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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第59回「若狭湾の松葉ガニとサバに舌鼓」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第59回「若狭湾の松葉ガニとサバに舌鼓」である。


はじめに

北陸と関西の合間にある若狭湾。ズラリと原子力発電所が並ぶエリアではあるが、自然に囲まれた風光明媚な土地柄は魅力にあふれている。そんな若狭湾沿いを走るローカル線・小浜線で途中下車の旅をしてみた。

プランは1日目に昼を挟んで舞鶴市を観光し、列車で小浜市入り。夜をはさんで2日目に小浜市観光をし、敦賀経由で帰途に着く。舞鶴と小浜でそれぞれ昼酒、夜酒を堪能できる絶妙なスケジュール。海の幸がお目当てであることは言うまでもない。

それじゃあ、冬の若狭路へ出発だ!

舞鶴市「卑弥呼」~松葉ガニ丸ごと一パイの超贅沢昼酒

飲み歩きとは全く関係がないが、たまたま出発の日は皇太子殿下(現天皇陛下)と雅子様のお子様誕生というおめでたいニュースに遭遇した。言うまでもなく愛子内親王のことだ。慶事に旅立ちできるとは幸先がいい。
閑話休題。

やって来たのは東舞鶴である。舞鶴市は東舞鶴と西舞鶴の二つのまちから成り立っており、東舞鶴は旧海軍の港町として栄えた軍港都市、西舞鶴の方は田辺城を中心とした城下町。二つの異なった個性が融合した都市なのだ。

さて本日は出発が早く、朝食は菓子パンだけだったので、少し早めに昼食をいただくとしよう。旅先でケチるようなことはしない主義だが、今回は思い切り贅沢をするぞ。そんなわけで選んだ店が和食店「卑弥呼」

お目当ては旬の松葉ガニ!

冬に日本海で獲れる高級食材の松葉ガニ。予約しなければ食べられない店が多いなか、予約なしでいただけるのはありがたい。お店お勧めの活ゆで松葉ガニをお願いし、合わせる地酒は酒呑童子の熱燗。噂にたがわぬ辛口のパンチが効いた酒だ。

大皿に盛りつけられた松葉ガニが登場。見るからに食べ応えがありそうだ。脚の部分の身を引き抜いて口に入れる。甘くて身が柔らかくて美味い。やはり水揚げされたばかりの新鮮な松葉ガニは絶品だな。

それに輪をかけて美味いのがカニ味噌。甲羅にたっぷり付いている味噌を口にすると、思わず「うまい」と声が出てしまう。辛口の酒呑童子にもピッタリ。昼間から贅沢をしたかいがあったというものだ。

小浜市「魚山亭」~色街の女将さん推薦の店へ

東舞鶴駅から小浜線に乗る。若狭湾沿いの路線なのだが、内陸部を走っているのでなかなか海を眺めることができない。昼酒の酔いも手伝い、ウトウトしている間に小浜駅に着く。

駅前はローカル色たっぷりで、のどかな雰囲気。目に飛び込んできたのが「とらふぐ王国」の大看板。平成10年(1998)に開国宣言をしたそうで、若狭地方の冬の名物としてトラフグを売り出していこうということらしい。

「若狭のトラフグ、食べてみたいなあ」

そうは思ったものの、昼酒で松葉ガニを味わったばかり。さすがにフグは贅沢の極みだし、そこまでの予算はない。まあ、トラフグを食わずとも、ほかにも若狭湾の海の幸は豊富なはずだからな。

そんなわけで夜酒に訪れた店は、ホテル近くにある「魚山亭」という居酒屋。観光で訪れた芸妓組合の茶店の女将さんが推薦してくれた店。海の幸をいただくので、まずは日本酒を注文した・・・が、地酒ではなく灘の有名酒だったのには拍子抜けした。

気を取り直し、刺身の盛り合わせとカレイの塩焼きを注文。盛り合わせもハマチ、イカ、マグロというオーソドックスなラインナップ。「女将推薦もいかがなものか・・・」と思っていたら、盛り付けに一工夫凝らしていることに気がついた。

刺身の下に氷を敷き詰めているぞ。

刺身を氷温状態に保つことで、身の引き締まった刺身を食べてもらいたいとの板前さんの心配りなのだろう。これはなかなかうれしい。一夜干しのカレイも塩辛さがなく、風味を生かしていて美味い。女将が自信をもって推薦したわけだ。

さらに追加注文のサバ味噌煮が絶品で、日頃食べている缶詰のサバとは別物だった。若狭の郷土料理「サバのへしこ」も酒の肴にピッタリな最高の珍味だ。

若狭のサバについては、次の店で詳しく語るとしよう。

小浜市「すし政本店」~若狭の海の幸、郷土料理を満喫

明けて翌日、小浜市内を観光し、昼酒の時間になった。もうちょっと海の幸を堪能したいと思い、「すし政本店」という鮨屋に入ることにした。きっぷのよさそうな若い寿司職人がいて気持ちがいい。早速、地酒の若狭まごころを頂戴する。

鮨屋は「お好み」で握ってもらわねば。

最初は小鯛。皮がついている色合い鮮やかな寿司に気分も高まる。小鯛という種類の魚ではなく、レンコ鯛の小さなものを小鯛として使っているそうだ。ちなみに「小鯛の笹漬け」は高級珍味として知られている。

続いてイカ、シラサエビ、アジ、ツバス。それからナマコの軍艦。これは珍しい。ナマコは好物なので、寿司で食えるとはうれしい不意打ち。酒も進むぞ。

締めくくりはサバ寿司。水揚げしたものがすぐに手に入るのなら、刺身でもイケるのではないかと思うが、職人曰く「サバは傷みやすいから、すぐに塩にしたいんです」とのこと。脂が乗っているのでシメても美味さは変わりない。

「へしこ」についても聞いてみた。へしこは冬場の貴重な保存食で「サバのたくわん」とも言われている。漬物同様、各家庭ごとに微妙に味わいが違うのだそうだ。さらに、へしこを麹に漬けた馴れずしも珍重されているという。

昼間から寿司をつまみながら酒を飲む・・・昨日の松葉ガニに続いての贅沢三昧。それも旅の楽しみ方だ。懐具合さえ許せば、トラフグも食いたかったんだよ(笑)

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2001年12月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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