私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション39『壁(かべ)』


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セレクション39『壁(かべ)』


                                                                                                                                                                                                            

私が飲み会で調子にのって終電ぎりぎりまで遊び回って慌ててホームに飛び込んだのが0時5分過ぎ。
酔ってぼんやりとなった視界の先を地下鉄が走り去っていくのを感じ、鈍くなった思考回路で帰宅手段を捻り出していた時、ホームの片隅で壁に向かってぶつぶつと呟いている人を見かけた。
(ああ、あれが『壁訴訟』ってやつだな)
と薄ぼんやりした頭で考えつつ、階段に向かうためにふらふらとその人の横を通り過ぎた時、微かな声が聴こえてきた。

『……どうして……』

声ではなかった。

『……私だけ……』

次第に大きくなる。

『……死ななきゃいけな』

ぴたり、と止んだ。
気が付けば、私は立ち止まっている。



正面の壁を見つめたまま、絶対に横は向かない。

視線を感じるが、私は絶対に横を見ない。


(7月某日 0:12 都内地下鉄構内にて)


(340文字)



『壁(かーべ)』
 1 建物の外周の部分。また、部屋などを仕切るもの。木舞(こまい)を芯に練った土を塗ったり、板を張ったり、石・煉瓦(れんが)を積んだりして作る。
 2 前進を阻むもの。進展の妨げとなるもの。障害。「記録の―を破る」「開発が―にぶつかる」
 3 登山用語で、直立する岩壁。
 4 《壁を「塗る」に「寝(ぬ)る」を掛けて》夢のこと。
「まどろまぬ―にも人を見つるかな正(まさ)しからなむ春の夜の夢」〈後撰・恋一〉
 5 《白壁に似ているところから》豆腐をいう女房詞。おかべ。

(大辞林より引用)

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