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Blur 全アルバム聴いてみた

 今回は、Blurのデビュー作から最新作『The Ballad of Darren』まで、全作品を聴いてみて、その率直な感想を綴っていきたいと思います。

 サマソニ & 8年ぶりの新譜リリースで、日本が大いに熱狂した時期から1ヶ月以上経った今このタイミングで『全アルバム聴いてみた』ってどないやねん?と、あまりの間抜けさに自分でもツッコミながら書いております。

 そんな私のブラー歴としては、洋楽を聴き始めたばかりの高校生の頃にTSUTAYAでベスト盤をレンタルし、「決して悪くはないんだけど、なんか小難しいんだよな」と、あろうことかそのまま長年放置。キャッチーさばかりを求めていたポップパンク小僧には到底理解し切れない音楽なのでありました。おまけに下手にベスト盤を手に取ったせいで何となく知った気になってしまい、しかもバンドは解散状態なので当然新譜リリースも無く、なかなか聴き直すきっかけもないという悪循環。(更に2015年の『The Magic Whip』をスルーしてしまうという痛恨の失策・・・)

 そんな中で、今年ブラーがめちゃめちゃ盛り上がったのを機に、全作を聴いてみようとなった次第です。(遅い)

 私のような超初心者だと、Oasisと比較されがちなバンド、という印象はやっぱりどうしても浮かんできてしまいます。安易なイメージですが、(音楽性に関して言えば)生真面目で普遍的で王道なOasisと、それとは対照的に、捻くれ者で個性的で常に時代の先を行くBlur、というのが事前の印象です。

 それでは、主にデーモン・アルバーンのソングライティングと、グレアム・コクソンのギタープレイに焦点を当てながら、1stからリリース順に聴いていきたいと思います。

1991年 1st "Leisure"

 Blurというバンドの魅力を一言で表すとしたら…?これまで全然聴いてこなかった私のような者が客観的にイメージすると、『大人の余裕』『遊び心』『知的』『捻くれてるけどポップ』等々・・・。そして、デビュー作である本作にそれらが強く感じられるかといえば、さほど感じられなかったというのが正直なところです。要は、ブラーらしさがまだ芽生えきっていない、というところか。どこか肩に力が入っているような。捻くれたメロディという持ち味もまだ少ないのかなと。ただ、瞬間瞬間を切り取っていくと、既にポップセンスの非凡さが光る場面は幾つもありました。特に、"There's No Other Way"の中毒性は凄い。この曲に限ってはむしろ、キャリア全体を通じても『大人の余裕』と『遊び心』を最も強く感じる楽曲の一つでした。アルバム全体を通じての集中力という意味で言えば散漫な部分があるのは否めないものの、大器の片鱗が見える瞬間もあるというところでしょうか。

お気に入りトラック:There's No Other Way


1993年 2nd "Modern Life Is Rubbish"

 1stからの確実な進化を感じます。メロディラインが捻くれ、説得力・風格も増し、質の高い楽曲の確率も上がってきています。"For Tomorrow"のような洗練された楽曲は1stでは見られなかったし、捻くれたメロディとエッジの効いたサウンドが癖になる"Advert"は今もなおライブの定番として君臨する人気曲のようで。ただ、全体としては、このバンド特有の余裕たっぷりな貫禄はまだ完成には至っていないように感じました。サウンドが全体的に重厚で攻撃的なので、リラックスした雰囲気というところからは少し離れてしまったのかなと。まあそれはBlurだからこその贅沢な注文というか、本作も十分、並のバンドでは到底作れないレベルの凄いポップソング集だとは思います。

お気に入りトラック:Advert


1994年 3rd "Parklife"

 初の全英1位を獲得し、これ以降の全アルバムが1位を達成し続けることになる、快進撃の起点となった作品。一聴して、リラックスしたムードがアルバム全体に漂っていることが分かります。Blurならではの遊び心、余裕たっぷりな雰囲気に溢れており、私が個人的に思い描いていたバンド像がぴったりと当てはまるような作品でした。"Girls & Boys"、"End of a Century"、"Parklife"等、前半から特大ホームラン級の名曲が揃っているだけでなく、後半もスウィートかつ壮大な"To the End"や、グレアムの鮮烈なギタープレイが映える"London Loves"など、粒揃いな面々が脇を固めている。ブリットポップ・ムーヴメント真っ只中の作品ということで、やや売れ線的な見られ方をすることもある作品だとは思いますが、人気だけでなくしっかりと質も伴った、堂々たる名盤だと思います。

お気に入りトラック:London Loves


1995年 4th "The Great Escape"

 このアルバムを聴き終えて真っ先に思い浮かんだワードは「変テコ」でした。「奇妙」でも「謎」でもなく、「変テコ」という滑稽なワードが相応しく感じるのは、少なからずキャッチーさも秘めているからでしょう。決して暗いアルバムでもなければ、悪いアルバムというわけでもありません。むしろポップ。でも変テコ。ギターの奇抜さはキャリア随一だと思います。めちゃくちゃギターロックしてるアルバムだとは思うんですが、アルバム全体に漂う何とも言えない脱力感というか、良い意味でやる気の無い感じも一番かなと(褒めてます)。とにかく緩い。純粋なソングライティングの良さ、全体を通じての集中力に関しては前作を下回ったとは思いますが、ブラーらしさという意味では捨てがたいものがあります。"Country House""Charmless Man""The Universal"といった粒揃いの名曲と、その脇を固める変テコで愉快な仲間たち。そのギャップがまた緩い。

お気に入りトラック:Charmless Man


1997年 5th "Blur"

 USオルタナ路線へと大きく舵を取った作品。明らかに雰囲気が一変しています。ブリットポップ・ムーヴメントとの決別。グレアムのギターの奇抜さ、格好良さは間違いなくNo.1です。鋭く尖った、荒々しくも独創性の高いギターサウンドを掻き鳴らしています。ザラついた質感、退廃的な空気感。キャッチーさで言ったら、キャリアの中でも下から2番目か3番目くらいだと思いますし、正直、謎な曲も多いですが、キャッチーさとポップさを封印しても、サウンド面の格好良さとソングライティングでこれだけ魅せられるという力量はもはや圧巻です。問答無用のアンセム"Song 2"もいいですが、"You're So Great""Look Inside America"のような素朴な美メロ、デーモンの素晴らしいソングライティングを堪能できるところも本作の最大の魅力の一つ。デーモンとグレアムのキャリアハイとなるパフォーマンスが同時に発揮された最高傑作ではないかと感じました。

お気に入りトラック:You're So Great


1999年 6th "13"

 このアルバムを理解するのは至難の業でした。ダークで不穏な空気が漂う、異質なアルバム。特に中盤(5〜8曲目あたり)の展開はあまりにも謎過ぎた。全然聴けるレベルではあるんですけど、ブラーがこれをやる意味は何…?と、いや意味なんて考えちゃいけないんでしょうけど。後半やや持ち直してきますが、基本不穏な空気には変わり無し。あと、無駄に尺が長い曲が多いような。ゴスペルな"Tender"や、グレアムがボーカルを務める"Coffee & TV"とかはキャッチーですし人気曲ですけど、これも意外と長いんですよね。グレアムのギターに関しては、ここに来て最早狂気とも言えるノイズを掻き鳴らしています。音楽に対して常に一定のキャッチーさを求めてしまう自分のようなリスナーからすると到底手に負えないアルバムなのでありました・・・

お気に入りトラック:Coffee & TV


2003年 7th "Think Tank"

 デーモンが本作のプロデューサーにFATBOY SLIMことNorman Cookを起用したことに反発し、本作を制作中にグレアムがバンドを脱退。正ギタリストを欠いた状態で制作されたという7th。彼のギタープレイこそがBlurサウンドの象徴なのに一体大丈夫なのか・・・と思いきや、不思議とBlurらしさを感じてしまった一枚。そこは鬼才デーモン・アルバーンの類稀なるセンスとアイデアによって、埋まらない穴を全く別の方法論で埋めてしまった、というところでしょうか。本作のアート性を象徴するようなオープニングナンバー"Ambulance"を聴けば、圧倒的に音の情報量が増えていることが分かります。いつものラフな感じはなく、緻密に作り込まれた作品。"Crazy Beat"の抜群の中毒性は、個人的に"Song 2"や"There's No Other Way"の系譜だと思ってます。そして、"Sweet Song"のあまりにも美麗なメロディと、それをどこまでも素直に歌い上げるデーモン。これまでの捻くれ具合からはとても考えられなかったような姿であり、驚愕です。異質ではありますが間違いなく傑作。

お気に入りトラック:Crazy Beat


2015年 8th "The Magic Whip"

 東京と台湾での公演が中止となり、足止めされた香港で、その街並みから受けたインスピレーションを基にそのまま香港のスタジオでレコーディングしたという8th。2009年のグレアム復帰によるバンド再始動後、初のアルバムでもあります。"あの頃"の作風に回帰しつつ、今までに無かった要素も上手く付加しているアルバムなのかなと。音自体のポップさ、キャッチーさはキャリアでも一番ですね。どことなく浮かれたような楽しげなサウンド。"I Broadcast"の80'sポップスを彷彿とさせる強烈なシンセとギターリフが組み合わさる瞬間の気持ち良さ。"Ghostship"のリラックスした優しい雰囲気と穏やかで軽やかなギターワーク。音もコーラスも何もかもがキャッチーだけど、同時にどこか切なくもある"Ong Ong"。最高傑作に推されることは少ないかもだけど、悪い評価をされることも少ないであろう、ずば抜けたキラーチューンこそ不在だが平均点は高い、地味ながら優秀な一枚。

お気に入りトラック:Ghost Ship


2023年 9th "The Ballad of Darren"

 結成35年目にして第2の全盛期を迎えていると、多くのファンに言わしめた最新作。成熟に成熟を重ねた今のブラーが鳴らしているからこそ良さを感じる、激渋サウンド。タイトル通り甘美なバラードを随所に配しており、歌メロを主役として、ギターは引き立て役に徹することでこれまでにない味わい深い響きを獲得しています。かつての尖りは無いけれど、丸くなり過ぎてもない、絶妙な枯れ具合というところでしょうか。過去作すべて50分超だったのに対して本作は36分という潔さも良いですね。冒頭の"The Ballad"はその名の通り本作を象徴するようなバラード。続く"St. Charles Square"のフックのあるリフも、"Barbaric"のまるで波紋のような清涼感のあるギターサウンドも、どちらも尖った感じではなく実に渋い感じが今現在のブラーにしか鳴らせない感じで非常に良いです。ハイライトは先行シングルにもなった"The Narcissist"。軽やかなギターと、シンプルなグッドメロディ。とにかく歌メロが良い、歌が主役の楽曲。そんなシンプルな曲がブラーの作品のハイライトになろうとは。シューゲイザーライクな歪んだギターが穏やかな渦を巻き起こす"Goodbye Albert"も、スケール感の大きさがラストに相応しい"The Heights"も、どちらもメロディがよい。とにかくメロディが素晴らしいアルバムでした。

お気に入りトラック:The Narcissist



最後に、個人的に好きだった順番を。
1. Blur (5th)
2. Parklife (3rd)
3. Think Tank (7th)
4. The Ballad of Darren (9th)
5. The Magic Whip (8th)
6. The Great Escape (4th)
7. Modern Life Is Rubbish (2nd)
8. Leisure (1st)
9. 13 (6th)

 是非ゴリラズも聴いていこうと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。

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