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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第57回「真のディープさを探して萩ノ茶屋をさまよう」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第57回「真のディープさを探して萩ノ茶屋をさまよう」である。


はじめに

萩ノ茶屋商店街も久しぶりだ。初めて訪れてから、もう10年になる。お気に入りの名酒場「酒のもりた」が天王寺に移転してからは、自然と足が遠のいていたが、相変わらず西成の住民らしきおっちゃんたちが所在なしげに歩いている。

でも、まちの雰囲気は変わってきた。中国や台湾、もしくは韓国出身と思われる方がやっている店が増えているじゃないか。それもカラオケができる酒場らしい。入ったことがないので定かではないが・・・

ディープな大衆酒場は健在なのだろうか?

萩ノ茶屋「いさむ酒店」から「橋本酒店」へ

久々の萩ノ茶屋へ行く前に、これも久々となる通天閣に立ち寄ろう。免震改修と展望台設置工事後初めてとなる。展望台スペースからの眺めはやっぱり格別。あべのハルカスもいいだろうが、通天閣にはビリケンさんが鎮座されているからな。

新世界ジャンジャン横丁を通り過ぎて、阪堺電車の新今宮駅から1駅、今池駅で降りる。ここが萩ノ茶屋商店街最寄り駅で、当然ながら下車したのは私一人。高架部にある駅から地上に出ると、とたんにディープな空気が漂い始める。

さあ、本日の口開けはどこにしようか。何度か訪れているお馴染みさんでもいいが、せっかくなら初見の店にしよう。界隈で新しくオープンしたような感じの立ち飲み「いさむ酒店」に入ってみる。あいりん地区っぽくない、きれいな店内だ。

この店は開店午前7時、閉店は午後2時?。

開店が早いのは、あいりん地区ではさほど珍しくない。でも、閉店時間まで早いというのはちょっと驚き。まあいいや。早速、ビールの小瓶と卵焼きを注文。ちょっと「あて」が足りなさそうだったので、背後にある冷蔵ケースから6Pチーズを頂戴する。

焼きたての卵焼きにチーズを合わせると、これが結構美味しい。家族経営っぽい雰囲気のあか抜けた店で、ディープさはさほど感じない。ここは軽めに切り上げておこう。

続いてやって来たのは、萩ノ茶屋商店街を初めて訪れた時から営業し続けている立ち飲み「橋本酒店」。何度となく店の前は歩いていたのだが、どことなく地味な感じで、気がついたらスルーしていたという酒場だ。

こちらの店内は渋くてレトロっぽい。が、これこそ萩ノ茶屋の雰囲気そのものなのだ。切り盛りしている女将さんに梅チューハイと湯豆腐を注文し、しばしくつろぐ。結構広めのL字カウンターだが、お客さんはそれほど多くない。

あいりん地区の住民も年々、年齢を重ねているはず。10年前に60代だった人は70歳を超えており、だんだんと酒場へ飲みに出られなくなっていくのだろう。店内が静かだったせいもあってか、なんだかノスタルジックな気分になっちゃったな。

萩ノ茶屋「もん家」~駅伝につい夢中になって

ちょっとしんみりとしたので、気分を新たにしたい。それには繁盛している店に入るのが一番いいだろう。というわけで、界隈でも人気店の一つ「もん家」を訪れる。

さすがに常連客でカウンターはほぼ埋まっている。その一角に陣取り、熱燗とタコぶつを頂戴する。橋本酒店の静けさと違い、ワイワイガヤガヤというほどではないが、酒場らしい賑やかさはある。

テレビでは全日本大学駅伝中継をやっている。何気なく眺めていたら、贔屓にしている大学が先頭を走っているではないか。これは否が応でもテンションは上がる・・・はずだったのだけれども。

後方から神奈川大学の選手が猛然と迫って来て、先頭があっという間に入れ替わり、そのまま突き放されてしまった。当然だが私のテンションもだだ下がり。口には出さなかったが「こりゃダメだ」と胸中で叫び、思わず店を出てしまったのだ。

ちなみにこのランナーが、のちにマラソンの日本記録を出した鈴木健吾選手だった。

萩ノ茶屋「但馬屋酒店」~これぞディープな萩ノ茶屋を体感

飲み足りない酒になってしまったので次を探す。今池駅方面に歩を進めると、半露天の酒場でおなじみのホルモン「やまき」がある。お客に取り囲まれているが、よく見ると西成の住民ではなく、明らかにウオッチャーっぽい若い連中ばかり。

次に堺筋通り沿いのディープなおでん屋「深川」を目指してみた。が、ここもウオッチャーたちで狭い店は満席状態。西成がちょっとしたブームになっているのかな。でも、これじゃあせっかくのディープさが台無し。知られざる店はないものか。

・・・となれば、但馬屋酒店を目指すしかない。

この店は、ホームレスのたまり場となっている三角公園の真ん前にある。あいりん地区でもディープさでは超一級品と言ってもいいだろう。場所柄や店構えからしても、簡単には足を踏み入れられない雰囲気がある。

早速店内に入ってみる。カウンター席のみのようだ。それにしてもメニューらしいものが見当たらない。ガラスケース内には「あて」が何もない。本当に酒が飲めるのだろうか。呑んべえのエキスパートのつもりだったが、さすがに不安がよぎった。

カウンターの奥には老夫婦がおり、おばあさん(女将さん)にチューハイを注文。すると女将さん「おでんでもみつくろいましょうか」と言うではないか。これはありがたい。お願いすると、大根、筋、平天、コンニャクを皿に盛って出してくれた。

カウンターの隅にいるおっちゃん、先ほどからカラオケを歌い続けている。それも霧島昇など昭和歌謡ばかり。一曲歌い終えるたびに「声が全然出なくなってしまったよ」と苦笑いをするが、どうしてどうして、なかなかの美声じゃないか。

女将さんもオヤジさんも、お年のせいかゆっくりペース。これが但馬屋酒店のいい味を出している。ウオッチャーたちに荒らされることのない、昭和歌謡流れるディープ酒場で、心地よいひと時を堪能させてもらったよ。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2017年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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