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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第29回「九州場所中に大関魁皇のふるさと直方市に行ってみた」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第29回「九州場所中に大関魁皇のふるさと直方市に行ってみた」である。

はじめに

大相撲は少年時代からテレビ観戦していた。俗にいう好角家というやつだ。2007年からは本場所観戦に行くようになり、「大相撲観戦+飲み歩き」が定番化していた。当時のお目当て力士に大関魁皇がいた。今の浅香山親方である。

11月の九州場所観戦にも3回訪れている。お目当ては魁皇の応援である。魁皇は福岡県直方市出身なので、熱狂的な声援が飛び交う。いっそのこと、魁皇のふるさとへ行ってみるか・・・実はこの時が、魁皇の現役時代に来訪するラストチャンスだった。

直方市にやって来た私を待ち受けていたものは?

元大関魁皇(浅香山親方)のプロフィール 日本相撲協会公式サイト

大相撲中継を流している酒場を探して~居酒屋「菊」

博多で九州場所観戦をした翌日、北部九州の列車旅をしながら小倉にたどり着き、角打ちをはしごした。酒屋の一角を利用した立ち飲みを角打ちと言い、小倉はメッカとされている。いずれ機会があればエッセイに書いてみたい。

小倉から高速バスで直方入り。駅前から繁華街を歩いてみた。すでに営業を始めている飲食店もある。が、テレビ中継をしている店は見当たらない。魁皇のふるさとだからと言って、市民全員が熱狂的なファンとも限らないし・・・

と、そこにテレビ中継の音。居酒屋「菊」というスナックっぽい店かららしい。様子をうかがおうと入り口に立ったとたん、ガラガラと扉が開いて驚いた。おばちゃんが現れ「人影が見えたから開けた」と笑う。どうやら営業しているようだ。

店内にはおばちゃん2人と先客の男性。「魁皇の相撲が見たかったんで」と正直に話し、カウンターに座る。相撲が目当てなので、焼酎のお湯割り1杯だけ注文。テレビでは、ちょうど魁皇の相撲が始まるところ。この日も完勝で一同大喜び。

「魁皇が勝ったから、今に花火が上がるよ」

本当だろうかと思ったら、いきなり「ドーン」という破裂音が1発、2発、3発、4発。直方の花火って、都市伝説かと思っていたら本当だった。スゴイぞ魁皇。

魁皇の相撲を見終えれば用はない。一杯飲んだところで店を退散する。帰り際におばちゃんからご当地グルメ情報をキャッチ。何でも、直方には「焼きスパ」というご当地グルメがあるらしい。これは確かめねばなるまいな。

焼きスパ目当てに~直方「フィガロ」からの「月の賦」

直方市内で確保したホテルにチェックイン。ひと休みしたところで飲み歩きに出かけよう。今日は昼から角打ちで飲みまくったし、魁皇の相撲を見ながら「菊」でも飲んだ。たまには食べるほうをメインにしてもいいな。

ご当地グルメ「焼きスパ」を食うしかない。菊のおばちゃんから「フィガロのマスターが焼きスパを再現させたみたいだ」と聞いている。ならば「フィガロ」に行くしかない。

品がよさそうなマスターが切り盛りするカフェで、コーヒーを飲んでいる客もいる。食べるほうがメインといっても、飲む方も忘れてはならない。焼きスパを注文し、ビールを飲みながら待つ。

直方焼きスパにはローカルルールがある。

パスタ麺を使うこと、「キャベツ、タマネギ、豚肉」を入れること、トマトケチャップベースのソース味であること、麺や具材を焼くことの4つ。フィガロは再現元祖と言われるだけに、忠実にローカルルールを守っていた。

焼きスパ、なかなか美味い。聞けば、商工会議所の肝いりでつい最近開発されたメニューなのだそうだ。ビールにもよく合う。ついでにマスターから、魁皇にはお兄さんがいるという小ネタも頂戴した。さすがは出身地直方だ。

腹具合がいいので、調子に乗ってもう一軒、焼きスパを出している店「月の賦」を訪れる。こちらもローカルルールをしっかり守りつつ、焼き立てを鉄皿に乗せたボリューミーな焼きスパがお目見え。焼酎に合わせていただくが、さすがに腹にたまったな。

特急「かいおう」に乗ってからの直方「ザ・バー」

すっかり腹が膨れてしまった。もう食べ歩きはムリだ。このまま、バーでも探そうか。でも、せっかくの直方だ。何か面白い楽しみ方はないだろうか。

思い立ったのが、筑豊本線で運行されている特急「かいおう」に乗ることだ。列車名の由来は言うまでもなく魁皇から。力士の名前を列車名にするとは、さすがJR九州。ただし、朝と夜しか運転しておらず、直方発は朝の列車だけだ。

そこで、直方駅から新飯塚駅まで普通列車で行き、折り返しで直方行の特急「かいおう」に乗ることにした。こんなバカバカしい乗り方をする客はいない。だが、それも旅の醍醐味。腹ごなしと酔い覚ましにもピッタリだ。

「かいおう」の自由席に乗り込む・・・が、乗客は誰もいない。

いつもこんな感じなのだろうか。先行きが不安になる。魁皇が引退したら、列車も廃止になるのではないか。心配になって来るぞ。
※2023年3月現在も運転中。

再び直方駅前から繁華街へと戻る。今夜ラストとなる酒場を探そう。もう飲むだけでいい。ちょうど「ザ・バー」というそのまんまの店名のバーが現れたので、早速飛び込む。

マスターと女性バーテンダーがおり、まずはジントニックを注文。グイっと飲んでからウイスキーに切り替え、マスターとの会話を楽しむ。

直方にやって来た理由が「魁皇のふるさとを見たかったから」という奇特な客だったので、マスターも興味津々らしい。会話のふしふしに「魁皇のおじさんも店に来る」とか「中学時代の先生も来る」という話が聞けるのは楽しい。

直方は魁皇だけではない。直方を含むこの一帯は、もともと炭鉱で栄えた地域なのだ。確かに、直方から出ている平成筑豊鉄道は、第三セクターのローカル線なのに、複線だし、各駅の構内もやたらに広々している。栄枯盛衰と言ってしまうのもしのびないが。

魁皇のふるさと直方。いろいろと味のあるまちだったよ。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2010年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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