イエスマンのT介さんの退社

営業部長のT介さんはマジでイエスマンだ。ミーティングでもなんでも社長のいうことに絶対逆らわない。末端社員の俺たちが「どう考えてもムリだろ……」と思うような営業ノルマが降ってきても、トカゲのような冷たい顔つきを変えずに淡々とメンバーに指示を出して、それでも足りない分は自らがこなす。

T介さんは月末最終週になるとメンバーの未達分をカバーすべく、始業前から突然新規営業のテレアポをし始める。受話器を持って話しているT介さんの三白眼と目が合うと、さすがに部長に新規のテレアポさせちゃマズイよな、という冷えた熱意が伝染して営業部のメンバーも電話をし始める。

そんなもんでT介さんの率いる営業部は、恐ろしいことに月末になると帳尻を確実に合わせてきて、月初時点では無理だろ、と思っていた数字が月末最終週にはおや、もしかして、となって必ず最終日に達成する。T介さんはまさに数字の魔術師だった。

そんな魔術師が来月末で退社する。ついにあのイエスマンも愛想を尽かしたのか。本人に理由を聞いてみると、社長のいってることがムチャクチャだという。今さらかよ。

「T介さん、逆によく今まで我慢してましたね」

「いやあ、おれ結構言ってたんだよね。社長とは定期的に2人で話すようにしてたし、たまに飯食いもしてた。でもこのごろ年のせいなのか、まったく聞く耳持たずって感じなんだよ」

なんと忠実なるイエスマンだと思っていたT介さんはウラで社長とつながっていたらしい。つまりあのどうしようもない営業ノルマもT介さんの意見が内包された状態のノルマだったということか。

「ミーティングってのはもう決まったことを披露する場だから。あそこで反論したら社長を怒らすだけだよ。裏でささやくように言わないと」

平気で怖いことを言う元イエスマン。セイレーンのささやきから目覚めた船長はいったいどこを目指すのだろうか。

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渡辺みっちぇる

パンドラの箱をあけたら子供のおもちゃが入っていました。編集・執筆しながら政界の末端部分で生きています。綺麗な表現/男の生き様と葛藤/政局・選挙/昭和1ケタのどんづまった雰囲気/
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