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赤ワインにおける抽出


再びヨーロッパに渡り早3日。
去年1年間フランスに居たというのもあり緊張感なくやっています。
そんな私は現在ドイツのガイゼンハイムという小さな街に滞在しております。

それはさておき落ち着いたので新たな記事の更新です。


赤ワイン造りには白ワインと違って果皮から成分を抽出する過程があります。

その過程では主に3つの手法を用いることがあるので、それを紹介しつつ利点と欠点、および実際の現場ではどう使っていくのかという話までできればと思います。

1. そもそも抽出って

そもそも抽出とはなにかというところから説明します。

発酵を行うタンクには破砕した果汁部分と果皮の部分が主に入っています。赤ワインの色素であるアントシアニン香りの前駆体、渋みの元となるタンニンは果皮に多く含まれており(厳密にはタンニンは種子にも多く含まれているが、種子のものは粗い渋みとして抽出は敬遠される)、それらは赤ワインであれば骨格として重要視されています。要はそれを作りたいワインのスタイルに応じてどれぐらい抽出するかということなのです。

そして抽出には物理的な破砕による表面積の増加であったり、果皮の長鎖の糖を分解するような酵素を用いることであったりと色々な試みがなされています。

その中でも今回取り上げる3つの手法は、①果皮を果汁の中に浸しておくこと、②酸素の供給を促すこと、③発酵タンクの中身を均一にすることというのが主な目的として行われるものです。

果皮を果汁に浸しておくことは、抽出の観点からだけでなく、酸やアルコールによる微生物学的な安定ももたらします。

酸素の供給はアルコール発酵(こちらは嫌気環境下)に重要な酵母の増殖を促します。というのも好気呼吸のほうが、エネルギー効率が良いので、細胞分裂や増殖に使うだけのエネルギーを得られるということです。

また発酵タンクは上層と下層で、温度、酵母の数、栄養分など様々な物質の不均一性がみられるので、それを改善するのがこの均一化です。

2. 抽出の3法

では3つの抽出法を紹介します。
1つ目は”Punch Down” (櫂入れ)

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これはタンクの上にたまっている果皮を、棒を使って押し込むという方法です。
果皮の量によっては人力では難しく、そのための機械があったり、この作業を行いやすくするための底の幅が広くなっているタイプのタンクなどもあったりします。
この方法の利点は時間が短いこと、コストがかからないことが挙げられます。

2つ目はPump Over(ルモンタージュ(日本では天地返しと言うそうです)

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こちらは先のPunch Downよりも液体の均一化という面で優位です。
酵母、温度、栄養(N)の均一化が見込め、また酸化させる具合も直接送るか、一度空気に触れさせるかといった調節が行えます。
一方できちんとCap(タンク上層に溜まる果皮の部分)全体に液を循環させることなどに気を使わなければならないので意外と不便な部分もあります。

3つ目はデレスタージュ

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これはルモンタージュに近いのですが、一度タンクを空にしてしまってCapの部分だけを残すという手法です。
そのあとに上から液を戻すことで全体の均一化や酸化を促すことができる。
この方法の利点は3つの中で一番アントシアニンやタンニンの抽出量が少ないということで、Gentle Processingとして認知されていますが、時間、空きタンクなどを要することからあまり行われていないと思います。

3. 実際の使い方

ではこの3つをどう使い分けるのでしょうか。
開放タンクや少量の果汁にはPuch Down有効でしょう。
時間や利便性の観点からこれを選択しているところが多いと思います。この方法も機械化され大きいタンクに対応できるようになってきています。しかしまだまだ普及していないので、大きいタンクでは残りの2つの使い分けをします。


まず基本的にはルモンタージュでいいのですが、その時は原則①50-60%の量の液を循環させる、②1日1-2回で十分な抽出ができるということを押さえておきましょう。

また発酵初期と中間期は、酵母に酸素を供給するという意味で、小さいコンテナに一度液体を入れ、空気に触れさせる方法がよく、それ以外のタイミングでは、直接ポンプにつなぐことで酸化の度合いを調節します。
しかしよく熟したブドウからできる赤ワインの発酵ではその限りではなく、酸化によるタンニンの縮合重合なども考えて意図的に酸化させるのも一手です。さらには篩をかますことで液が意図的に酸素に触れるようにするなどの方法も取られることがあります。

タンクや時間に余裕があるならデレスタージュを使うのも手ですが、抽出が少なくなること、酸化が促されることから超熟になりうるようなワインを目指して用いるのは難しいと言えるでしょう。しかし種部分を取り除けるというのは粗いタンニンの抽出を防げるので、初期に酸素の供給も兼ねて一度行うというのはありかもしれません。

ちなみに現場では横向きに置くことのできる回転式のタンク(Rotary Tank)や、果皮の多糖を分解する酵素を用いることによる抽出増(Pectritic Enzymes)や、一度高温に晒すことによる抽出増(Flash Detent)などの技術も発達してきています。

さらに将来的にはPEF (Pulsed electric fields)という技術で抽出の時短が見込まれ、発酵中は抽出に気を使わなくていいようになるといったことや、HHP (High Hydrostatic Pressure)という非破壊的に細胞だけを破壊し抽出増を見込む方法などが開発されてきています。

ワインはどこまで工業製品になっていくのでしょうか。
「技術」と「伝統」のおもしろい掛け合いがこれからも生まれていくでしょう。

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