とあるファミレスにて。
たまには他の人のイベントに乗っからないと、ということで。
公式さんのハッシュタグイベントに参加してみました。
3月のお題は『 #花粉症 』とのこと。
ならば、こういうお話でどうでしょうか――
※
「あ、タケシ。こんなトコにいたんだ」
深夜のファミレス。
空席のほうが目立つその店内をスキップするように近づいてきたその女性に、タケシと呼ばれた若者が顔だけ上げて訝しげな表情を見せる。
「――誰だ、おめえ」
ポツリとつぶやくように言ったタケシに、女性はやあだもう、とおどけてみせる。マスクを付けた口元が微かに動くのを見ると、どうやら笑っているらしい。
「冗談やめてよ、アタシよアタシ。花粉症だからマスクとメガネつけてるけど、アタシだってば」
「――だから、誰だおめえは」
呆れたような口調ですかさず切り返すタケシに構わず、女性はぴょこん、と目の前の席に座り、テーブルの端に置かれていた呼び出し用のベルのボタンをポン、と押した。
「こんな遅くにわざわざファミレスでスマホで時間潰しって、どんだけ暇なのよ」
「うるせえ。俺の勝手だろ」
片手に持ったスマホをいじりながら吐き捨てるように言うタケシに、女性はわざとらしいくらいに大きなため息を返す。
「ああ、またそう言う。いつだってそうじゃない、『俺の勝手だろ』って」
「だからよ――」
タケシはたまらず顔を上げ声を張り上げようとしたが、絶妙なタイミングでやって来た店員の『いらっしゃいませ~』と言う妙に間延びした声に出鼻をくじかれ、再びスマホをいじり始める。
「じゃあ、ロイヤルミルクティーひとつ」
女性はどこか楽しげにそう注文すると、立ち去る店員に構わず話し始める。
「ホント大変だったんだからね、タケシ急に居なくなるから。あちこち探しちゃったじゃない」
「――いやだからあんた誰だよ」
「ホント失礼ね。ずっと傍に居る人に向かって」
言葉とは裏腹に楽しそうなその女性を、しかしタケシは一瞥すること無くスマホをいじり続ける。
「ホントよくやるよね。パズドラなんてもう古いじゃない」
「うるせえな、今いいところなんだから邪魔すんな。ってかなんでパスドラだってわかんだよ」
「そりゃわかるわよ。ずっと見てたもん」
自慢気にそう言う女性にタケシの指が一瞬止まるが、しかしまた何事もなかったように動き始める。
そんなタケシの指の動きを、女性は両手で頬杖をつきながら見つめる。
「――なんだよ」
「ううん、見てるだけ」
そう言って分厚いメガネの裏で目を細める女性に、タケシはふうん、と気のない声を出しながら画面をなぞっている。
「ホント、昔から変わんないよね。憶えてる?高校1年の夏に行った花火大会でさ、みんな花火を見上げてきゃあきゃあ言ってるのに、タケシだけ携帯いじっててさ。何しに来たんだろ、って思ったわよ」
タケシはその話に一瞬指を止めたが、すぐに思い出したのか、そういやそうだっけ、と気のない返事。
「そうだっけ、じゃないわよ。3年の卒業式の時だってみんなしんみりしてるのに、タケシだけスマホいじっててさ」
「卒業式?――ああ、うん」
「大学入ってすぐの歓迎コンパであんな可愛い子が話しかけてきたのに、それでもスマホ見てたし」
矢継ぎ早に話し続ける女性に、タケシはしかし気にすることもなくスマホをいじっている。
「せっかくバイト先でいい感じの子が居たのに、休憩時間になってもパズドラでしょ?ホントしみじみ廃人――」
「――あのさあ」
唐突に。
本当に唐突に、タケシがすい、と顔を上げ、そして――
――そして、その見開いた目で女性を見て、ひときわ低い声で言った。
「ほんと誰だよ、おめえはよ」
タケシのその問いに、女性はにい、と笑った。
大きなマスクで隠し切れないほどの口で。
(了)
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