ChristmasStory表紙

『仮面ライダー変身ベルト。前編』

 


「ジングルベ~ル、ジ~ングルベ~ル……」
ふと後部席から細々とした歌声が聴こえてきて、私は周囲の車の動きに気を張りながら、さりげなくバックミラーを覗き込む。
――とは言っても、やはり後部席には、10分前に乗せたしかめっつらのスーツ姿の男性一人しかおらず、しんみりとした調子の歌声はやはり、その男性から聴こえてきていた。
「――ジングルベルですか」
仁王のような顔の男性が口ずさむには違和感が有りすぎるその歌に、クリスマスですもんね、と私が何気ない調子で声をかけるが、返ってきたのはぞんざいなああ、という返事のみ。
私がその返事に幾分ムッとしていると、そんな私の事などお構い無しに、後部席から何やらごそごそという音と、携帯電話を操作する音がしてくる。
(なんだよおい、話をしたいんじゃないのか)
せっかくのクリスマスだ、少し世間話でも――などと期待していた私は、否定されたストレスからか、唐突に沸き上がったタバコへの欲求をごまかすかのように、運転に専念することにした。

しかし、クリスマスの仕事はやはり切ない。
年末年始でも特にこの日は書き入れ時ではあるのだが、ラジオから流れてくるクリスマスソングを聴いてしまうと、やはり家族のことが思い出されてしまい、切なくなってしまう。
(やっぱり、タクシーの運転手なんざ、喜んでやるもんじゃないよなあ)
私がそう自嘲していると、どうやら電話が通じたのか、後部席からぼそぼそと声が聴こえてきた。
「……ああ、もう少しで帰る。……ん?大丈夫だ、買ってある」
男性の声に、私はクリスマスプレゼントのことを思い出す。
(いかん、仮面ライダーベルト、取りに行かなくては)
仮面ライダーベルトといっても、もちろんただのおもちゃだ。
2ヶ月も前に慌てて予約を入れたそれを、さてどのタイミングで取りに行こうか――などとつらつらと考えていた、その時。

「……なに?」

不意に後部席から、これまでよりも大きく、疑念の篭った声が聴こえてきた。
「……しかし確かプレゼントはゲーム……ああ、親父が」
疑念から落胆したそれへと変わる男性の声に、どうやらクリスマスプレゼントがカブったらしい、と私は何となく理解する。
「あ?……ああ、解った。何とかする」
後部席からじゃあ、という声の後、携帯を閉じる音が聴こえてくる。
私は内心舌を出しつつ、多分目的地が変わるだろう、と男性の次の言葉を待つ。
(おもちゃ屋なら、ついでだ、あの店に行こうか)
私が車を走らせながら頭の中で予約を入れたおもちゃ屋へのルートを描き出していると、やはり案の定、後部席から、
「寄り道したいんだが、近くにおもちゃ屋はないか?」
という声が聴こえてきた。
「はい、近くに一件ありますよ。行きますか?」
なるたけ冷静な声で私が問うと、後部席から「ああ、頼む」と少し安心した声が聴こえてきた。

(12月24日 PM9時36分。新潟県某所)

#Xmas2014

#noteクリスマスさらしてみた2016

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