香り物質

香りを感じるメカニズム


香りは嗅覚によって感知されているのは皆さんご存知だと思います。

この嗅覚は味覚や触覚などと同列の五感に分類されますが、どうも軽視されています。

そのため嗅覚に関しては味覚以上に研究が遅れていると言われているのですが、現状でどういったことが香りの世界にあるのだろうと思い調べてみました。

私自身も香りを意識する機会なんてほとんどなく、ワインのことを学び始めてから少しずつ意識するようになった程度のものなので、色々と学ぶべきことが多いトピックです。

それはそうと以前本の読み方として

本を選ぶ目的があって、その目的に対する答えやそこから出てくる新たな疑問があって、その流れを追いながら書き出すことで定着を図るといった話がありました。

今回はそれの練習も兼ねて、香りを感じるメカニズムはどうなっているのか?
というところを知るべく『香りの科学』という本を手に取りました。

香りとは?

「香り」は「匂い」とも「臭い」とも表現され、「臭い」はしばしばマイナスの言葉として用いられます。

この香りの元となるものは言わずもがな化学物質です。

特定の化学物質が私たちの嗅覚に作用することで、私たちは香りを感知します。

この化学物質の中には濃度によって感じ方が大きく変わるものもあったり、もちろん無臭のものもあったりします。

多くの香りを表現する言葉は、他の感覚の言語からの借用であり、様々な表現があります。
具体的な「モノ」を表現として使うことが多いのがワイン業界ですが、香りの世界ではさらに多くの形容詞が用いられているようです。

例えば、「柔らかい」とか「堅い」といった触覚寄りの形容詞や「明るい」や「暗い」といった視覚寄りの形容詞などもあります。

そのため香水などの世界の香りの表現はワイン以上にかなり多彩で、ワイン業界でもこういった香りを表現として用いることができれば香りの解像度が上がるような気がします。

香りの解像度が上がれば、品種香にしても醸造由来の香りにしてもより深く突き詰めることができると感じました。

つまりワインに関わる人は香水業界レベルの香りの解像度を持ち、料理人と同程度のレベル感の味覚の解像度を持つことができれば理想になるということかもしれません。

少し話は逸れますが、最近見かけた近代五種というスポーツ競技があります。

これは馬術やフェンシング、水泳など5種の競技を1人でこなし、その総合的な評価で順位が決まるというものらしいです。

そしてその競技の選手は、各々の競技におけるトッププロと共に練習をこなしていくということを言っていました。

もちろんその競技の専任のトッププロには敵わないとは思いますが、そういう環境下で鍛えられることが総合力を引き上げるのだろうと思います。

それがワインであれば4種競技だと思います。

「香り」と「味わい」の2種に加えて、「ワイン」そのものに関する研鑽と「科学」に関する知識が問われます。

そのいずれをもバランス良く伸ばす必要があるのでしょう。

かなり話は逸れましたが、そういう経緯もあり、個人的には「香りをデザインする」という学問に貯金が溜まり次第そこに投資しようと思いました。
気になる方はこちらから。


香りを感じるメカニズム


ここからが本題です。

香りを感じるメカニズムは分かっていない部分も多いとのことですが、分かっている範囲の部分で本に記載があった部分、その後抱いた疑問点などについてです。

この説明には画像があったほうが分かりやすいと思うので、日本デオドールさんから画像を拝借してきました。

空気を介して香りの分子が粘膜に達したら、その分子は溶けることになります。
粘膜の組成は大部分が水になるので、分子の親水基が主に粘膜に付着することになります。

その分子が嗅毛にある受容体に結合することで嗅細胞に影響を及ぼします。

その受容体に関する模式図は論文から拝借してきました。

この論文はムスク香に関する認識のメカニズムなのですが、概要は大方他の香りの認識メカニズムと変わらないみたいです。

そして下の画像の上部の分子が香り物質でORがその受容体になります。

この受容体は他の受容体と比較して特異性(特定の物質としか結合しない性質)が低く数種類の分子と結合できるそうです。

そして複数の受容体が同じ香り分子と結合することで、反応する受容体の組み合わせによって感じる香りが変わるそうです。

そのため人間の香りの受容体の種類は300-400ほどですが、認識できる香り分子は5000~10000にもなるそうです。

それはそうと、その受容体と分子が結合すると、膜内のタンパク質で元々α、β、γと結合していたGタンパク質が乖離します。

その乖離した状態が上の図で、そのαを含むタンパク質がアデニル酸シクラーゼと結合することで、この酵素を活性化し、ATPからcAMP(環状アデノシン一リン酸)を作るそうです。

そのcAMPが膜のタンパク質リン酸化酵素を活性化することによるイオンチャネルの開放を担い、そのイオンチャネルからはCa²⁺が流入し、一方でそれに付随する形でCl⁻を流出させます。

それによって細胞内外のプラスとマイナスの濃度勾配を意図的に生じさせることになります。

そしてその濃度勾配は膜電位を生じさせ、その電位が神経細胞を介して脳へと達するそうです。

これは私にとっては目から鱗の情報でした。

私は今までほとんどのケースでブショネを感知することができず、ブショネに関する受容体を欠損しているのでは?という教授の話を鵜呑みにしていました。

それでも強度のブショネだとなんとなくわかるんですよね。

受容体が欠損しているという話であれば全く感知できないという方が理屈に合っています。

これは恐らく受容体と香りが1対1対応なのではなく、多対多の関係性だからこそ起こり得ることだと思いました。

しかしこれだけの説明では
嗅覚がすぐ疲労し、感知しにくくなるメカニズムについての説明が全くありません。
また濃度と感知の強度に関しての説明も不十分です。

そう言ったことも含めて、もっと色々と書きたいことはあるのですが、それが気になった方は是非ブルーバックス『香りの科学』という本を読んでみてください。

多少の基礎化学の知識はいるものの、高校レベルで十分対応できます。多少わかりにくいところがあってもそういうところは、深く考え込まず読み進めていけばいいかと思います。

ピュアな香りというのはどうやって生成されるのか、香りのタイプと分類はどうなっているのかなんていうことも書かれており、きっと貴方を香りの世界に連れていってくれることでしょう。

参照
ムスクの香りの認識メカニズム
日本デオドール株式会社様
「香り」の科学 匂いの正体からその効能まで


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