアルバムではないけれど、それでも全英1位を取り続けられるだけの納得性は十分に感じさせる、安定感は間違いない一枚。


Mitski『The Land Is Inhospitable and So Are We』

 三重県出身で、現在はNYを拠点に活動するSSW、Mitskiの通算7作目。ノスタルジックでレトロな雰囲気漂う80'sシンセポップなサウンドを展開した前作『Laurel Hell』から約1年半。前作も彼女にとって新境地となるサウンドでしたが、今回もまた違った新境地を見せてくれました。厚みのあるシンセサウンドから一転、本人が「これまでで最もアメリカ的な作品」と語っているように、カントリー/フォーク/ゴスペルの要素が色濃い音楽性へと変貌を遂げています。オーケストラを大胆に導入した#3, #6, #8, #9, フル合唱団が参加した#1, #6, #7, #10など、静謐で幻想的な世界観を提示してくれています。そこに、従来のドラマティックなメロディセンス、彼女自身の芳醇な歌声が加わり、まさに盤石の仕上がり。毎回スタイルを変えながらも、常に進化を繰り返し、セールス・評価の面でもキャリアハイを更新し続ける稀有な存在。間違いなく今年のベストアルバム候補の一つ。


The National『Laugh Track』

 3月にリリースされた『First Two Pages of Frankenstein』に続いて今年2枚目となるフルアルバム。2枚同時に制作していたようで、Sufjan StevensやPhoebe Bridgersは両作ともに参加しています。日本での知名度と海外での知名度に大きな差があるバンドですが、私は今年『First Two・・・』で初めて彼らのアルバムを聴きました。予備知識一切無しで聴いたのですが、今ひとつこのバンドの魅力を理解し切れていないうちに、もう次のアルバムがリリースされてしまいました。今回は事前に多少の予備知識を入れておこうと、10年代の人気作『High Violet』と『Sleep Well Beast』を聴いてから臨むことに。すると、叙情的でモノトーンなサウンドでありながらも、手数の多いトリッキーなドラミング、さり気なく掻き鳴らされる独創性の高いギタープレイの数々、ドラマティックさとスケール感に溢れた楽曲の多さに気づきました。USインディーシーンにおいて確固たる地位を築くことができた要因を知った上で、あらためて今年の2枚を聴くと、ドラムは以前と比べると随分シンプルなフレーズへと落ち着き、メロディ重視の楽曲作りに変わってきていることが分かります。同時に制作されたというだけあって、今年の2枚の違いは何かと問われても正直違いは思い浮かびません。強いて言えば『First Two・・・』の方が印象深いメロディは多い気はします。では、この『Laugh Track』は前作で選ばれなかった楽曲の寄せ集めのようなクオリティなのかと言われればそれは即座に否定します。堅実で渋い一枚。


Teenage Fanclub『Nothing Lasts Forever』

 グラスゴーの大ベテラン、2年振りの11作目。メンバーチェンジを経てから2作目となる本作ですが、これまでと全く変わらないスタイルを見せてくれています。優しくて穏やかで普遍的なグッドメロディなんだけど、決してありきたりではない、いつものTFC節。やっぱり彼らにしか出せない音、声、メロディがあると思います。そういう意味では一定の評価は出来るのですが、メロディの良さだけで捩じ伏せられるような、一瞬で心を鷲掴みにしてくるような強力な楽曲が無かったのは残念なところ。前作で言うところの『Home』『I'm More Inclined』のような印象的な楽曲に匹敵する存在が少なかった気がしますね。

Wilco『Cousin』

 既にかなり評判の高い、1年4ヶ月ぶりの通算13作目。長らくセルフプロデュースが続いていたWilcoですが、本作のプロデューサーには自身もアーティストとして活動するCate Le Bonを起用。外部からの起用は2009年の7th『Wilco(The Album)』以来ですが、やはり本作のサウンドの質感にはこれまでの作品には無い新鮮な響きが感じられ、前作のフォーク/カントリー路線から一転、本作はオルタナの要素が強い。アートワークのように、落ち着いたトーンながらも色彩豊かで華やかな音像です。10曲という収録曲はキャリア最少で、43分という収録時間は13作中4番目の短さではありますが、決して淡白ではなく、コンパクトな中に濃密な内容が凝縮されています。これまでも40分を切る作品はありましたが、余計な味付けの無い、素朴でモノトーンなサウンドでした。それに対して本作では緻密に幾つも音を重ねており情報量は多いです。ただ、決して情報過多ではありません。いつものリラックスした自由なムードは健在です。そして何よりメロディが良い。Jeff Tweedyのソングライティングの良さが存分に出た会心の作品。



 以上の9枚です。

 特に素晴らしかったのはMitski、Buck Meek、Wilco。久々のThe Hivesも復活を印象づけたし、Slowdiveも期待に違わぬ存在感を発揮してくれました。Yonlapaにはこれからにますます期待です。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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