『10年前から来た手紙 ~10 Years Letter~』(解答編)
さて、作者です。
これを読まれている皆さんはすでに『問題編』を読了されていることと思いますが、もし未読でしたらそちらを先に読んでいただきますよう、よろしくお願い致します。
『10年前から来た手紙 ~10 Years Letter~』(問題編)
https://note.mu/muturonarasaki/n/n966acd11d60a
この『問題編』には、『解答編』に繋がる全ての材料が揃っています。
ミステリーが苦手な人のために、かなり分かりやすい伏線を大量に投入していますので、おおよその方はこの時点で『謎』についての『解答』が予想出来ていることと思いますが、そもそも何が『謎』なのかが解ってらっしゃらない方のために、『謎』を改めて提示しておきます。
彼女が語っていた『あの日』。
10年前のその日に、彼女の家で何が起こったのか。
そして、その出来事の結果、母親はどこに行ったのか。
さあ、解りましたでしょうか。
ここからがいよいよ『解答編』となります。
皆さんの予想が合っているかいないか。
お楽しみいただければ幸いです。
『10年前から来た手紙 ~10 Years Letter~』(解答編) (mixiコミュニティ『創作が好き!』実施企画『10 Years Letter ~10年後のあなたへ~』参加作品)
二週間後の、昼下がり。
私は、同じように喪服を着たままの清美と、縁側に腰掛けて庭を見ていた。
「……信じられないよ」
放心したようにつぶやく清美に、私も無言で頷く。
「お姉ちゃんも大変だったね、取り調べとか、葬式の段取りとか」
「ううん、それは別に」
そう返した私の声に、自嘲めいたものが混じっていて、思わず苦い笑みが漏れる。
「……気づいちゃったのは、私だから」
そう答えた私に、清美がはあ、とため息を返してくる。
「まったく、お父さんがこんな人だったなんて、思いもしなかった」
「清美……」
清美の憤慨するような、でもどこか悲しげでさみしげな声に、私はそっと頭を撫でるしかなかった。
池を埋め尽くしていたコンクリートから、魚の骨とともに見つかったのは、母の遺骨だった。
通報者として立ち会っていた私が骨を見ても驚かなかったことから、私は重要参考人として扱われ、そのまま警察に連れて行かれて取り調べを受けることになった。
最初は私を容疑者として考えていた刑事さんたちも、コンクリートの成分調査や母や錦鯉の骨の状態、母の友人だった由美子さんの証言、父が最期まで
家を売ることを拒んでいたことを当時の看護師さんが覚えていたなどの状況証拠から、父が10年前に母を殺した、もしくは不慮の事故で母が亡くなり、父が死
体を遺棄したという結論に達したらしく、取り調べを開始したその3日後には私も解放され、そしてつい3日ほど前には、『被疑者死亡』として事件も終結する
ことになったのだ。
「……でも、どうしてかな」
私に頭を撫でられながら、清美がぽつりとつぶやく。
「ん?なにが?」
「お母さん、肺にコンクリートが入ってたのに、暴れた様子が無かった……って言ってたからさ、なんで抵抗しなかったのかな、って」
そう。
警察の説明によると、母の直接の死因は後頭部のに受けた打撃による脳挫傷だったが、即死には到らず、どうやらコンクリート詰めにされてるときもまだ生きていたらしい。
速乾性ではない普通の生コンが固まるまでには、通常ならば一昼夜は必要で、少なくとも母が生きている間は、はい上がることはできなくとも、足掻くことはできたはずだ。
しかし、母は動かなかった。
胸のところで組まれた両手に力を入れていた形跡があったことから、むしろ母は意図的に動かないようにしていたらしい。
まるで、全てを受け入れるかのように。
「……きっとね、」
私はそして、庭にぽっかりと開いた穴を見つめる。
もうこれで、この家は売りたくても買い手が付くことはないだろうな――と思いながら。
「きっと、受け入れたんだよ。お母さんは」
「受け入れた、って?何を?」
重ねて尋ねてくる清美の頭をポンポン、と軽く叩く。
「自分の運命を。自分の罪を。そして――」
あの日、部活の合宿で居なかった清美。
居なくて正解だったと、今でも本気でそう思う。
清美の想い出の中くらいは、父と母が昔の父と母のままでいて欲しいから。
「――父の想い全てを、かな」
私はそう答えると、良く晴れた空を見上げる。
空にはいくつかの雲が、風に流されてふわり、ふわりと浮かんでいた。
まるで、池を泳ぐ鯉のように。
(了)
さて、と。
皆さんお分かりになりましたでしょうか。
10年前、浮気相手と別れることを決意した母親を父親が殺害し、池の鯉ごとコンクリート詰めにして隠した、が正解でした。
……といってもなんせ初めてのミステリだったので、フェアにできたかは心配ですが(^_^;)
ともあれ、楽しんでもらえたなら幸いです。
では!
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