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ヴィエイニュヴィーニュ(VV)ワインの嘘


今回は音声ブログで取り上げた内容の詳細と根拠を取り上げた記事になっています。写真はマンズワインさんの樹齢100年を越えると言われる竜眼です。
この記事はより多くの方に読んでいただきたいので無料公開しています。

科学は時に残酷だ。

以前取り上げた不都合な真実はオーガニックでは一部の土壌汚染を止めることはできないというもの。


それに続いてワイン業界の神話の1つV.V.(ヴィエイニュヴィーニュ)。

ヴィエイニュヴィーニュはフランス語で古樹という意味でワインにおいては1つのブランドにもなっている。

今回は耳を塞ぎたくなる科学は誰にも見向きもされないという悲しい研究のお話。


ワイン好きの方の中にはヴィエイニュヴィーニュという言葉を聞いたことがある方もいるかと思う。

その言葉はどういったシチュエーションで耳にしただろうか。

ソムリエがオススメしてくれた?ラベルに書いてあった?ショップの店員がPOPに書いていた?

いずれにせよヴィエイニュヴィーニュという言葉はワイン業界では深く浸透していると思う。

ではその定義がわかる方はいるだろうか。

恐らくいないはずだ。
実際のところ定義は存在していないと言われているのだから。


生産や販売にあたって、原産地呼称やOIVの規則がかなりしっかりと定まっているワイン業界において定義すらなされていない言葉がここまで広く浸透しているのはマーケティングの功罪と言えるだろう。


ではまずその古木のストーリーを聴いていただこう。

ブドウの樹は人の寿命と同じぐらいだと言われている。
60年、70年、長いものでは100年以上もそこに佇み世界の変化を眺めてきたものもいる。
彼らだって人間と同じように生きている。
だから齢を重ねればその命に円熟味が出てくるし、彼らの深みが増してくる。
それがブドウに宿ることでブドウが深みと複雑さを醸すことのできるものになり、高品質のワインができる。


かなり誇張したストーリーだとこんな感じだ。


もっとライトに説明する場合以下のようになる。

古木は齢を重ねて若木ほど元気に育たないので、ブドウの実もあんまり付けないんですよ。だから実1つ1つの濃縮度が上がって、濃いいいワインができるんです。


正直言って疑う余地のないよくできたストーリーだ。

だからこそ広く受け入れられ、ブランドとしても価値を持つに至ったのだろう。



それを今から覆します。

まずそもそも古木について考えてみてください。

齢を重ねると樹に元気がなくなるのは本当ですか?

だとしたらなぜでしょうか。

巷で言われているヴィエイニュヴィーニュって50年とか60年ぐらいのものが多いですよね?ブドウの樹って120年ぐらい持つものもあるんですよ?

なぜそんなすぐに元気がなくなるんでしょう?

人生100年時代で考えても50歳でそんな簡単に元気をなくしていたら仕事できないですよ?



ということでその事実確認をしてみましょう。
こちらがオーストラリアのシラーでの研究。
Siteは場所を意味し、Site2~5の若木は樹齢30以下、古樹は樹齢が93以上168までとかなりの齢になっています。

Site1に関しては若木とされているものが樹齢49となっているので、あまり参考にはならないかもしれません。

またSiteによっては剪定方法やマルチの有無、灌漑量などに差はありますが、Site内ではそういった条件はほぼ同じに設定されています。

細かいので見るべきところがわかりにくいかもしれませんが、とりあえずFruit Mass(各Siteの2行目)を見てください。

Site3の2014年のみ若木が古木より統計的に収量が多いとされていますが、他のどの場所、年でも差がないか、むしろ収量が多いことがわかります。

そしてその結果、実は以下のようになっています。

一般的に熟度の指標とされている糖の単位、Brixベースでも古木の方が低いことが多いのがわかります。

たしかに一本の茎の質量とか、冬季剪定の量とかには差が出ているので、栄養成長部分では違いがあるのは明白です。

これは幹や根の部分のC源とN源が豊富にあることに起因しているのだろうと言われています。

ただ一方で生殖生長であるブドウの実には変化がないどころか、収量は上がり、糖度は下がっているものも見受けられます。

この論文のPCA(主成分分析)も結果の全体像を掴むのに便利で、綺麗に古木と若木に差が出ていることがわかるのですが、PCAの見方がわからないという人がほとんどだと思うので図は割愛しています(気になる方は引用元をチェック)。


どうでしょうか?従来のイメージは覆ったでしょうか?


まだ受け入れることができないという方に軽くドイツの方も紹介しておきます。
こちらの研究は樹齢と水分ストレスに重きを置いた研究なのですが、71年、95年、2012年に植えたブドウの樹で行われた実験です。

この実験では2014,2015年は樹齢にして4,5年にあたるので明らかに収量は少ないですが、16,17年に関しては古木と若木で1樹当たりの収量は変わらず、Brixも安定して大きな差が出ていません図が小さいので拡大して、1つ目の図は左から3番目の列を見てください)。

一方でこの研究では畑としての収量には差が出るということも言及しています。
古木の畑は、ウイルスによる枯れ木や罹患した樹を抜くことによって樹の本数が減るので畑の区画としての収量は減るのです。

しかし、もし抜いた場所をカバーするようにコルドンを伸ばし、芽の数自体を増やしたり、新たに植樹することがあれば、おそらく畑としての収量も差がない状態に持っていけるでしょう。

ただもちろんそれでは実験が成り立たなくなるのでこの研究では行っていませんが。

またこの研究の主目的である水ストレス状態に関しては、古木の方が乾燥ストレスに強いということが気孔コンダクタンスや土壌下層の有効態水分量などの資料を用いて示されています。

これは古木の方が根が発達しているからで、先の研究のC源やN源が多いという話にもつながります。

どうでしょうか。
たしかに少ない事例で、2例しか挙げていません。

1つ目の方の論文を引用した論文もまだ2つ目に紹介したドイツのものを含む2つほどしかありません。

おそらく樹齢の違うブドウを比べるという実験をするのがかなり困難なのでしょう。

それにたしかにこれらの論文ではワインのテイストに関する部分までは言及されていないので、もしかすると古木のワインの方が官能評価の順位が高いということが起こるかもしれません。

ただそれでもこれらの研究の結果というのはもっと広められるべきであると思っています。
私自身この結果については会う人には都度話をしています。

日本の棚剪定のように一本あたりの収量というのがかなり煩雑な場合は肌間隔ではわからないと思いますが、本来栽培家やワインメーカーの方は肌で収量に差がないことを感じているはずです。

なので消費者や小売りに携わる方は、今後不用意にヴィエイニュヴィーニュだ、古木だ、古樹だと言ってワインを勧められたりした場合は
「ブランディングとマーケティングか。」
と思っていただければいいのではと思います。

もちろんレストランやワインショップでも同様ですよ。
根からミネラルを吸い上げる議論と同じような話だと思っています。

ただミネラルほど世間的に出ている情報ではないので、悲しくもこの神話が語られることが多いと思いますのでお気を付けください。

この記事が作為的なのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。
そういう方はぜひ元論文を見てみてください。
オーストラリア編
Effect of vine age on vine performance of Shiraz in the Barossa Valley, Australia
ドイツ編
Impact of grapevine age on water status and productivity of Vitis vinifera L. cv. Riesling

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奥村 嘉之/吟遊酒人

ViniferaEuroMaster/修士2年生。 ワインの技術論とゆるい日々の記憶。 Kindle本「ワインリテラシーとテイスティング入門」配信中。https://amzn.to/2Dk5IHo。 実は美味しくお酒が飲めたら理屈はどうでもいいと思ってます。 人生ちどりあし。

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