入学式の日

 今日は私にとって特別な日。
 なぜなら今日は中学校の入学式があるからだ。
 すなわち今日は、私にとっての中学校生活初めての日だということ。
 ところが、今日の朝、思わぬアクシデントが起こった。

「いい加減起きなさい、もう時間ないよ」

 親は何度も私を起こそうとしていた。

「えー、もう少しだけ……」

 私はそういって眠り続けようとしたが、近くにあった時計を見てようやく気づいた。
 式が始まるまで、あとごくわずかの時間しかないことに。

 早起きが大の苦手だということもあったのだろうが、昨日の夜は、いつもより早寝をしたつもりだった。しかしその時は興奮していて落ち着かなかったのか、なかなか寝つけなかった。
 そして今日の朝、私は大寝坊をしてしまったのだ。
 このままでは遅刻してしまう。恥をかいてしまう。せっかくの入学式が台無しになってしまう。
 私は慌てながら制服に着替え、持ち物の準備もした。それが終わると、朝ご飯を少しも食べる暇もなかったので、家を飛び出した。

 急いで学校へ向かう途中、またアクシデントが起きた。見知らぬ男の子とぶつかってしまう。

「ごめんなさい、怪我はない?」
「大丈夫だよ」

 その男の子はよく見ると、私と同い年ぐらいであり、そして私がこれから通う中学校の制服を着ていた。
 その後も急いで通学路を渡っていくと、校門が見えてきた。
 校門をくぐり、校舎に入り、自分の教室に到着した。無事、時間に間に合った。
 そこには先程ぶつかった男の子もいた。その男の子と私は、席がとなりだった。

 その後入学式が始まった。
 体育館に並べられた椅子に座りながら、新入生たちは長い話をしばらく黙々と聞いていた。
 そんな中、きつい姿勢と長すぎる話の二重苦で、私は眠くなりかけていた。
 そして長かった話が終わり、喜んだのもつかの間。
 今度は校歌を新入生全員で歌うことになった。

 校歌はまだ全然聞いたことないのに、そもそも知らないのに。
 いきなり入学式で歌うの?
 それに、私は自分でも自覚するくらいの大音痴だし、初めて会う人ばかりいる場所で、校歌を歌うのは恥ずかしいな、緊張するな。
 でもこうなったら仕方ない。やるだけやろう。やるしかないのだから。

 曲の演奏が始まると、私は緊張しながらも、大きな声で一生懸命に歌った。
 歌詞はうろ覚えなので、思い出せないところもあったが、何とか必死にみんなに合わせた。
 ようやく歌が終わり、緊張がとけたとき、かすかながらに笑い声が聞こえてきた。
 しかも笑っているのは一人だけでなく複数の人たちだった。その中にはあの男の子もいた。

 私は恥ずかしい気持ちになった。
 入学式が終わって学校から家へ帰る今も、そんな気持ちだ。
 家の玄関に着いてから、鍵がない事に気づいた。
 確かに鍵は絶対持っていったはずだ。その時、偶然にも、あの男の子が私の前を通りかかる。
 私は鍵探しを彼にお願いしたが、何分経っても鍵は見つからない。

「あれだけ探して見つからないってことは、実は、ポケットに入っているんじゃないの」

 いら立った彼のその一言で、ようやく私は制服のポケットを探った。
 すると、本当にポケットの中に鍵が入っていた。
 私は自分のあまりのおっちょこちょいさに、また恥ずかしくなった。

「私こんなにドジなのに、手伝ってくれてありがとう」
「別に。ただアドバイスしただけ」

 短いやり取りのあと、私は彼と別れた。

「またね。明日また会って、いろいろ話そう!」

 勉強に部活、友達作りに恋愛、遠足に体育祭、文化祭に合唱祭……。
 中学校生活は楽しみが盛り沢山。
 これからはどんな毎日になるのか、ものすごく楽しみでワクワクが止まらない。
 おかげで明日も寝坊してしまいそう。

 明日も良い日になりますように。

おわり

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