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ブドウの養分動態分析法~葉柄分析~


今回は葉柄分析という手法に関してです。
分析結果を眺めて土壌や樹勢との相関や因果関係を仮説から導き出すのはなかなか面白いです。

葉柄(ようへい、英語:Petiole)は、植物において葉と茎を接続している小さな柄である。 通常は茎と同じ内部構造を持つ。 葉柄の両側に伸長した部分は托葉といい鞘状に巻いているものは托葉鞘という。


今回はこの葉柄部分を使った分析を紹介する。

これは一度調べたのだが、日本のワイナリーでは都農ワイナリーが行っているようだ。

ただ分析自体はアメリカの会社に委託して、サンプルを送っているといった旨のことが書かれていた。

2005年の記事だ。

これを見る限り都農ワインはこういった努力を背景に有名になるべくしてなったんだろうなと思ってしまう。

それはそうとこの葉柄の分析は栽培管理で一般に広く使われているものらしい。

調べるとミカンやトマトの例が出てきて、葉柄の抽出液から濃度を分析するといったことが出てくる。

これは農家が窒素動態、特に硝酸態窒素をリアルタイムで把握するためなどに使われている。

葉柄の抽出液はそういった栄養素の多少を反映しているとして有用なのだ。

しかしこの手法はこんなレベルにとどまらない。



抽出液でなく、葉柄自身を分析することでもっと多くの情報が得られる。

しかし、日本語で軽く調べただけだとそういった分析を行っている機関はなさそうだった。


おそらく大学の研究の一環として行われているといった程度にとどまっているのだろう。

こちらフランスではその葉柄自身を分析する機関が存在する。

葉柄は植物の窒素動態だけでなく、他のミネラル分の動態も把握できる。
分析方法はこんな感じだ。
正直、最近Youtubeの説明動画の優秀さにかなり助けられている。


恐らく見ない方も多いと思うので、軽く説明すると、

立派な葉柄を50g分ぐらい採取したものを分析会社に送る。

以下分析会社

サンプルを破砕し、60℃のオーブンで乾燥させる。

半分ずつに分ける。

片方の画分をN分析として燃焼させる。恐らくCも測定できると思う。土壌の研究をいていた時は同じ原理でN/Cとその比率、また安定同位体の濃度まで測定していた。

残りのミネラル分を測定するためにもう1つの画分を硝酸と塩酸の溶液に完全に溶かし、有機物は焼失させ、無機元素だけを溶液中に残した状態でICP発光分光分析法という分析にかける。

この方法では多元素を同時に分析することができ、この動画ではCa, P, Mg, K, Na, Fe, Zn, Cu, Mnの測定ができるとしている。

余談だが、植物の必須元素は17種類あり、以下のように分類されている。
多量必須元素:H, O, C, N, P, K, Ca, Mg, S
微量必須元素:Fe, Zn, Cu, Mn, B, Mo, Cl, Ni
そして植物では一般にこれがリービッヒの最小律という原理に従っている。

つまりこれらの元素のうち一番足りてない要素に合わせた生長や代謝系が組まれるということであり、他の元素がいくら飽和していても1種類が欠落していると、その1種類の元素に合わせた動態を示すことになる。


それはそうとこれらの必須元素のほとんどを葉柄の分析では知ることができるということになる。

そしてこの分析のいいところは灌漑の時にもでてきた話だが、直接植物を測定しているという点だ。


例えば土壌分析でMgが豊富にあったとしてもCaやKとの拮抗作用から十分に供給されないようなパターンがある。


そういった環境要因をダイレクトに反映した結果が葉柄に表れるので、土壌の成分分析よりはるかに解釈がしやすいデータになると言える。

といってもデータの解釈はこの分析会社がレポートの作成と共にやってくれる場合が多いので、結果的にそこまで気にしなくてもよくなってしまうのだけれど。

そんな葉柄分析のデータのサンプルにフリーでアクセスできたので、それも見てみようと思う。

このデータには乾燥重量のうちの元素の割合と100個の葉柄に対する重量のデータが記されている。

左が割合で右が重量だ。そしてちなみに下のものは分析した元素の特異的な割合を示している。例えば先の拮抗作用の関係性を把握するためのK/Mgなどがそれに当たる。

そして黒に黄色の数字の箱が分析値でその右側にある黄緑色の箱が適正な範囲を示している。

例えばNの割合でいえば1.1~2が適正な範囲で、分析値は2.5になっている。

つまり割合としては窒素過多、ただ葉柄自体が小さいのか重量当たりでは正常値の中でもかなり下の方に位置している。


そしてこちらはその他の元素の濃度と同様に重量を示している。

こちらは値の単位が1回り小さいppmとμgになっている。

ちなみに赤の四角は正常の範囲をかなり越えて、生育に高レベルのリスクがあるとされる域だそうだ。

この分析には詳細のアドバイスといったことはないが、葉柄の状態が正常か否かというのは十二分に示してくれている。

これが来年以降の生育処理の判断材料になるのだ。

またこの分析にはもう少し他の要素がある。

上の方に小さく書いてあるStade phénologiqueという部分である。

今回の分析はBoutons floraux séparésという開花前後のタイミングで行っている。

しかし先の適正な養分動態の範囲というのは成長段階によって変わってくる。

そのため着果時期、グリーンピース代のサイズ、ヴィレゾンと違うステージには違う適正範囲のレポートが用意されている。

そのため、色々な段階の動態を追うことで行うことのできる実験もあれば、各年で同じ1つのタイミングで測定して行う定点観測的なことももちろん行うことができる。


葉柄の分析をして、その養分動態を適正にすることだけでブドウの質が改善されるということはないかもしれない。

一方で、都農ワインのブログにもあるように、この分析の数値がいいプロットがいいブドウをつけているかもしれない。

しかし、いずれにせよこういう分析ツールがあるということを知っていれば、なにかのきっかけで大学と共に測定できる機会があるかもしれないし、自発的に海外に分析を依頼することもできる。

知っていてやらないのと知らないのでは全く違うので、これも頭の片隅に入れといていただければと思う。

質問や意見は、コメントまたはTwitter (@WinoteYoshi)までよろしくお願いします。

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奥村 嘉之/吟遊酒人

ViniferaEuroMaster/修士2年生。 ワインの技術論とゆるい日々の記憶。 Kindle本「ワインリテラシーとテイスティング入門」配信中。https://amzn.to/2Dk5IHo。 実は美味しくお酒が飲めたら理屈はどうでもいいと思ってます。 人生ちどりあし。

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