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私だけの特捜最前線→2「愛の刑事魂~長坂秀佳脚本の第1作目」

※このコラムはネタバレがあります。出演者は敬称略

特捜最前線はドラマとしての完成度が非常に高く、その柱となる脚本が優れているのが特徴です。メインライターは、特撮など数多くの番組を手掛けた長坂秀佳氏で、長坂氏の第1作目が今回紹介する「愛の刑事魂」。

特捜での長坂脚本の特徴は、ドラマに「爆弾」「誘拐」が絡むことです。この作品では、貧しい夫婦の子供(少女)が事件を目撃したばっかりに、男に連れ去られてしまうというストーリーで始まっていきます。

桜井刑事(藤岡弘、)は、子供の写真が1枚も無いと言い、誘拐後も工場で働き続ける夫婦に対し、「こんな時は仕事など出来る心境ではないはずだ」と考え、疑いを持ち始めます。

それに対し、高杉刑事(西田敏行)は、働かなければ生活できない夫婦の貧困を自身の生い立ちと重ね合わせ、桜井の疑問を否定します。そして、「子供は助けを呼んでいる」と強い口調でメンバーに訴えかけるのです。

初期の桜井刑事は若くして警部に昇格した超エリートで、抜群の推察力を持っているという描かれ方をされています。苦労人でたたき上げの高杉刑事との対比を通して、キャラクターを際立たせているといえるでしょう。

一方の高杉刑事は、普段は三枚目のキャラですが、人情味あふれる刑事として描かれています。「人情味」という部分は、この後も特捜メンバーの肝になっていき、やがて人情派ドラマと言われる所以となるのです。

人情といえば、ラストで神代課長(二谷英明)が課内でメンバーと蕎麦を食べているところに、容疑者が挨拶にやって来るシーンがありました。なぜか蕎麦は1人前余っており、課長は容疑者に食べるよう勧めます。

逮捕時に激しく抵抗し、刑事にけがまで負わせた容疑者に対し、課長は温かいまなざしをおくります。容疑者は2口だけ食べ、更生を誓って部屋を後にしたのです。何気ないシーンですが、心温まりました。

ちなみに容疑者役は、若き日の辻萬長さんが演じていました。

なお「愛の刑事魂」は、番組の第1話として放送予定でしたが、一度お蔵入りしてしまったそうです。長坂氏は降板も考えたといい、長坂氏不在だったら特捜は別の方向性を持つ番組になっていたかもしれません。


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