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書のための茶室(八):名前を決めよう

茶室の見学を経て

前回の打ち合わせで、建物の中の茶室にしたい、ということで、賃貸マンションの茶室、そしてホテルの中の茶室を見学してきました。

根本 知(以下、知):鹿持さんの「游鹿庵」では、場所の制約に対するアプローチが印象的でした。賃貸マンションだから、窓の位置なんかは変えられないわけです。そこをすごく上手に活かしていましたよね。

三尋木 崇(以下、崇):収納もすごかったですよね。

知:そうそう、お茶人は季節ごとのお道具を持っておかなければいけないですからね。そういった現実的な問題に対する知恵にも感心しました。実際の茶室建築には、そういった視点も不可欠なんだなということも含めて勉強になりました。

崇:帝国ホテルの方はいかがでしたか?

知:あの時代特有の、丁寧で温かい建築の持つ雰囲気にも惹かれましたが、何より、建物から庭に続くアプローチの自然さというか、ビルの4階に、あんな自然に日本庭園が広がっていることに驚きましたね。

崇:建物と露地、庭をつなぐアプローチに工夫がありましたよね。

知:今検討している茶室にも、そういった工夫が取り入れられるといいなと感じました。

茶室の名前を考えました

知:そうそう、僕茶室の名前を考えたんです。

崇・山平 昌子(以下、昌):ほう!

知:書家は作品の落款に、書斎名を書いたり、印を捺したりするんです。 それで私もつけようと思い、 光悦の同志でもあり、パトロンでもあった角倉素庵から音を取って「そあん」と付けたい、と大学院時代に考えていたんです。書斎で本を読むことは、先人の命を吹き返すことだと思い、「蘇る」の字を当てて「蘇庵」としました。

昌:大学院時代にもう考えていたんですね。

知:さらに、友人の篆刻家、山本晃一氏に掘ってもらった印もあるんです。

昌:なにぃ!

「蘇庵」の印

崇:すごい!

昌:
漢委奴国王・・

知:押すとこんな感じです。

「蘇庵」の印影

崇・昌:おおおーー!

知:実家のときの自分の部屋の名のつもりだったんですけどね。この間ふとそれを思い出して、そうだ、この名前を今回の茶室に付けたい!と考えたのです。

崇:長年温めていた名前にふさわしいものにしたいですね。

茶庭の名前も!

知:そしてさらに庭の名前も考えてきました。

崇:ほぉ!

昌:どぅるるるるるるるる・・・・・どぅん!(ドラムロール)

知:「宙庭」です。宇宙の宙ですね。「宙」という字は、ウかんむりの部分が屋根を示していて、中の文字が「底の深い酒つぼ」、転じて深く通じる穴の意味なんですって。高い屋根と深い穴から、奥深く通じる建造物を意味し、そこから、「そら」、「空間」、「無限の時間」を意味する「宙」という漢字が成り立ったそうなんですね(参考)。次第に奥に奥に入っていくとやっと書に出会えるという今回の建物のコンセプトにも合うように思って。

崇:ちゅうてい。響きにかわいさもあるし、いいですよね。

知:そう、僕がねずみ年、ということもちょっと考慮しました。

崇:では名前が決まったところで、茶室の中身の検討に進みましょう!


三尋木 崇(みひろぎ たかし)
「五感を刺激する空間」をテーマに、建築と茶の湯で得た経験を基に多様な専門家と共同しながら、「場所・時間・環境」を観察し、“そこに”根ざした人、モノ、思想、風習を材料に“感じる空間体験”を作り出す。 普段は海外の大型建築計画を仕事としているため、日本を意識する機会が多く、そこから日本の文化に意識が向き、建築と茶の湯を足掛かりに自然観を持った空間を発信したいと思うようになり、活動を開始した。 2009年ツリーハウスの制作に関わり、2011年細川三斎流のお茶を学び始めてから、野点のインスタレーションを各地で行う。 ツリーハウスやタイニーハウスといった小さな空間の制作やWSへの参加を通して、茶室との共通性や空間体験・制作のノウハウを蓄積している。

2023年の目標は、毎朝家族のご飯を作ることと、簡単で美味しいメニューを覚えること。


根本 知(ねもと さとし)
かな文字を専門とする書家。本阿弥光悦の研究者でもある。2021年2月、「書の風流 ー 近代藝術家の美学 ー」を上梓。
2023年の目標は、喋りすぎないこと。

山平 敦史(やまひら あつし)
鹿児島県出身。フリーランスカメラマンとして雑誌を中心に活動中。
2023年の目標は、よくよく噛むこと。

山平 昌子(やまひら まさこ)
茶道を始めたばかりの会社員。「ひとうたの茶席」発起人。
2023年の目標は、腹筋を鍛えること。

(文:山平 昌子 写真:根本 知)





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