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一カ月間今までに買ったサイケアルバムを振り返る⑬ The Piper At The Gates Of Dawn/Pink Floyd


今回は67年に発売されたピンクフロイドの記念すべきデビューアルバム「The Piper At The Gates Of Dawn」。
プログレの代名詞的なバンドの一作目はサイケから始まっていた。

初期のピンクフロイドは以降のプログレ期とはメンバーが違っており、初期はギターとボーカルのシドバレットがメインで作曲を行っていた。彼の歌詞の世界観は神話や伝承を引用したりといったおとぎ話のような独特な歌詞で、また長尺のインスト曲を早い段階でやっていたという事もあり、この時点で他のバンドとはかなり作風が違った非凡なバンドだった。しかし、シドはかなりの薬物のジャンキーであり、活動中もドラッグの影響か、かなり奇行が目立っていたらしく早くも翌年68年にバンドを降ろされてしまう。

そういった経緯で初期のみピンクフロイド全体のキャリアの中で異質な時期となった訳だが、シドが生み出したキラキラとしてドリーミーな狂気の世界観を持った今作は、サイケ好きなら誰も名前を挙げる名盤となっている。かく言う私も今作の世界観やアレンジがとても好きで、サイケの一つの理想像とまで考えている。シドの難解な世界観を完全には理解できないかもしれないが、この巨大なサイケの名盤に改めて面と向かい合うことにした。

曲ごとの感想

01.Astronomy Domine
何やらスケールの大きさを感じる一曲目。歌詞も神話をモチーフとした壮大さを持っており、重々しい雰囲気からアルバムはスタートする。ギターのアレンジも良く、ギタリストとしてのシドのアレンジ力が光る曲でもある。

02.Lucifer Sam
毒々しいギターリフが特徴的な曲。焦燥感溢れる雰囲気がとてもいい。とても好きな曲、

03.Matilda Mother
コーラスワークが特徴的で、オルガンの音も相まって独特な浮遊感を持つ曲。特に完走でのソロは、東洋的なぐにゃぐにゃしたフレーズが良い。
三拍子になるアウトロの演奏がコーラスとオルガンのみになる所は正に昇天しまったかのような気にもなる。

04.Flaming
こちらもオルガンがメインのような曲で、こちらは更に神聖な印象を持つ。前曲と続けて、聴いている側も宙に浮いたような気分になる。鳩時計の音やベルの音など、突拍子のないSEもユニーク。間奏の「カタカタカタ...」となる謎の音も不気味で良い。

05.Pow R Tou H.
奇妙な掛け声が印象的なイントロから始まる。タムをメインとしたドラムのビートなど、原始的な雰囲気が漂うインスト。作曲のクレジットがメンバー全員となっている為、セッションでできた曲なのだろうか。

06.Take Up Thy Stephoscope & Walk
以降のアルバムではメインの作曲者となるロジャーウォーターズだが、今作では作曲はこの曲のみ。
この曲は間奏の各パートの演奏がすごい。めちゃくちゃに弾き倒すフリーキーなギターと負けず劣らず暴れるキーボードと、とても迫力のあるソロバトルを楽しめる。後半のメロディの上がり方にとてもサイケを感じる。

07.Intersteller Overdrive
五曲目よりも更に長尺なインスト曲で、後のプログレ路線への変化の予兆を見られる曲。ギターのフレーズが特徴的な、四人のパートそれぞれが主役かのように演奏する前半はとてもスリリング。曲が進むにつれてシドのギターの暴れっぷりもすごい。
やがて静かになり、キーボードがメインになる中間部。ピコピコとした音色の気味の悪さはもちろん、徐々に他の楽器も入ってきだす辺りはもはや悪夢の中にいるような不穏な雰囲気が漂う。この時のギターの音はもはやどう弾いているかわからないレベルの音をしており、表現の広さを感じさせる。

ドラムロールと共に始まるラストスパートは前半と同じフレーズに戻るのだが、演奏が何度もステレオの端を行ったり来たりするミックスになる。この部分がイヤホンだととんでもなく聞こえ方が気持ち悪く、頭の周りを虫が飛び回っているかのような気持ちの悪さだ。とはいえ、前半に出たフレーズが後半にもう一度出てくるという展開は、プログレ的でとても面白い。初期の代表作にして、バンドの狂気に満ちた演奏をじっくりと楽しめる怪曲だ。

08.The Gnome
前曲のアウトロが終わった途端間もなく始まる。ゆったりした演奏とシドの優しいボーカルが民謡ぽさを感じる曲。途中から入る鉄琴が更にファンシーさを加える。
ちなみにノームとは西洋に伝わる小人の姿をした妖精のこと。歌詞の内容も民謡らしさがある。

09.Chapter 24
のどかな雰囲気が漂うスローテンポな曲。こちらもメロディが良い。リバーブの深い音が、まるで夢の中にいるようだ。今作のB面はこのような平和な曲が多い印象だ。

10.The Scarecrow
先行シングルの「See Emily Play」のB面として先に世に出ていた曲。小気味良いカラカラとした音のパーカッションの音が印象的で、後半から挿入されるアコギがとても幻想的。

11.Bike
ラストの曲。
サーカスのようなキラキラとした明るい演奏だが、どこかアシッドな危ない雰囲気も漂っていてとても不気味。左右で聴こえるボーカルが微妙にずれているのも気付くと違和感がすごく、聴く人をとにかく不安な気分にさせる。
サウンドコラージュもかなり多用しており、特に分かりやすいアウトロはもはや悪夢そのもの。笑い声に包まれて終わる曲がこんなに気味が悪いことがあるだろうか。

歌詞もかなりナンセンスで難解であり、シドのぶっ飛んだ世界観でしか生み出せない強烈な存在感を放つ曲である。

今回聴いて改めて良いと思った曲

08.The Gnome

不気味なほどキラキラとした今作の中では、この曲以降「The Scarecrow」までしばらく続く平和で素朴な雰囲気がとても落ち着く。特に曲順で聴くと「Interstellar Overdrive」からのこの曲の安心感ときたらとてつもない。民謡のようなほんわかとした世界観が病みつきになる。

まとめ

今作は聴いていてずっと地に足がつかないような浮遊感があり、夢の中を彷徨っているかのような不安がまとわりつく。アレンジによる過度なキラキラ感やポップさが、今作の狂気度を引き上げている。ステレオのパン振りもかなり極端で、「Interstellar Overdrive」での頭を回るような揺さぶるパン振りや「Pow R Tou H.」でのあちこちから聞こえる奇声などはその不自然さも含めてサイケの濃度を濃くしている。「Bike」の悪夢のようなアレンジに関してはもはや恐怖すら感じる完成度だ。

また、今作におけるリチャードライトによるオルガンの演奏の貢献度の高さもすごい。このオルガンのアレンジがシドの書く今作の曲との世界観に見事にマッチしており、幻想的で浮遊感のあるサウンドを作り出している。インスト曲などで見られるプレイもとにかく素晴らしい。シドのギターも「Lucifer Sam」「Interstellar Overdrive」などでの印象的なリフなど、技術もあるがアレンジ力に凄さを感じた。「Astronomy Domine」でのギターもとても良い。

こんな良い意味で危険極まりない作品が67年の時点で完成されていたというのが本当に凄い。サイケというジャンルの一つの到達点に立った大傑作だ。

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