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【創作バカの】18年前の短編を晒します。【ルーツの一つ】

まえがき:
ふと懐かしくなって開いた過去のネタ帳に、はるか昔自分のホームページにアップしていたシリーズ物の短編の第一話の手書き原稿が残っていたので、せっかくなのでテキストノートに起こしてみることにしました。
確かこの作品を書いたのは今から18年前。
カクテルとかバーとか行きまくっていた頃だったり、まだ人様に見せようという気持ちが出始めた頃だったりで、文章になってないとことかいっぱいあるくせに一生懸命カッコつけようとかしてて……ほんと18年経っても今とぜんぜん変わってなくて、すげえ恥ずかしいですわ_| ̄|○

というわけで、私の黒歴史の一つです。
苦笑いとともにお楽しみいただければ幸いかと思います(;´∀`)


『カクテル・ストーリー』
第1夜『ブラッディ・マリー』【1997年制作 ホームページ”@sia”にて公開】


礼服だと思われる黒のダブルを着た男。
男はそのバーに入ると、音も立てずにカウンターに立つ。
カウンターで静かにグラスを拭いていたバーテンダーが、彼の前にすっ、と立った。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「……ブラッディ・マリー」

男の注文に少し不満気な顔を見せつつも、慣れた手つきで棚からウォッカを取り出す。
メジャーカップにウォッカを注ぎ、流れるような動作でウォッカを棚に戻す。
45mlのカップぎりぎりで波打っているウォッカにバーのスポットライトが当たり、一瞬きらり、と光る。
男はそのウォッカの光を、じっと見詰めていた。

セロリのスティックをいつの間にかカウンターの上に乗せていたタンブラーに差し込み、カップのウォッカをタンブラーに注ぎながら開いている左手で冷蔵庫からトマトジュースの瓶を取り出す。
瓶を何気ない動作でくるりと回し、タンブラーに八分目のところまで注ぎこむと、瓶を戻した流れで冷蔵庫からレモンを取り出し、タンブラーの縁にすっと刺した。
『ブラッディ・マリー』の完成である。

バーテンはタンブラーのブラッディ・マリーを、いつの間にか用意していた塩と胡椒の入った小皿とセットにして、男の前にそっと差し出す。
黙ってそれを見ていた男は、目の前に来たタンブラーのレモンを摘み取り、タンブラーの上で握りつぶすように絞り込んだ。
レモンの汁が堰を切ったようにグラスに流れ込んでいき、その真紅の液体の中で、行き場を失ったかのように漂っていた。

「……そう言えば、今日でしたね。お通夜」

普段と変わらない調子で、バーテンは男に尋ねる。
男が一瞬見せた笑みは、自嘲であっただろうか。

「……馬鹿な女だったよ、あいつは」

その口調には、どこか諦めたような、気の抜けた感じが見えた。
男はつと顔を上げ、タンブラーの中で漂っているレモンの汁を見つめる。

「……あいつは、このレモン汁といっしょだ。
 周囲に溶け込んでしまえば特に目立つこともなく、それでいて自分の魅力だけは周囲に分からせることができる……そういう奴だったんだよ。
 ……溶け込めれば、の話だったがね」

昨夜、彼女はラブホテルの一室で殺されているのが見つかった。
犯人はまだ、特定されてないらしい。

「……当然だろうな。あいつと寝た男なんて、この街には星の数ほど居るだろうしな」

バーテンは悲しげな目を、男に向けている。
その視線に気づかないのか、あえて気づいていても無視しているのか。
男はじっと、タンブラーの赤い液体を眺め続けている。

「……これから、どうされるんですか?」

バーテンはコリンズグラスを丁寧に拭きながら、男に問いかける。
男はもうすっかりぬるくなってしまったブラッディ・マリーを一気に飲み干すと、カウンターに千円札を置いて、そしてバーテンを見つめて、ゆっくりと口を開いた。

「……ブラッディ・マリーの供養をするつもりだ。あいつの臣下は、俺しかいないからな」

その答えに、バーテンは静かに微笑んで頷いた。

(了)

【ブラッディ・マリー】
ウォッカベースのカクテル。ベースとなるトマトジュースの血のような紅色から、16世紀半ばのイングランドの女王メアリー1世がプロテスタント迫害により『血塗られたメアリー』と呼ばれていたことにちなんで名付けられた、という説がある。




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