別れの日は晴れた日がいいだろう 5

なんみょーほーれんげーきょー
…眠い。
お経って、なんて長いんだろう。というか、何語? なんて言っているのか全然訳がわからない。
部屋にたちこめる、お線香の香り。
響きわたる木魚の音。
じじいは立派な戒名をもらっていた。意味わからないけど。
何度も復唱するお経。すすり泣く人の声。
「黙祷をお願い致します。」
と、和尚さんに言われて、下を向いて、目を閉じた。途中で頭を上げてみた。
おばあちゃんはじじいが死んだ直後は泣いていたけれど、もう泣いていなかった。じじいの妻として毅然としていた。強い。
お父さんもそうだ。喪主として、自分の父親を、あの世へ送り出そうとしている。

なんか、ばかみたいだ。

死んだ時から、もう、じじいはいないのにじじいの魂のぬけた体に向かって、こんな儀式をしてるなんて。
頭を明につかまれ、下を向いた。
パーーーーッ
じじいの死体と、葬儀屋の人、喪主のお父さんを乗せた、霊柩車が発車した。
あたし達もマイクロバスに乗って、火葬場に向かった。

「最後にお別れをどうぞ。」
参列者の人達が一人ずつじじいの顔を見る。
それにしても、火葬の装置? って、なんて寒々しいんだろう。昔のナチスがユダヤの人々を殺す時もこんな装置で殺されたんじゃないか、と思った。あたしはいやだな。死んだあと、こんな装置で焼かれるの。
「ううっ…ああっ」
嗚咽が聞こえた。おばあちゃんかと思ってふりかえると、全然知らないおばあさんだった。
昨日、池のふちにいた人だ。
「それでは、最後の黙祷をお願い致します。」
そう、葬儀屋の人に言われて、目を閉じた。
ガシャ
音がして目を開けると、もう、じじいは火のなかだった。

だましたみたいなやり方だと思った。


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