LX DESIGN(Learning Experience Design)とは何か

Computer Scienceの発展に伴い、教育の分野もIT関連技術などを交えた学際的アプローチが近年増加してきています(EdTechと呼ばれるサービス群など)。学習科学(Learning Science)も、人が学習をするプロセスを認知科学や心理学などの多様なアプローチで研究する学問です。学習科学については、アメリカがかなり先行していますが、それに加えて、近年のデザインの盛り上がりにともなって、Learning Experience Design(学習体験のデザイン)という分野が注目され始めています。英語での文献は豊富ですが、日本語の資料はまだ皆無です。

私はこの分野について知った時に、「自分が人生でやりたかったのはまさにこれだ!」とビビっときたのを覚えています。その魅力を伝えるために、今回は私の知る限りのことを書けたらと思います。

1. Learning Experience Design (LX Design)とはなにか

この分野は、UXデザイン(ユーザー体験のデザイン)や、学習科学の知見を組み合わせて生まれています。UXデザインについては以下のWebサイトに詳しく書かれています。

さて、学習科学とLX Designの違いはなんでしょうか?

学習科学とは、認知科学や心理学の知見を参考にしつつ、学習者がどのように効率的に学べるか、という問題を、「科学的に」探求する学問です。

一方で、LX Designが対象とする「学びの体験」はより一般的です。Learning Experience(学びの体験)は、学校という空間に限らず、日常のあらゆる瞬間に存在します。テレビをみるとき、友達と会話をするとき、ネットで記事をよむとき、人間観察をするとき…、これら全てが、LX Designの対象です。

また、「デザイン」である以上、必ず具体的な問題の認識と目標設定をベースに生まれるプロジェクトです。プロダクトを作ることで目標を設定することに重きが置かれます。

2. LX Designの思考プロセス

ところで、UXデザインでは、「ある一つの体験」にまずは注目することから始めます。上のウェブサイトでは、「スターバックスが顧客に与えられる体験」のデザインが具体例として引用されています。コーヒーを提供するだけではなく、スターバックスという空間そのものこそ、付加価値であるわけです。具体的には、パソコンのMacを広げて仕事をするのに適した空間であることや、店員さんとのコミュニケーションなども、UXデザインの対象です。

LXデザインがUXデザインの派生形である以上、LXデザインも同じ思考プロセスをたどります。「ある一つの、学びの体験」に注目することでプロセスをスタートします。以下のウェブサイトでは、LX Designのプロセスが分かりやすく紹介されています。

上のウェブサイトで紹介されているプロセスは以下の通りです。

1. Question (問いを立てる)
デザインとは、目標ありきで成り立つものです。まずは、解決したい問題と目標を設定します。このサイトでは「肥満に悩む10代の若者は、健康な生活を送ることをどのように学べるか?」という問いが設定されています。
2. Research (リサーチ)
デザインにおいては、ユーザーについてのリサーチが不可欠です。また、LX Designにおいては、その学びがLearner(学習者)の人生にどんな影響を与えうるか、を考察します。
3. Design (デザイン)
アイデアとコンセプトを練ります。
4. Develop (開発)
アイデアを元にプロトタイプを作ります。
5. Test (試験)
プロトタイプが機能するかどうかを実際に運用して確かめつつ、プロダクトの改善を繰り返します。
6. Launch (ローンチ)
プロダクトを実際にローンチし、ユーザーにデザインされたプロダクトや体験を届けます。

このプロセスを見ると、UXの" User "をそのまま" Learner "に置き換えた、という感じがします。「Learnerを知る」段階であるリサーチでは、学習科学を応用しつつ、プロダクトをデザインする段階では、UXの知見を組み合わせるのでしょうね。

3. LX Designに関する印象

UXでもそうなのですが、言葉が一人歩きしている印象はあります。「考え方のプロセス」に名前をつけた段階であり、具体的にどのようなメソッドが有効なのか、などの知見はまだあまりアウトプットされていないようです。

もともとLX Designという言葉は2007年にオランダ人のNiels Floorによって定義され、最近広まってきたようです。

今後、EdTech系のサービスの盛り上がりにともなって、LX Designの重要性は高まってくる可能性があります。その際には、具体的なプロダクトのデザインに基づいて、ケーススタディ的にLX Designを学んでいくことができるのではないかと思います。

これは私見ですが、学校という教育空間が、まもなく再定義される時代が来ると考えています。つまり、従来の教育モデルに変革を起こそうという潮流が、今世界のあちこちで、EdTech業界を中心に起こってきています。その際に、Learner(学習者)の視点に立って、空間と体験をデザインするための思考のプロセスは今後間違いなく重要になるでしょう。学校は、今後どんどん「オープン」になっていきます。今までの閉鎖的な学校環境ではなく、「学校」と「実社会」の境界は今後どんどん滑らかになっていきます。これについては、のちに紹介するKhan Academyのお話と交えて、別記事を書く予定です。

最後に、EdTech系のプロダクトの成功事例と、LX Designを研究あるいは実践しているコミュニティ、LX Designを学ぶことができる環境を紹介して記事を締めくくります。ご精読ありがとうございました。

LX Design関連のコミュニティ・団体

(1) Learning Experience Design com

もともとこのWebサイトがLX Designの名付け親により作られたものです。

ここでわかりやすくLX Designとは何か、が解説されています。このウェブサイトでは、LX Canvasなるものをダウンロードでき、LX Designの思考のプロセスをワークシートにて学べます。

(2) Six Red Marbles

この法人は、LX デザインを研究しつつ、学校やスタートアップ向けの学習カリキュラムや、ITプロダクトを開発しています。いくつかの知見がWebメディアによって紹介されており、参考になります。

(3) Mindvalley

LX Designとは少し異なりますが、学習のグローバルなプラットフォームを作ろうと働きかけている組織です。

Ed Tech系のプロダクト事例

(1) Khan Academy

サルマン・カーンにより創設された、世界中で最も利用されている教育オンラインプラットフォームです。中学・高校の内容など、英語の練習を兼ねてもう一度復習したい方など、大人の方にもおすすめです。教育×テクノロジー分野で最も成功しているプロダクトです。このモデルは、今後確実に教育業界に大きな変革をもたらすであろうと予測しています。

(2) Progate

東大工学部の電子情報学科の学生によって立ち上げられた学生起業のサービスですが、インドや中国をはじめとした海外にも展開しつつあり、今最も熱いプログラミング学習サービスです。

LX Designを学べる場所

学習科学関連はアメリカが進んでいることもあり、現在は英語でしか学べません。しかしオンラインのコースもあり、学習関連事業でサービスを立ち上げたい人にはかなり役立つに違いありません。

(1) Novo Ed (オンライン学習サービス)

「オンライン学習サービス」を提供する組織による、LX Designのオンライン学習コースです。今年の8月よりスタートします。無料です。

(2) 大学

d.schoolを始めとするデザイン教育で有名なStanford大学や、Computer Scienceで世界トップクラスのCarnegie Mellon大学(CMU)では、Learning SciencesやLearning Technologiesという学問分野でMasterやPh.Dのコースが用意されています。本格的に学習分野でキャリアを築くには非常に有利だと思います。特にCMUのMETALSというプログラムはLX Designerを養成するためと明記されているほどです。


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Takuma Furukawa

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