テイスティング_コルク3

瓶熟成と酸素透過量とコルク


醸造家リクエストシリーズ2つめは
「瓶貯蔵の影響と、ボトルサイズによる違い」
これも酸化と関連する分野なので繋げるとリンクする部分があるかと思ったら案の定あったので、前回の話と合わせて読んでいただけると幸いです。

そして今回も例のごとく数回に分かれているので、1回目である今回は熟成の基本部分と瓶熟における酸素量について見ていきます。


瓶/ステンレス/樽と熟成


そもそも瓶熟成というのは出来上がったワインをリリースするまでに仮で瓶に詰めて熟成させる状態のことを指す。

ワイナリーによってはワインをリリースしてしまって熟成させていくパターンもあるが、コルクの耐久性は長くてせいぜい30年、そのあとはリコルクしたほうがいいということもあり、リリースせずにワイナリー自身のセラーで眠らせておくことも多い。

その場合はかなり古いビンテージでも比較的綺麗なコルクにラベルということが起こる。

そしてその瓶熟なのだが、基本的なコンセプトはその名の通り熟成を進めることである。

ではなぜタンクや樽で熟成させないのだろうか。


実はというと前文のような質問はナンセンスである。

というのもタンクや樽の熟成は熟成と瓶熟成では時間スケールがまるで違うのからである。

そもそもタンクで熟成というのはワインが醸造のすべてのプロセスを終え、瓶詰まで温度管理されながら行われるもので、どちらかというと貯蔵のほうが近いイメージである。

一時的に貯蔵する。
あるいは少し酸素と触れさせることで複雑味が増す。そういう用途である。

そういう意味では1年間の瓶熟であれば基本的にはタンクに貯蔵しているのとさして変わりはないのではないだろうか。

違う点は温度管理の方法、タンクが満量でないときは充填用ガスの必要性などそのあたりであろう。

つまり容易に品質を維持したいならボトリングしてしまうのがいいかもしれない。

ただその場合はしっかりと瓶詰の前処理である濾過やタンパク質や酸の結晶の試験などを行う必要がある(タンク貯蔵をしたものも瓶詰前にこれらの工程は必要なので実質変わらない)。

タンク貯蔵は基本的には1年以上行うということはないと思うので、リリースするまで1年以上セラーに寝かせる予定がある赤ワインの醸造用にタンクを空ける必要がある、あるいはタンクが満量でなく酸化を防ぐ手段がない場合は先に瓶詰してしまうことをおすすめしたい。

ただ温度管理のしやすさや、酸化を防げる場合の管理の容易さというのはタンクのメリットでもある。
これは瓶詰後に発生する還元臭という部分と関わってくる。
ここでは軽く触れる程度にしておくが、還元臭とは先のS化合物によるもので、H₂SやDMS(ジメチルスルフィド)などによるものである。
これはボトリング後酸素が十分でなく、ワインが還元状態に置かれると発生し、熟成が長くなるとリスクが増加する場合がある。
タンク貯蔵時に発生した場合のH₂Sは意図的に酸化させることで取り除くことができる。

一方で樽での熟成を考える。

樽の方は一般に熟成という単語を使うことも多いが、これも瓶熟ほどのタイムスケールでは行われない。

新樽であれば1年から1年半ぐらいまでだろうし、古樽長期熟成であればそれはもはやシェリーとかヴァンジョーヌの世界だ。

つまり樽熟と瓶熟も全く別の方向性なのである。

樽熟のメリットは今更説明する必要もないと思うが、香りと酸化である。
樽熟は主に赤ワインに対して行われる醸造手法で、香りの抽出と酸化の促進が見込まれる。

これ以上突っ込むと煩雑になっていくので、とりあえずはここまでの説明とする。

ここからは楽しい科学のお話だ。


瓶貯蔵

瓶貯蔵のファクターは酸化還元状態と化学変化に2分される。

酸化還元状態に影響するファクターは
コルク、ボトルネックの酸素含量、ワインの溶存酸素含量など酸素に関連するものがある。
また酸化還元による変化にはもちろんワイン中の化学物質の量が影響するので、S化合物やアミノ酸、フェノール類の濃度も関係する。

一方で酸化還元状態によらない化学変化というのも少なからず存在する。
これらは全く関係ないというわけではないが、アントシアニンとタンニンなどの結合などがそれにあたる。

酸化と関係ないとは言えないというのは、前回の話の中でも出てきたが、こういった反応をアセトアルデヒドが仲介し促進させているという点と関連している。

酸素量に関するファクター


まずはコルクだ。
昨今の研究ではコルクを透過する酸素量というのが話題になっている。

これはスクリューキャップやDIAMコルクなどの開発で、いかに酸化還元状態を最適化してワインを世に出すかというレベルの話である。

しかしコルクに関連する酸素量は透過量だけではない。

Outgassingと言われるものも着目されており、こちらはコルク自体の中に含まれている酸素量に関連し、コルクが打栓やワインとの接触よって変形するためにボトル内に出てくる酸素量のことを表す。

さすがの科学もこのレベルで正確に検証していくというのはなかなか難しいようだ。
しかしコルクの酸素の透過量という点では色々な実験が試みられているので以下の表を参照としたい。

画像1

この表は少し小さいのでオリジナルで見たい人はこちらの論文から参照してほしい。

この論文では文献ごとに違う単位を使っていてわかりにくいが、ref欄の10番の引用がスクリューキャップ以外のコルクで全範囲的に実験している。

それで比較すると酸素の透過量は射出成型>押出成型>天然コルク>圧搾コルクとなる。

またスクリューキャップは違う文献ではあるが単位を月ベースになおしても圧倒的に酸素の透過量が少ないことがわかる。

この透過量だけでどのコルクを選択すべきなのかという議論は無意味なので、とにかくここでは酸素の透過量はコルクによって違い、その差は十分ワインの品質を変え得るものであるということを理解してほしい。

またボトルネックの酸素量も同様である。むしろこちらの方が重要かもしれない。

きた産業さんのレポートがかなりきれいにまとめられているので引用参照すると、

ワイン液面がコルク下20mmの場合、ヘッドス ペースのエア容積は約6cc、酸素の構成比を大気と同じ20%と考えると酸素 は約1.2ccです。
スクリューキャップ壜で入り味線が55mmとした場合、ヘッドスペースのエア容積は約16cc、酸素は約3.2ccにもなってしまいます。

とある。

先ほどの表からコルクでの月の透過量が0.5mg /Lほどであると考えると、この酸素量がいかに多いかということがわかるかと思う。

また溶存酸素濃度もこちらの記事
赤ワインはボトリング時に1.25mg/L以下、白ワインなら0.6mg/L以下であることが望ましいとされているので、コルクの透過量にして1か月分以上の影響はあるということになる。

これを減らすにはボトリングラインのガス充填といった話がでてくるが、筆者自身見たことがなく、詳細を言及できないのでここでは割愛する。

こういった要素がワインと酸素の接触量を規定しており、その酸素量と化学物質の濃度が瓶熟成に大きな影響を与えることとなるのである。

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