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風花ちゃんという女の子。

新樫樹さんという作家さんが、昨年書籍デビューした。
カクヨムというサイトで出会った方で、最初の印象は、話しかけても答えてくれるのには時間がかかる内気なタイプの人かなって思ってたんだ。
それはなんとなく、ただの空気なんだけど、そう感じた。

でも、彼女が書いたエッセイを読んだ時、(今は載せてないから記憶が曖昧なんだけど)制服のボタンの話で、海の近くの学校で、毎日勇気を出して懸命に生きている女の子が目の前に現れて、すごく魅かれたんだ。
あ、この人は、違う空気を纏った人だ。って。それが出会いだった。

その後も、着実に力をつけた文章を書いていく人だった。心許ない雰囲気なんだけど、ふらふらしている私より余程、意志が強い人に見えたんだ。彼女の魅力にたくさんの読者がついた。
だから、ちょうど「こどもの話」をテーマに書く時に、彼女の話が読めなかった。読んだら自分が影響されて、書けなくなるって感じたからだ。

彼女のその作品が書籍になるって聞いた時、ああ、そうだろうなって思った。光なんだ。光を持っている人。
正直に言うと、羨ましいなって思った。自分の道をきちんと成功させる力を持っている。でも、そこまで辿る道を軽々と歩いて行ったわけじゃないってこともわかっている。だから真っ先に私はその本を手に取りたいと思った。
なのに、私が思いのほか、道に迷ってふらふらして、読み終わるのに時間がかかってしまった。年明けから少しずつ少しずつ読んでたんだ。

作品名は『小暮さんちのおいしいカタチ 今日からパパが主夫になります』。カクヨムでは「空色エプロンたまご焼き」ってタイトルだったね。

まだ、未だにちゃんと伝えられてないんだ。まぶしすぎて。
その本は、まっすぐに透き通ってて、でも、ただ正しいとかじゃないんだよね。紆余曲折あって、何度も立ち直ろうとするところから一歩を踏み出すから優しい。そういうお話だったんだ。

東大出身ながら、やりたかった職業がねじ職人だった小暮祐輔。
その奥さんは、彼を取材した新聞記者、祥子さん。
小さな風花ちゃんがいるけれど、どうしてもやるべき仕事があって単身赴任をすることになったママの代わりに、専業主夫を引き受けたパパ。

まだ3歳の女の子風花ちゃんとパパが、二人で奮闘するお話。
家事とか育児とか大きな言葉ではくくれない、たくさんの日々のふれあい。人の心はそこに透けて見えるものじゃない。ましてや小さい子はそれを言葉というものに乗せることはまだ不得意だ。

私が特にすきだった回は、敵になりそうな気の強いママとの回。
そのまま敵対して終わってしまっても仕方ないのに、感情と人格を別に考えて、すっと平常心で対応できる小暮さん。そして相手の一言から、寧ろ繊細だからこんな言動をするのかもとまで考えられるやさしさ。

一難去ってまた一難。人の暮らしは風に揺れるから、昨日と同じじゃなくて。ひとつひとつをゆっくり解決していく。それが丁寧に描かれた物語。
表紙の絵のたまごやきや、ねこちゃんのティッシュボックスに癒されながら、少しずつ読んでほしい最上の物語です。

ぜひ、手にとって読んでみて下さい。


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。