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一カ月間今までに買ったサイケアルバムを振り返る⑭ The Madcap Laughs/Syd Barrett

今回は前回取り上げたピンクフロイドの元メンバー、シドバレットが3年後の70年にこのアルバムを発表してソロデビューをする。

かつてのピンクフロイドの1stではオルガンやパン振りを活用した過剰なまで煌びやかで幻想的なサウンドを展開していたが、今作ではかなりシンプルなアレンジの曲が多く、特に弾き語りの曲が多いとてもパーソナルなアルバムになっている。ソロになるとアレンジがシンプルになるのは、有名どころだとジョンレノンのソロの一作目となる「ジョンの魂」を連想させるが、実際は今作の方が発表が早い。

バンド時代での混沌としたサイケポップのサウンドとはかなり路線が変わった作品だが、シドのダークな側面がシンプルな演奏によって更に際立っているイメージがある。

曲ごとの感想

01.Terrapin
スローテンポな曲でタイトル通り亀のような曲。シドの弾き語りとエレキギターのみの簡素な演奏で、気怠げなボーカルがやや不気味。かなり独特なコード進行をしていて不思議な印象を持つ曲。

02.No Good Trying
前曲から変わってバンドサウンドに。この曲と次曲はソフトマシーンのメンバーが演奏に参加しており、他の作品と比べると少し雰囲気が違う。
下降していくようなメロディが独特で、やはりどこか気怠げな雰囲気が漂う。ファズのかかったギターがガレージらしさも感じる。

03.Love You
こちらもソフトマシーンのメンバーによる演奏が入っている。シャッフル風のテンポで明るめな感じがするが、どこか怖さもある印象の曲。
歌詞のリズム感も良く、耳に残るが変拍子を多用しており、上手くノレない気持ち悪さもある曲。ピアノが軽快な響きで好きな曲。

04.No Man's Land
かなり歪んだノイジーなギターが印象的なガレージサウンドな曲。ギターが目立つが、ベースラインが今作では珍しくよく動いており、それもかっこいい。アウトロでぶつぶつと呟くような語りが入るのが気味が悪い…。

05.Dark Globe
不穏なタイトルだが、弾き語りのとてもシンプルな曲。張り上げるような歌い方が他の曲ではあまりないので珍しい。

06.Here I Go
地声に近い低いメロディで歌われる。アレンジもあっさりなのでA面の中だとやや印象が薄い…。

07.Octopus
ここからはB面で、B面ではA面と比べるとアコギ主体の曲が増えてくる。今作の中で明るい曲で、唯一シングルカットされた曲でもある。ギターソロの感じだったり、随所で良い意味で気の抜けた演奏を楽しめる。サイケポップ感があって好きな曲。

08.Golden Hair
弾き語りとキーボードによるシンプルな演奏で、キーボードの音が神秘的かつ怪しげな印象を与える。演奏時間も短く、あっさりと終わる。

09.Long Gone
こちらも弾き語りとキーボードのみの曲。印象的なアコギのリフやメロディが低めなのでこちらはよりダークな雰囲気を持っている。

10.She Took A Long Cold Look
前曲よりも更にシンプルになり、弾き語りのみの曲となる。演奏も短いのであっけなく終わってしまう。楽譜のページをめくる音などが聞こえてきたりと、ラフさと生々しさを感じる。

11.Feel
引き続き弾き語りの曲。自由気ままにアコギをかき鳴らす演奏はのどかな風景を感じさせるが、この曲も中々独特なコード進行をしている。曲の終わりには次曲「If It's In You」を歌おうとして声が裏返るテイクが入っており、とてもラフな作風。

12.If It's In You
こちらも弾き語り。B面はA面以上にシンプルな演奏が続き、この曲ではいよいよ演奏時間は2分を切る。比較的高くて明るいメロディだが、どこか空元気感も感じるのは考えすぎだろうか…,

13.Late Night
本作の中では最も早く録音がされていた曲で、最初の録音は68年とバンド在籍時に近い辺りに録っていた曲。そういうこともあってかどこかピンクフロイド時代の曲に雰囲気が似ている印象を持つ。もう少しテンションの高い演奏だったら1stに入っていても違和感がない気がする。スライドギターが印象的で、とても気怠い雰囲気がある。メロディははっきりとしない感じで、曲自体もラストの曲にしてはかなり呆気なく終わってしまうので、中々つかみどころがない。

今回聴いて改めて良いと思った曲

04.No Man's Land

今作の中ではかなり激し目なサウンドでわかりやすくサイケな曲。シドのボーカルの淡々とした感じも演奏とのギャップがあって好きだ。

まとめ

前回ではピンクフロイドの1stを聴いていた事もあり、続けてこちらを聴くとそのサウンドの変わりようには改めて驚かされた。もちろん、ソロ作品がバンド時代からあまり変わってなかったとしたら、それはソロの意味もないが…。過剰な装飾を取っ払った分、限りなくシンプルな演奏シドが持つ世界観のダークで毒気がある部分が生々しくストレートに伝わってくるように感じた。
今作の演奏参加者にはソフトマシーンの他にも、ピンクフロイドからロジャーウォーターズとデヴィッドギルモアもそれぞれの楽器で参加している。その淡々とした演奏は、メインのシドよりも大きく目立たないようにそれでいて確実に曲に寄り添い補うようなアレンジに徹している。

バンドの頃とサウンドが大きく変われど、「Terrapin」や「Long Gone」などでの独特なメロディラインの耳の残りやすさは顕在であり、あっさりなのに不思議と中毒性もある。

アシッドフォーク、サイケフォークとも評される今作だが案外曲調自体は明るく、シドバレットという人物からくる先入観を取っ払って聞いたとしたら普通にあっさりとしたフォークの作品として聴けるような雰囲気すらある。表面上は穏やかに聞こえて分からないというのが、一番怖い狂気さなのかもしれない。バンドの頃とは違った奥底から滲み出る狂気のムードがたまらない名盤だ。
しかし、同時に今作の明るいながらどこかおかしくて、退廃的とすら感じさせる雰囲気はある意味ピンクフロイドの「夜明けの口笛吹き」にも通じるものがある。

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