百物語タイトル

百物語『雨男』

#note百物語2017



――ああ、そっか。次は俺の番だったんだっけ。
ってか今ローソクって何本目だったっけ、けっこうみんな話してたから良く分からなくなってきた。まあいいけど。

――そういえば外、雨降ってきたみたいだな。
空気が湿ってたから降るかもなとは思ってたけど、いつ降り始めたんだかぜんぜん気づかなかった。


――そうだ。
雨っていえば、こんな話があるわ。
せっかくだし、怖くないかもしれんが、聞いてくれるか?



確か、4年くらい前――だったか。
お前ら覚えてないか、田崎ってやつのこと。

――ああ、そうだよな。覚えてないよな。
夏休み中に転校してきて気づいたらクラスにいたし、年末には気づいたらもういなかったからな。

いや、俺も別にやつと仲良かったわけじゃなくてな。
ほら、夏休みに補習あったじゃん。中間ダメな連中のための。アレに呼ばれてしぶしぶ出てた時にやつもそこにいてさ。んで、まあヒマだったし、補修の間だけ、世間話程度のやり取りはしてたんだわ。

――え?田崎ってどんなやつだったか、って?
うーん、目立たないし地味だし暗いし無口だしキョドるし……まあ、文化系の部室にこもってなんか良く分からないことやってる系だな。うん。

まあその田崎と、だ。
補習の最後の日に――まあ、お疲れさん的な感じでさ、雨が止むまで自販機でコーヒーでも飲むか、って話になってな。そこでやつにさ、なんでこんなハンパなタイミングで転校とかしてきたんだ、って聞いてみたわけだ。
んで、あいつ、なんて言ったと思う?

『雨から逃げてるんだ』

はあ?って思ったよさすがに。
雨なんて空から降ってくるもんで追いかけてくるもんじゃねえだろ、って。
だから思ったままぶっちゃけたらさ、あいつ――変な笑いしやがってさ。
ふざけんな、って思ってムナグラつかんでやったら、わかんないだろうな、とかぬかしながら、こんな話してきたんだわ――



僕、小さいころから雨に合うことが多かったんだ。遠足とか運動会とか修学旅行とかだけじゃなくて、例えば当日になって急に外で写生大会行くぞ、ってなったら、ついさっきまで晴れてたはずなのに雨が降り出したりするような、そんな感じでね。
小さいころからそんな感じだったから、いわゆる『雨男』なんだろうな、って簡単に思ってたし、めんどくさいことが片っ端から中止になるからラッキーだったし、まあいいか、って思ってたんだよね――

――中学に入るまではね。


中学校に入ってからも、相変わらず何かあるたびに雨だったんだけど、そんな調子だったから特に気にもしないし、周りも――僕がこんなだからさ――僕が雨男じゃないか、なんて詮索もしてこなかったから、入ってしばらくは変わらずすごしてた。
これからもこんな感じで、雨がオトモダチなんだろうな僕は――なんて冗談交じりに考えたりしてね。

――中学1年の梅雨入り直後のことだったっけ。
覚えてないかな、日本全国で梅雨がすごくて、各地で土砂崩れとかたくさんあった年。あの年だよ。

当時僕は中国地方のとある学校に通ってたんだけど、やっぱり毎日雨がすごくてね。学校に来るときは仕方ないにしても、家に帰るときにどしゃ降りだったりしたら、さすがの雨男の僕でも憂鬱になったりして、それでも家には帰らなきゃいけないから、仕方なく傘をさして校門を出よう――
――として、アレを見つけたんだ。


――なんて表現したらいいんだろう。

見た目はただの黒い『影』だったんだけど、普通なら『影』には『実態』があるはずなのにそれがなくて、でもそれがただの幻じゃないことはひと目見て分かったんだ。

デカかったね。
そいつ、校門の向こう側で、学校側から見たら校門から隠れるようにして立ってたんだけど、2m近くあるはずの校門がそいつを隠しきれないくらいデカかったんだ。

迷ったよ。
だって確かに僕はそれを見つけたけど、他の生徒は誰も気づいてなくて、普通にそいつの横を素通りしていくし。
そいつも他の生徒に何かするような様子もなかったから、目の前のことがリアルかそうじゃないかはともかく、このまま気のせい、ってことでごまかしてしまおうか、って。

んで、結局ごまかして通り過ぎようとしたんだ。
極力平静を取り繕って、息も殺して、他の人たちと歩調を合わせたりしてね。

で、校門を通り抜けて。
そいつの横を通り過ぎて。
ああ、やっぱり気のせいだったんだ、ってホッとした瞬間。

聴こえてきたんだ。
雨の音に混じって、ノイズがかった笑い声が。

――って。


その声で、僕は直感的に理解したんだ。
ああ、コイツが雨を降らせてるんだって。
そしてコイツは、僕が生まれてからずっと、僕を追いかけてるんだ、って。


それから僕はすぐにその中学校から逃げるように転校した。
親父の転勤先とか、じいちゃんちとか、親戚の家から通うとかして、中学校だけでも10校くらい変わりまくった。


でも、やっぱり追いかけてくるんだ。


雨が。

『あいつ』が。


どこまでも、どこまでも。



そこまで話してよ、田崎は目を校門の方に向けてさ。言ったんだよ。
『今日もあそこにいるんだけどさ、見える?』って。

さすがに俺もバカじゃねえから、そんな話をはいそうですか、って簡単に信じるわきゃないじゃん?

だけどなんかさ、田崎の様子がさ――何て言うんだろ、いろんなことを『あきらめ』てるような、そんな感じでさ。
だからつい、つられるみたいにして、校門の方を見たんだわ。


――ああ、そうだよ。
なにもいなかったよ。
不気味なくらい静かな校門だったよ。


それからは――まあ、なんていうか、不気味だったからさ、新学期が始まってもあいつとは話しどころか目を合わせる気にもならなくてな。だからあいつがいつクラスからいなくなったのかとか、さっぱり分かんないんだよな。


――ってかさ。
今日話して思ったんだけどさ。


あいつ、本当にクラスに居たのか?
もしかしてあいつこそ、正真正銘の『雨男』だったんじゃないか?

――まあ、今となっちゃどうでもいいことなんだけどさ。


――え?
今日の雨はちげーよ。
あいつがいなきゃ意味ねーんだし。


――それより、やっぱりローソクが気になるんだけどよ。

今話しながら数を数えてみたんだけどさ、消えてるローソクと、ここにいる人数――合わなくねえか?


始めてから増えてねえか、人数が?


気のせいか?

(了)

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