ガリガリSisters

リレー小説note6『ガリガリシスターズ』


ども。
これは空音さんの企画したリレー小説『未来ノート』への参戦作品です。
企画目次、及びこれまでの作品はこちらに。

目次(空音さん)
https://note.mu/kmhm/n/n19e30e91eb2f

note 1「未来ノート」(執筆者:空音) #小説
https://note.mu/kmhm/n/n235ff3b52ae8

note 2「未来ノート」(執筆者:鞍馬亜蓮) #小説
https://note.mu/darumah/n/n4a095840f34f

note 3「人間ゲーム(仮)」(執筆者:Rhythm(ないしKj)) #小説
https://note.mu/rhythmcompass/n/nd9058d3ea2a8

note 4「サイトーくん。」(執筆者:谷川文屋) #小説
https://note.mu/tanikawa_bunya/n/nb15339bf2276

note5「とある宇宙の片隅で」(執筆者:プランニングにゃろ)#小説
https://note.mu/nyaro/n/nef29670cab45

また、今回の作品につきましては、以下のお二人の作品とのコラボでもあります。このお二人の作品がなければ、これは書けませんでした。

キャラクター原案:uzumeさん『ガリガリシスターズ』
 https://note.mu/uzuuzuuzume/n/nc316461a4354

イメージ音楽:pachi_tenpaさん『toy box』
 https://note.mu/pachi_tenpa/n/n9a3aaa0a7a94

あとはもう、多くは語りません(笑)
お楽しみいただければ幸いです(笑)


リレー小説 note No.6『ガリガリシスターズ』

学校帰り。
とりたてて何か用事があるわけでもない帰宅部の私は、駅前で友人たちと別れて一人、スマホ片手にてぽてぽと家に向かっていた。
ほんとなら歩きスマホは良くないんだろうけど、こう言う『スキマ時間』も使っていかないと、友人たちから送られてきたLINEの未読の山を消化できないんだもの。
だから私はいつものように公園を抜け、できるだけ車通りの少ない路地を歩きながら、スマホをくりくりといじってたんだ。

「――っていうか、みんないつこれ送ってんのよ」
私は半ば呆れながら三人目のメッセにありきたりな返事を送って、で四人目のメッセを開く。
四人目は香澄という同じクラスの友人で、いわゆる『スピーカー』ってタイプの女子。
この子のメッセもまた長いわ数が多いわで、ほんと授業中でも平気でスマホいじってんじゃないの?って思うくらいの量が毎日届いている。
「――でも、だいたいはどうでも良い話ばっかりなんだけどね」
私はため息を吐きながらつぶやきつつ、二通目のメッセを開き、そこに書かれていた『未来ノート』という単語にピタリ、と足を止めた。
「――これか、昼間騒いでたのって」
教室で香澄が別の友人とはしゃいでいた時に聴こえてきた『未来ノート』の話。
断片的にしか聴こえてこなかったそのノートの話が気になってはいたんだけど、そこで香澄に聞こうものなら全然関係ない話題まで盛り込まれて帰りが遅くなるのが予想できたから、聞くに聞けなかったのだ。
「どれどれ、どんな話なのかな、っと――」
私は傍の植え込みに座り込むと、香澄のメッセを、他の人のよりも丁寧に読みはじめた。

   ※

ねえねえ知ってる?
『未来ノート』ってのがあるらしくてさ、そのノートに書いたことが確実に叶うらしいんだって。
見た目は普通のノートで、太いマジックか何かで『未来ノート』って書かれてるらしいんだけど、見たことないかな?

   ※

「――いや、ないかな、って知らないし」
思わず口でツッコんで、イタい人だと思われるかと焦って周りを見回したけど、幸いなことに目につくところにはチュンチュン鳴くスズメくらいしかいなくて、心の底からほおっとため息を吐く。
「たくもう。これで私が知ってたらどうするつもりだったのさ」
私はひとりボヤきながら立ち上がると、『ないなぁ。ごめんね』って返信しつつ歩き始める。
「でも、もし在るなら欲しいなぁ、『未来ノート』」
何となくそれ以上スマホを見る気にもならなくて、私は歩きながらそのノートが手に入った時のことを妄想してみる。

例えば、頭が良くなりたい、とか。
――ダメだ、頭が良いのってなんか苦労しそう。

例えば、一億とか手に入る、とか。
――ダメだ、金に目が眩んだ人がたくさん近づいてきそう。

例えば、スタイルが良くなる、とか。
――ダメだ、顔に釣り合わなくなる。

「うーん、何だか難しいな……ん?」
いろいろ考えては否定しつつ十字路を右に折れた私は、そこに気になるものを見つけた。

もう長いこと放置され続けている粗大ごみの山。
その山の上に、ポツン、と、ノートらしき四角いものが乗っかっていた。

――大学ノートっぽいものが。

「――まさか、ね」
そんな偶然があってたまるか、と思いつつも、私はその四角いものに吸い寄せられるように近づいていく。
近づけば近づくほど、それがいかにも古ぼけた大学ノートっぽい感じに見えてきて、私の心臓がどっくんどっくん早くなる。
「――いやほんとそんな漫画みたいな展開あるはずがないってば」
くどいくらい自分に言い聞かせつつ、それでもどっくんどっくんが収まることのないままで、とうとうそのノートの前までやってきた私は、そこにマジックで書かれている文字を読んでみた。
「みらい――ノート、ってマジ?!」
うひゃあ、って感じで仰け反ってから、深呼吸ひとつして、んでそのノートを手に持ってみる。

どう見ても普通の大学ノートっぽい。
おまけに何だか――ボロい。
手アカとか泥汚れとかひどいし、ガワもボロッボロで。
まるで誰かのイタズラ――

――まさか。
私は思わずあたりを見回すが、どこを見ても人の気配はない。
少なくとも、ニマニマと笑いながらこちらを見る友人たちの姿はなさそうだった。

「――イタズラじゃない、か」
私は少しだけホッとしつつ、改めてノートをパラリ、と開いてみる。
外側のボロッボロ具合とは逆に、ノートの中身は新品かと思えるくらい真っ白だった。

「――何か書いてみようかな」
そうつぶやいた私の声が、どこかかすれているように感じて、私は人生で初めて生唾を飲み込む。

だって仕方ないじゃない。
ホンモノなら、なんでも願いが叶うんだもの。

「な、なに書こう、かな?」

やっぱり『スタイルが良くなりたい』かな。
それともアレか、『カッコイイ彼氏が欲しい』とか。
いっそのこと『佐野岳と恋人になりたい』とか――

「あ、ミッチーじゃん」
「ミッチーやっほ♪」
突然背後から声をかけられ、私は「きゃん!」って叫び声を上げながら20cmくらい飛び上がる。
「わ、『きゃん!』だって」
「ミッチーかわいぃい♪」
思わず腰を抜かした私が背後できゃあきゃあ楽しそうに笑う二人の声におそるおそる振り返ると、そこには――

ガリガリシスターズが立っていた。
満面の――っていうか、ニンマリッて感じの笑みを浮かべて。
それぞれの手にガリガリ君を持って。

   ※

ガリガリシスターズ。
豊かな黒髪にピンクのメガネが印象的な、『コーラ美』こと苅田香美先輩と、うっすらと茶色に染めたボブカットと大きな目が特徴の『ソーダ子』こと曽田雪絵先輩。
常にガリガリ君を食べていることからそう呼ばれ始めたこの二人は、卒業して一年が経とうとしてるのにもかかわらず、未だにわが校の『レジェンド』として語り伝えられている。

街を歩けばモデルへの誘いがひっきりなしにくるという抜群のルックス。
誰とでも2分以内に仲良くなれるというそのカリスマ性。
それだけでもう十分に伝説なのだが、それだけならそんな風に呼ばれることはまずない。

ガリガリシスターズの、ガリガリシスターズたるゆえん。
それは――

   ※

「で、なにやってるのミッチー?」
ニンマリからニッコリに笑顔を変えたコーラ――もとい、香美先輩が、少し屈んで私を覗きこんでくる。
「あ、その、ちょっとヒロイモノを」
思わず吸い込まれそうになる香美先輩の瞳にクラクラしながら応えると、「ヒロイモノ?」と嬉しそうに言いながら雪絵先輩も覗きこんでくる。
「どれどれどれ、――って、このノート?」
「うは、ボロいノートだねぇ♪」
わ。
二人の目にクラクラしてるうちに、私の手にあったはずの『未来ノート』が香美先輩の手に。
雪絵先輩も猫みたいに目をランランとさせながら覗きこんでいる。
「『未来ノート』?なにこれ」
そう言って空にかざした香美先輩の脇で、雪絵先輩がやっぱり楽しそうに、
「あ、知ってる!なんか学校で噂になってたアレでしょ?」
とはしゃいでいる。
「拾ったばっかりなんで、ホンモノかどうかはわからないんです」
私は慌ててそう言ってみる。
何かごまかすようなことを言っても良かったんだけど、大好きな先輩たちにウソをつくとかあり得ないし。
「あ、そうなの?へえ……」
私の言葉に、香美先輩がなるほど、って感じでつぶやくと、突然私の横にあぐらをかいて座り、ノートをパラパラと開き始める。
「あ、あのここ道路――」
「良いから。ペン貸して」
私のツッコミなどお構いなしに手を出した先輩に、私は慌てて鞄の中の3色ボールペンを渡す。
「お?何か書くの?ねえねえ」
楽しそうにノートを覗きこむ雪絵先輩に、でも香美先輩は平然とした様子でサラサラと何かを書き込んでいく――けど、私には何を書いたのかさっぱり見えない。
「あ、これホンモノじゃない?書いた文字が見えないもん」
雪絵先輩も見えてないらしい。
これはホントに――ホンモノ?
「ねえ、なんて書いたのコーミ」
ちょっと悔しそうな声で聞いた雪絵先輩の問いに、香美先輩は「お楽しみ、ってことで」とフフン、って笑う。
「良いじゃんケチ」
そんな香美先輩に、雪絵先輩は口を尖らせる。
そんな顔もまた可愛いんだから、世界ってほんと卑怯だと思う。
「まあ見てなさいって……ほら」
ほら、と言った香美先輩の小さなアゴが指した方を見ると、駅の方からスーツ姿の男性が息せき切って走ってくるのが見える。
「――誰?」
雪絵先輩がそうつぶやくのと、男性が目の前に立つのがほとんど同時だった。
その手にはなぜか、ガリガリ君が3つ。
「いやあ、探しましたよ。はいこれ、新作の『Dr Pepper味』。食べてみてください」
ど、ドクター……?
呆気にとられた私と雪絵先輩が香美先輩を見ると、香美先輩は女神のようなほほ笑みを浮かべながら手を差し出している。
私たちに1つずつガリガリ君を手渡してさっそうと立ち去った男性を見つめながら、その新作だかドクターペッパーだか言うガリガリ君の袋を開けてかじりついてみる。

――うげ。
なんだこれ。

「先輩、これ――」
たまらず香美先輩に声をかけると、先輩は、
「ああ、うん。発売なんてされてないよこれ」
と至福の表情で返してくる。
「今まで発売されたことのない味のガリガリ君を食べてみたいと思って」

そうなのだ。
この二人、ことガリガリ君に関しては、恐ろしいくらい肉食系女子になるのだ。

在学中もこの二人、学内で販売されてないはずのガリガリ君を何故かいつも食べていて、それを止めさせようとした先生方に二人が噛み付いて、結果あの伝説の『ガリガリ革命』へとつながっていったんだけど、長いしめんどくさいのでここでは語らない。

とにかく、この二人は、ガリガリ君のためなら何でもしかねない人たちなのだ。

「うーん、イマイチだねこれ」
雪絵先輩の不満気な声に、香美先輩がそう?と返す。
「ならソーちゃんも書いてみなよ。おもろいから」
そう言ってノートを渡された雪絵先輩は、満面の笑みを浮かべて地面に座り込み、ガリガリ君の歌を鼻歌で歌いながらサラサラと何かを書き込んでいく。
「あの――先輩?」
楽しそうな雪絵先輩を見ながら問いかけた私に、香美先輩が首を傾げて応える。
「えっと、ホンモノの『未来ノート』なら、もっとなんて言うか、違うこと書いても良いんじゃ」
私が思ったままのことを尋ねると、香美先輩はそんな私を見て、思いっきりドクターペッパー味のガリガリ君を噴き出した。
「じゃあなんて書くの?『お金持ちになりたい』とか?」
私は顔にひっついたドクターペッパーの残骸をハンカチで払い落としながら、こくりとうなずく。
「馬鹿じゃない?お金とか名声なんて自分の手で掴み取るのが良いんじゃない」
「でも――」
「はあい、書けた……ってもう来たよさっきの人」
言い返そうとした私は、雪絵先輩のはしゃぎ声にさっきと同じ方を見る。
――ホントだ、さっきの人がまた猛ダッシュで近づいてくる。
一体誰なんだろ、あの人。

「――ねえ、ミッチー」
謎の男性を見つめていた私の耳元で、香美先輩の甘い声がささやく。
「ひゃん。――な、なんです?」
「忘れちゃだめ」
唐突にそう言われて思わず振り返り、香美先輩のふっくらした唇が目の前にあってドキリ、とする。
「はあい、おまたせ!『プレミアムレモンミルクソーダ味』ですよぉ!」
「わあい♪こっちこっち!」
元気な男性と雪絵先輩の声が遠くに感じるほどクラクラしている私の目の前で、プルン、とした唇が優しく動く。
「ほんとに欲しいものはね、自分の力で手に入れるの。じゃないと手に入れても嬉しくないから」
そう言って私から少し離れてニッコリ笑う香美先輩に、私はただもう、この人たちにはかなわないな、としか思えなかった。

   ※

「じゃ、また!」
そう言ってさっそうと走り去る男性に手を振る雪絵先輩を横目に見ながら、私と香美先輩は男性が持ってきた『プレミアムレモンミルクソーダ味』にかじりついてみる。
さすがにそろそろ舌がヒリヒリしてきてたけど、思ってた以上に美味しくて、一気に半分ほど食べてしまった。
「あ、これおいし♪」
至福の表情で食べ続ける雪絵先輩をよそに、じゃあ今度は私ね、と香美先輩がノートを開く。
――って、アレ?

「あの、さっきと言ってることが違うような――」
私が思わず口にしてしまった問いに、香美先輩はノートに書き込みつつフフン、と笑って、こう答えたのだ。

「ガリガリ君は、別腹だから」

――ああもう。
だからこの人たちには、かなわない。
(了)

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